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ビルススタジオ vol.06:
大谷石の倉庫群にオープンした
ニュースポット
「porus(ポーラス)」

リノベのススメ
vol.021

posted:2014.3.8   from:栃木県宇都宮市  genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。

writer's profile

Taisei Shioda

塩田大成

しおだ・たいせい●栃木県宇都宮市生まれ。株式会社ビルススタジオ代表取締役。建築設計そして不動産のみならず、界隈のデザインを含め、「場所づくり」を生業とするが、実はただの物件好きで貧乏性のお節介さん。
http://www.met.cm/

ビルススタジオ vol.06
大谷石の無骨な空間に惹かれ、始まったこと。

ある日、「分譲地開発断られたから、あとはよろしく〜」
と住宅メーカーに勤める知人から連絡が入りました。
なんという無茶ぶりだ、と憤りつつ、
ひとまず現場へ向かいました。
場所は宇都宮市街地からちょいと外れた下川俣町というエリア。
住宅や田畑が入り混じる、ちょっとした郊外。
こんなトコにあるのはせいぜい昭和終盤の無味乾燥な量産型風景だろうなぁ……と
車からロードサイドを眺めながら、あまり期待はしていませんでした。

すると、なんと、そこには、
宇都宮市名産の大谷石でできた倉庫たちが3棟。
正確には鉄骨造で大谷石は壁材として積み上げられた建物ですが、
ひとつの敷地をL字に囲むように配置され、3棟3様の佇まい。
その面白さに静かに小躍りし、喜びを隠せませんでした。

見上げると、無骨な鉄骨トラス梁、木組みの屋根下地、そして大谷石。

こりゃいい。
3棟にはそれぞれふたつずつシャッターがついていて、
それぞれ分ければ6戸のお店が入りそう。
入口には大きな庇(ひさし)が飛び出ているので、
店舗のエントランスからはぞれぞれの風情を見せることもできそう。
この敷地がひとつのショッピング街のようにできるんじゃないか。

既存全景。ちょっと古めの倉庫街。もちろん人の気配がありません。

しかし、そもそもここはただの倉庫。
お店をやるのに不可欠な給排水の配管が通っていない。
そこを入居者さんに負担してもらうのはハードルが高すぎる……。
ということでその場でざっとプランを描き、見積もりを出し、大家さんを説得。
「あ、いいんすか」
不思議とすんなり受入れていただけました。

それなら、出店募集をかけるしかありません。
無限大倉庫」と銘打ち、募集開始。
無限大と名付けましたが、今なにもない状態ってコト。
倉庫をお店にするには給排水だけでなく、
造作や電気、エアコン、さらには出入口のドアさえなく、
すべてを入居者さん負担でつくり上げなくてはいけません。
伸びシロは無限大とは言え、
そんなハードルの高い物件に人は来てくれるのかという心配はありましたが、
とりあえず情報を出してみないとわからない。
そもそも不安よりも、“この敷地の雰囲気が好き”という思いを共有し、
入居してくれる方々がどのような人なのか。
さらにその方々がどんなご近所関係を築いていくのだろう、
という好奇心のほうが先に立ちました。

公開直後、なんと、最初の入居者さんが決定してしまいました。

美容室の開業をしたいと、当社に物件相談に来られた高橋さん。
なんとなく、趣のある物件を求められていて、
通常のテナント物件では物足りなさを感じていました。
この時点ではまだ人気(ひとけ)もなく、
隣にこれからどんな人が入居するかもわからないこの物件を
ひと目で気に入って入居を決めてくれました。

しかしここのやり方は、すべての入居者が決まらなくても、
大家さんが全区画分の給排水引込み工事を出資する、というもの。
工事関係上、まだ他の入居者が決まらないうちに全入居者分の用意をしなくてはなりません。
高橋さんには他のスペースの入居募集にも協力いただくことを約束いただき、
さらに大家さんとの顔合わせを経て、無事賃貸契約となりました。

元の倉庫に戻した状態を高橋さんと確認。「もう、これで既にいいじゃん」の声も……。

いよいよ、リノベーション工事。
まずは後から設置されてしまっていた、いらない外壁材などの仕上材は撤去し、
もとの大谷石倉庫の状態に戻しました。
この区画にもともとあった事務所小屋は再利用し、バックヤードに。
さらに、高〜い天井を生かして、ロフトスペース(!)に。
内装は基本的に大谷石むき出し、鉄骨むき出し、屋根下地むき出し。
しばらく放っておかれていた倉庫は石の細かい穴にもホコリや汚れが溜まり、
これは高橋さん自ら洗浄。
大谷石の粉末も混じり、茶色いどろっどろの水が流れ出ていました。
事務所小屋の外壁には倉庫っぽいスレート波板(外壁材)が貼られ、
それらを高橋さん自ら塗装。

高橋さん自ら塗装。上手。さすが手先が器用でないと務まらない職業です。

手間は結構かかりましたが、仕上がりは見事、
無骨な大谷石の倉庫に、ただ美容機器や家具が並べられただけのシンプルな空間は、
高橋さんのアジトのような雰囲気に。
無垢な鉄板でできた看板も設置し、美容室「NEAT」がまずOPENしました。
それが2013年4月のこと。

美容室「NEAT」。緑色スレートの壁が存在感あり。ロフトへの階段が気になります。

ここから一気に入居者さんが集まり、
半年後の11月にはなんと全区画5店舗がOPEN。
ラインナップは
 A区画:南米料理「Sandy’s café」
 B区画:美容室「NEAT」
 C区画:家づくりショールーム「楽暮」
 D区画:セレクトショップ「Hobow」
 EF区画:創作和食「kissako」

セレクトショップ「hobow」。日々、オーナー北條さんの仲間たちがここで輪をひろげてゆきます。

いやいや、店のタイプもみごとにバラけました。
しかし皆さんに共通しているのは、
この大谷石倉庫群の雰囲気に惹かれ集まってきたこと。
聞けば、まだ見ぬ他区画の入居者さんが決まったとしても、
なんとなく自分の店舗は世界観をくずされずにいける、
との確信が皆さん共通にありました。
ここの雰囲気が好きな人がどうせ入るんであれば、
ヘタなことにはならないだろう、と。
現にその通りに、それぞれの店舗がこの大谷石倉庫を
好き好きにリノベーションし、居心地の良い場所をつくりあげていました。

立地や値段だけではなく、“同じ好み”を理由にひとつの場所に人が集まる。
ショッピングモールのように詳細に計画されて集まったわけではなく、自然発生的集合。
そうしてできた場所は関係性もうまくいくんだろうな、と思います。

南米料理「sandy’s cafe」開店前。うってかわって木調。暖かい雰囲気です。

創作和食「kissako」のオーナー高橋さん(右から2人目)とスタッフの皆さん。ここは2区画繋げています。

さて、こんないい場所になったのであれば名前を付けなくてはいけません。
大谷石の性質のように多孔質、穴だらけ、
つまりは吸収性が、吸引力があり、
その穴を人や出来事で埋めていける余地で溢れている場所、という想いから
「porus(ポーラス)」と名付けました。

ばらばらに集まってきた個性ある店舗たち。
そして各店舗の個性あるファンの人たち。
それらが隣近所という関係性をつくりながら
porusという余地だらけの場所を舞台に生かされてゆく。
宇都宮市にまたいいエリアができてきましたよ。

information


map

ビルススタジオ

住所 栃木県宇都宮市西2-2-24
電話 028-636-5136

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