menu
記事のカテゴリー

ようやく家族3人そろって、
三重県津市での
お試し移住生活のはじまり|Page 4

暮らしを考える旅 わが家の移住について
vol.009

Page 4

仮住まいに初めてのお客さん

どうにかこの家でおとなしくしていようと考えていたのですが、
じっとしていられない症候群の僕と妻はちょっと人恋しくなってきてました。
といっても娘は出かけたくなさそうです。
自分の家と感じ始めたこの家にいたいようです。
そんな風に感じてくれていることは
前回の感じからするととてもうれしいことです。

といっても人恋しい僕と妻……。
そこで、いつもお世話になっている農家民宿〈なかや〉の岩田さんご夫妻に
この仮住まいにごはんを食べにきませんかと連絡を入れてみました。
岩田さんご夫妻についてはvol.4を
すると「宿に泊まりに来ているお客さんも
連れて行っていいかな?」との返事が。
お客さまに僕たちのことをお話したら興味を持ってくれたようなのです。
予想外の展開ですが、それはそれでおもしろそう、ぜひぜひ。

ということで、仮住まい物件に初めてのお客さんを
お招きすることになりました。
さあ、何をつくっておもてなしするか……。
近くの道の駅に買い出しにいったのですが、
時間が遅かったこともあり、あまり野菜は残っていません。
といってもスーパーに行く時間もなさそうです。
(スーパーまで往復1時間ほどかかるのです)

近所の方にいただいた大根もあるし、多少は食材のストックもある。
あるものでどうにかしてみようと。
妻は人を招いて食事をつくるのが好きで、
東京でもよく人を招いては料理をふるまっています。
そんなとき、とてもいきいきとしてます。(一番、幸せな時間だそうです)

仮住まいのこの家で、使い慣れないキッチンと
あり合わせの食材でのことなので、なかなか苦労してましたが、
それもまた楽しそうです。そんな妻を見て
娘も手伝いたくなったようで、一緒になって支度をしました。
なんだか家族で民宿をやっているみたいでワクワクしてしまいます。

そして、日が暮れたころ、岩田さんご夫妻と
宿のお客さんふたりがやってきました。
お客さんは兵庫の大学卒業間近の学生。
もうひとり、岩田さんがこの仮住まいの近所に住む方にも
声をかけてくれていました。
お客さんが5人、わが家が3人、総勢8人のにぎやかな会となりました。

地元の食材ばかりの鍋をつつきます。支度をしていて、あ、座布団がない! と気づき、岩田さんに座布団持参でとお願いしました……。人を招くのに座布団ないって……、モノも気も足りないです……。

道の駅で買った里芋を石焼きに。妻がお世話になっている料理家さんに教えてもらったつくり方で、石と里芋を入れた鍋をストーブの上で1時間火にかけるだけ。食べるときに熱々の皮を手で剥いて、塩をちょいとつけていただく。簡単ですがこれ本当においしいです。石は娘が庭で拾い集めたものです。

妻の料理も好評でお酒がどんどん進みます。
(酒呑みの妻のつくる料理は酒に合うのです)

そして、飲みだすと止まらない岩田さんご主人と僕は、
周囲から若干ひややかな視線をもらいながらも
トークがどんどんヒートアップ。
最後には、遺伝子組み換えがどうたらとか資本主義がどうたらとかという
ディープな話になっていた記憶があります……。

締めのごはんは大根の煮ものの煮汁で炊きました。妻の動きがまるで民宿の女将です……。お米は家主さんにいただいた、この物件に以前住んでいた方がつくっているお米。縁のある人がつくった食材ばかりです。

煮物の煮汁で炊いたご飯に、大根の葉っぱを混ぜて。妻のあり合わせの食材で料理する知恵に身内ながら感心してしまいます。

大いに盛り上がった宴も、日付が変わるころには飲む酒も尽き、
お開きとなりました。

お招きするというにはちょっと飲みすぎてしまいましたが(反省……)、
翌朝、片づけをしながら、家族でこんな風に宿をやったら
楽しいだろうなあと妄想が始まってしまいました……。

そもそもは、たまたま農家民宿なかやさんに泊まり
美杉に縁がつながり始めたことから、
仮住まい物件をこの地で借りたのでした。
なかやさんに泊まったことで随分と人生が変わりました。
そして、その宿を営む岩田さんたちをお招きした結果、
宿妄想が止まらなくなるというこの状況。

そんな人の人生を変えることもある宿を、
いつかはやってみたいなあと漠然とは考えていたのですが、
今回のことをきっかけに、より実感を伴って考え始めてしまいました。

その翌日、東京に戻りました。

東京の家族へのお土産は敷地になる柿、ゆず、かぼす、きんかん。「土」から「産」まれた果実たち。これこそお土産ですね。

娘もこの1週間の美杉での暮らしが楽しかったようです。
「山に住みたくない、東京に戻りたい」とまでなってしまった気持ちは
落ち着いたようです。よかった……。

ということで東京での残った用事を済ませて、
また、年明けから美杉で暮らし始めます。
前回は移住できるのか? と不安になったくらいでしたが、
その危機は乗り越えたのでしょう。

そして、暮らし始めたら、この仮住まいを拠点にほかの物件を探します。
仮住まいはとりあえず3か月間借りることになっています。
(すでに結構経ってしまいました)
3か月経つ前にほかの物件もいろいろと見て、
この物件を長く借りるかを判断したいのです。

初めての田舎暮らし、まだまだ何が起こるかわかりません。
わが家の移住、どうなることやら……。

写真・文 津留崎鎮生