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三重で始めた暮らしで考えた、
大きな環境の変化と移住の難しさ|Page 4

暮らしを考える旅 わが家の移住について
vol.010

Page 4

本当の娘の気持ちを知る

翌日は姉家族が東京へ帰る日。
まだ本調子ではない娘も、腫れぼったい目のまま
玄関先でいとこたちを見送りました。
涙こそ見せなかったけれど、小さい背中は寂しい気持ちいっぱいに
包まれていて、私のほうが泣き出す始末。

その日は娘の寂しさをどうにか紛らわせようと、
押し入れに基地をつくってみたり、紙で工作をしたり。
娘も楽しそうにしていたのでほっと胸をなで下ろしました。
昨年末に太郎生の家で過ごしたときは娘の機嫌もよく、
はしゃいで踊りを披露してくれるほどでした。
きっと太郎生での暮らしに馴染んでくれるはず、そう思っていたのです。

娘が『ドラえもん』を見て、のび太君のママがつくっていたピーマンの肉詰めを食べてみたい! ということで、一緒につくりました。夏野菜のピーマンも近所では入手できず、30分離れた都市部のスーパーで購入。東京で暮らしていると、レンコンがどこで採れたものなのか、いま旬の野菜は何か、それをつい忘れてしまいます。旬に採れたその土地のものを食べる暮らしに一度回帰してみたい、そんなことを感じました。

翌日の早朝、むくっと起きた娘が

「いとこたちに会いたい、いとこたちの住む家に帰りたい」

と急に泣き出したのです。
夫が娘をひざに乗せてゆっくり話をしていると、
しだいに落ち着きを取り戻しました。

いとこたちと離れること、生まれ育った家を離れることは、
娘にとってはつらいだろう。
しばらくは泣いて過ごすかもしれない、それくらいの心構えはしていました。
けれどもその晩、寝ていたはずの娘が急に叫びだしたのです。
「イヤダー!イヤダー!」
そのひと言をただ繰り返し、身をよじらせて泣き叫びます。
抱きかかえようとしても足で蹴り、拒絶。
おそらくパニックになっている状態だったのだと思います。

その状態がおそらく1時間近く続きました。
抱きかかえようとした夫の手を強く払いのけた反動で、
娘は私の胸元にすっぽりと収まり、
「もうわかったから、カホの気持ち全部わかったから、
もう大丈夫だから、心配しなくていいから」
そう背中をなでると、ようやく落ち着いて眠りに落ちていったのです。

こんな娘の姿を見たのは初めてのことでした。
あまりにもつらそうで、かわいそうで。
こんなにつらい気持ちを我慢していたのかと思うと、切なくて。
娘の気持ちに気づかず、ここまで進めてきた自分を責める気持ち。
こんなにつらい思いをさせてまで移住をするべきなのか。
移住をするのは自分たちのエゴなのではないのか。
自問自答しながら、涙が止まりませんでした。

寝息を立てている娘がいつもより小さく見えて、
言葉にできない感情が次から次へと湧いて、
しばらくのあいだ私も夫も黙って娘の寝顔を見つめていました。

「のど乾いたね、ビールでも飲もうか」

夫も私も同じことを考えていました。
いったん東京に戻ろう。
このまま進めることは、娘にとって負担が大きすぎる。

夫は天井を見ながら「さ、これからどうしようかね~」と、
うっすら笑みを浮かべていて、心が揺らいでいるのだとわかりました。

太郎生の家から見上げる満天の星空。