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里山を悩ませる「負の連鎖」とは?
「ミツバチの楽園」づくりで
土地を再生させながら考えたこと|Page 4

暮らしを考える旅 わが家の移住について
vol.028

Page 4

「負の連鎖」を断ち切らないとどうなる?

先日は作業をしていたら20匹ほどの猿に囲れました。
狸がすぐ近くまでやってきたこともあります。

野生の猿軍団に囲まれたのは初めての経験。

下田だけでなく農家の高齢化、後継者不足、
そして耕作放棄地の増加はどの地域でも起こっている問題です。
この土地のように、集落から離れた耕作放棄地は
鹿や猪、猿たちにとって絶好の棲み家になってしまうようです。
そうなると近隣の農地の獣害が
さらにひどくなってしまうこともあるといいます。

現に、ここのふもとの集落の畑では、以前は出なかった鹿が
昨年の夏から頻繁に出るようになりました。
タイミングを考えても、この土地がしばらく耕作放棄地となっていたことと
無関係ではない気がします。

そうなると、農家は獣害対策に追われ疲弊してしまう。

さらに耕作放棄地が増える。

さらに獣の棲み家が増える。

そしてさらに獣害が……。

まさに負の連鎖です。

調べてみるとこれはデータなどからも言われていることでした(参考資料)。
実際に里山で獣たちの存在を身近に感じながら作業をしていると、
その「負の連鎖」を身をもって実感します。
では、この「負の連鎖」を断ち切らないと日本の農業はどうなるのか? 
日本の食料はどうなるのか? 日本の里山はどうなるのか?
とても深い問題です。

後継者がおらず、しばらくは耕作放棄地となっていた果樹園を
養蜂家が借り受ける。
果樹園を養蜂家が引き継ぐというのはかなり特殊な事例なのでしょう。
たったひとつの特殊な事例といえばそれまでです。
でも、負の連鎖を断ち切るひとつひとつの動きが
大切なのではないでしょうか。

人手が必要な作業のときには鉄兵さんの協力者たちが来てくれます。中央の方は下田のまちなかで70年続くというバー〈ハーバーライト〉を引き継ぎ営まれている鈴木勝士さん。土木の仕事の経験があり、チェーンソーからユンボまで使いこなす頼もしい協力者です。

鉄兵さんのよき理解者、米農家でもあり林業も営まれている〈南伊豆米店〉の中村大軌さんも釜と米持参で来てくれました。新米をそこにあったみかんの木で炊き、このロケーションでいただくという贅沢。

地道な作業の繰り返しで枯れ木もなくなりました。
倒されて使えなくなった柵も撤去しました。
順調に作業は進んでいます。でも、まだまだ。
まだまだ、これからです。

花が咲き、果樹が実り、そしてミツバチが安心して飛び回れる
「ミツバチの楽園」。
それは半年や1年でできることではないのです。

この作業をするにあたり、僕は高橋養蜂から報酬をもらっています。
僕がこの作業を手伝うことで、いまのところ高橋養蜂に
利益をもたらしてはいません。
でも、鉄兵さんはなんとかやりくりしながら僕に仕事をふってくれます。

「ミツバチの楽園は夢ですから。
ひとりじゃできないので手伝ってくれて助かります!」

鉄兵さんのその言葉は、僕も含めて、仕事となると
目先の利益のことばかりを考えてしまう多くの現代人が
忘れてはいけない大切なことのような気がします。
それが「負の連鎖」を断ち切るひとつのヒントなのではと感じています。

いままで東京でいろんな仕事をしてきました。
でも、こんなにわくわくする仕事はなかったかもしれません。
石積みでも柵設置でも何でもやったる!
いま、そんな気持ちです。

鉄兵さんを通じて知り合った生産者の方々を招いて忘年会をしました。せっかく生産者が集まる宴なので、それぞれの生産物を持ってきてもらい、それを妻が料理してお出ししました。〈ひらたけのクレソン〉のトマト鍋、伊東産自然栽培大根のソテー。妻の自家玄米酵母パン(玄米酵母は大軌さんの玄米でおこしています)には高橋養蜂のハチミツとともに。締めは南伊豆米店の玄米に大根の葉っぱのふりかけ。酒は同じく南伊豆米店の米からつくった〈身上起〉。東京で暮らしていた時には味わえない贅沢な宴でした。

information

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高橋養蜂

住所:静岡県下田市箕作787-1

TEL:0558-28-0225

Web:http://takahashihoney.net/

文 津留崎鎮生