連載
posted:2015.2.8 from:東京都台東区谷中 genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築
〈 この連載・企画は… 〉
地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。
writer's profile
Mitsuyoshi Miyazaki
宮崎晃吉
1982年群馬県生まれ。一級建築士。2008年東京藝術大学大学院美術研究科建築設計 六角研究室を修了後、2008年〜2011年㈱磯崎新アトリエに勤務。現在は、東京藝術大学建築科教育研究助手の一方、HAGISTUDIO主宰、HAGISO代表を務め、東京、谷中の木造アパートを改修した施設HAGISOを拠点に、建築、会場構成、プロダクトのデザインを手がけています。
みなさんこんにちは!
vol.1、vol.2、vol.3、vol.4、vol.5に続き、
東京谷中の最小文化複合施設「HAGISO」について書いていきます。
これまでの連載でひたすらHAGISOの中のことを書き連ねてきましたが、
最終回にきてようやくw外に目を向けてみたいと思います。
2013年3月から始まったHAGISOも、まもなく丸2年が経とうとしています。
バタバタと駆け抜けてきた2年間でしたが、
HAGISOの第2フェーズとして、
より一層地域・エリアに還元できる活動をしていきたいと思っています。
これまでもまちの魅力を高めるような場所として存在できるよう考えてきましたが、
あくまでHAGISOの中での活動だった気がします。
しかし、そもそも谷中でこのような試みを始めたのも、
このまちのポテンシャルに惚れ込んだからでした。
谷中銀座商店街。現在でも八百屋・魚屋・肉屋などの小売店が元気な商店街。道の幅員の狭さが、人と人の距離も縮めている。
岡倉天心記念公園。東京美術学校(現・東京藝術大学)の設立に関わり、また日本美術院を創設した岡倉天心の旧居跡。
小さな小売店が点在し、各家の植木鉢が道を彩る、迷路のような路地。
まちの食料品店「みかどパン」の目印、ヒマラヤ杉の大木。元は植木鉢に入っていたというヒマラヤ杉が、みるみる大木になったという。樹下の民家を守っているようにそびえている。
海外でも人気の自転車メーカー「toykobike」の直営店は谷中にある。もともとは酒屋、伊勢五本店の築80年の建物。
これらはほんの一例ですが、これらの魅力的な場所がいまだに住み継がれていることに、
約10年住んだ今でも感動を覚えます。このまちに対して僕らは何が返せるでしょうか?
実は僕らが谷中で行ったプロジェクトはHAGISOが最初ではありませんでした。
2007年の夏、大学院在籍中に研究室のプロジェクトとして行った、
「MACHI-YATAI PROJECT」というものがあります。
全体構成ダイアグラム。路地を7枚の暖簾で仕切る。
これは谷中にある路地を、一時的な設え(MACHI-YATAI)を用いて
展示空間に変換するプロジェクトです。場所はお寺の私道で、車も入れない細い路地です。
道の真ん中に木が立っていたり、今も水が出る井戸などがあります。
ただでさえワクワクして面白い場所ですが、
この一本の長い路地を「暖簾」で分節させ、その間に作品を設置することで、
一連なりの展示空間とするものです。
普段周辺にお住まいの住民の方の日常的な通路が、暖簾を設置するだけで一変します。
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お寺の横に路地への入り口。
東京藝術大学の工芸科協力による染色した暖簾。
暖簾と暖簾の間の空間に作品が設置されています。暖簾をくぐるごとに、次々と空間が現れていきます。
子どもたちは大はしゃぎ。
最後には井戸水を貯めた足水に浸かることができるお風呂を用意。真夏だったので、束の間の涼を取ることができました。
このプロジェクトを行うにあたって、
実際にお住まいの方がいらっしゃる空間に突拍子もなく暖簾を下げるわけですから、
各住居に訪問してご挨拶したり、毎日新聞配達するお兄さんに説明したり、
住んでいた萩荘のオーナーのお寺さんにことあるごとにお願いに伺ったりと、
多くの調整を必要としました。
しかし、このプロセスを経て、障害をひとつひとつ乗り越えることで、
プロジェクトに関連する人たちの関係性がより綿密なものとなり、
成立する特別さを感じることができるものになったと思います。
このように魅力満載で意識の高い住民の住む谷中ですが、
これで今後も放っておけば安泰かというと、そういうわけでもありません。
ここ数年のあいだにも、谷中の魅力ある場所は失われていっています。
特に、銭湯や工場などの比較的大きな敷地面積の建物は存在するだけで大きなお金がかかり、
それだけにより維持していくことが難しいといえます。
しかしこれらの場所こそがまちの風景や景観を形成するシンボルとして、
より大きな公共性を帯びています。
当たり前ですが、築100年の建物を作るには100年かかるわけです。
古くて価値がないと思われていた建物も、見方を変えれば特別な場所に見えてきます。
どこにでもある木造アパートでさえ、
HAGISOのように生まれ変わる可能性を秘めているのですから、
すでに魅力的な古い建物がさらに魅力的にならないはずがありません。
まちのシンボルとして何十年も親しまれてきた建物が失われていく状況を変えていくには、
まず、多くの住民の方に少しずつ、
このリノベーションの力を実感してもらうことが必要だと思いました。
そこで、2014年8月、谷中の課題を谷中で考えるワークショップ、
「HAGISO Summer Camp 2014」が行われました。
