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この日は雲ひとつない気持ちのよい快晴。
青空の下、総勢10人で賑やかに食卓を囲みました。
澄み切った空気のなか、みんなで一緒に食べるごはんは格別で、
それだけで本当にぜいたくな時間です。
美杉に来てまず感じるのは、東京と空気が違うこと。
無色透明で、何もひっかからず、すっと体の奥にしみ込んでいくような空気。
それを体いっぱいに吸い込むと、
「いよいよここでの生活が始まるんだ」という実感が湧いてきて、
身の引き締まる思いと新たな暮らしへの期待に包まれました。
翌日、娘が急に発熱。
38度台をいったりきたり、涙を流し、かなりつらそうな様子。
私はこういう状況にとても弱く、すぐに動揺してしまいます。
東京では車で10分のところに娘を出産した総合病院があり、
救急の受け入れもしているので、
不安になると診てもらうようにしていました。
けれど、ここから救急病院までは30分以上かかります。
いつもと違うその条件が、私を不安にさせるのです。
「本当に病院に連れていかなくていいのかな」と夫に聞くと、
「風邪だと思うから、寝かせてあげるのが一番だと思うよ」という返事。
本当に大丈夫なのか、何かあってからじゃ遅い……。
「病院で検査だけでもしたほうがいいんじゃないかな」
そう姉に話すと、「どう見たって風邪でしょ、大丈夫だって」となだめられ、
姉が娘の背中をゆっくりとなでてくれました。
こんな弱気な母親ではいけない……、もっとどっしりと構えなくては……。
そう思うものの、娘のつらそうな姿を見ていると不安で仕方ないのです。
どうにか早く治してあげたいと、
愛読している『自然療法』の本を開きました。
この本には、自然の恵みを利用した手当法や食事療法などが書かれています。
私は昨年から、筆者である東城百合子先生の料理教室に通い、
先生方から自然療法を教えていただいています。
数年前までは、我が家も市販の薬や病院で処方される薬を
服用していたのですが、いまはほとんど口にしません。
それこそ、頭痛持ちの夫はよくアスピリンを飲んでいましたが、
いまは梅干しをこめかみに貼っていますし、
胃弱の私は梅肉エキスに助けられています。
娘は咳がひどく、喉が赤く腫れ、胸からはぜーぜーした音が聞こえます。
気管支の症状には「レンコン治療」がよいと本に書いてあったので、
夫が近所の道の駅にレンコンがあるか問い合わせたところ、
置いていないとのこと。
考えてみれば、沼地でしか育たないレンコンは
どこでも採れるわけじゃないのです。
東京にいると、そんなことすら忘れています。
レンコンを入手するには、車を30分走らせて
最寄りの都市部のスーパーまで行くしかない。
フットワークの軽い夫が、すぐに買いに行ってくれました。
レンコンをすりおろし、絞り汁を何度かに分けて娘に飲ませます。
子どもが好む味ではないのですが、がんばって飲んでみてと
言い聞かせると飲み干してくれました。
東京の自宅ならば徒歩5分のところにスーパーがありますが、
これから住もうとしている太郎生はいままでの環境とはまったく違います。
レンコンを通して、あらためてそのことに気づかされました。
レンコン治療や梅干し湿布、里芋湿布などをしながらひと晩が過ぎ、
翌朝になると咳もだいぶ治まり顔色も回復し、
その日はいとこたちとテレビを見たりしながら、
家でのんびりと療養しました。