まずは谷中のイントロダクションツアー。
レクチャーもギャラリーで行われます。
今回は谷中に2013年まで建っていた「のこぎり屋根工場」を題材に、
どのような可能性があるのかを学生12名と一週間かけて試行錯誤しながら考えました。
地域・経済・文化など各方面のゲスト講師によるレクチャーや、
プレゼンテーションにむけた資料・模型製作を全てHAGISOのギャラリー空間で行います。
カフェからはワークショップの過程が常に見渡せます。
コーヒーを飲んでいるすぐ横でカッターや接着剤を使ってせっせと作業しているわけですw。
これによって、常連さん、初めてきたお客さんなど、さまざまな人の興味を呼び込みます。
模型製作。
最終日の講評会の様子。
3グループに分かれ提案を発表しました。
最後は皆でのこぎり屋根ポーズ。
最終日には谷中の町内会長さん、お寺の和尚さん、政治家さん、お母さん……と、
職種も立場もバラバラな方たちにゲストとして参加いただき、
学生が研究成果をプレゼンテーション。闊達な議論がなされました。
議論をしているだけでは仕方がありませんが、
少なくともこのような課題を開かれた場で行うことで、
まずボールが投げられ、続いてそれに対するリアクションが生まれます。
これによって自分たちの立ち位置も明確になり、
次のアクションの種になっていく気がしています。
そこで、HAGISOが次なるステージに向けて、考えていることがあります。
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僕の旅先での経験がアイデアソースになっています。
以前観光でイタリアを訪れた際、宿泊予約をしたホテルでのことです。
指定された住所の建物へ向かうと随分と狭い玄関を通って受付があり、
まずはそこでチェックイン。その後、部屋へと案内してくれましたが、
ホテルのスタッフについていくと、まずそのアパートを出てしまうのです。
スーツケースを引きながら町のなかを歩き、何度か角をまがると、
また別のアパートの中に入り、その中の一室が、僕が泊まる宿泊室でした。
通常の大きなホテルとは違って、華美な設備はありませんが、
スタッフの方は、まちのおいしいレストランやショップを教えてくれます。
地元住人たちに交じり地元の店へと通う日々は、
そこに住んでいるかのような滞在の経験を得ることができました。
この宿があったのは都市部でしたが、
イタリアの地方部では、「アルベルゴ・ディフーゾ」と呼ばれるシステムがあり、
過疎化が進み空き家の増えた村落が村のレストランなどを受付として、
空き家を宿泊室として利用しているそうです。
このシステムでは、管理を集約しつつ、
村に点在する空き家を宿として気軽に貸すことができます。
同時に宿泊者は土着的な住居に滞在することができ、
その土地ならではの宿泊体験を得られるというわけです。
このあたりのことについては、
島村菜津著 「スローシティ」(光文社新書)に詳しく紹介されています。
HAGISOの新しいプロジェクトとして、
「アルベルゴ・ディフーゾ」のようなまちごとホテルにする計画を考えています。
HAGISOをレセプション・ロビーとして、ホテル機能の核とし、
朝のカフェでのモーニングや、夜はラウンジとして旅行者同士の交流の場として機能させます。
宿泊室は町の中に点在させ、まちに住むように滞在できます。
大浴場は銭湯、晩ごはんはまちのレストラン、お土産は商店街で買い、
自転車屋さんでレンタサイクルする……など、まち全体が一つのホテルになるという構想です。
一体型のホテルとはまた別の魅力をもった滞在の新たな選択肢になると思います。
まち=(イコール)HOTELのダイアグラム。
宿となる建物の諸条件、住民の方との共存など、越えなければならない問題も多くありますが、
宿泊を通してよりまちの価値を共有する人が増えることで、
より多くの人に愛される町になるのではないかと考えています。
現在HAGISOの近くの空き家を改修し、
このような宿泊施設の第1号とする計画を進めています。
第1回から書いてきたように、僕にとっては東京という都市が、
すごく平べったい場所になってきている気がします。
どのまちにも同じような「最新の」開発が施され、
購買意欲を刺戟するための設えで満たされ、大きな箱に閉じ込める。
人は建物に自発的に暮らすというよりは、効率的に収納されているように見えます。
均質な都市性は、その建築物の垂直性とはウラハラに平べったく思えるのです。
我々は最小文化複合施設を謳っていますが、
同時にその批評の矛先は独善的に閉じていく複合施設にあるのかもしれません。
東京という都市の魅力を保っていくためにも、
さまざまなスケール、文化をもった都市の奥行きが必要だと思っています。
その一端をHAGISOがもし担うことができたら、少しは意義があるかなと思っています。
ということで、今回でcolocalでのHAGISOの連載は終了となります。
毎回記事を書くということには結構苦労しましたが、
このような機会をいただけて、自分自身の考えも整理することができました。
編集部の塚原さんには毎回拙い文章を校正していただき、大変お世話になりました。
全6回の連載にお付き合いくださいましてありがとうございました。
谷中にいらしたときは、ぜひHAGISOをのぞいてみてください。
information
HAGISO
住所:東京都台東区谷中3-10-25
TEL:03-5832-9808
営業時間:カフェ12:00〜21:00 (L.O. 20:30)
http://hagiso.jp/
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