Page 3
そして、心配していた娘の様子ですが、
やはり、両親揃っていることの安心感からかばっちりご機嫌です。
楽しそうにしてます。ほっとしました。
やっぱりわが家は3人揃ってなんぼなんだなと実感……。
その後何日かは、3人で敷地の奥のほうまで探検したり、
敷地になっている柿をとったり、近くを散歩したり、
家で鍋をつついたりと、のんびりと過ごしました。
その物件は立地的にも集落の最も山よりに位置するので、
夜は本当に真っ暗になります。月がまぶしく感じるくらいに。
そんな月や星を眺めようと外に出たときのことです。
ふと山のほうに気配を感じたので持っていたライトを
山のほうに照らしてみました。
ライトに照らされて光る目が十数個。
柿の木の周りに集まっています。
鹿? 猿? 猪?
どれもよく出没するとは聞いていたのですが、
こんなに近くにこんなに多くいるのかとちょっと驚きました。
熊は出ないとは聞いてはいたので、身の危険までは感じませんでしたが、
あらためて自然との近さを実感。
そして、ライトに驚いたのか、跳ねるようにして逃げていきました。
その動きからして鹿でした。
最初はたまたま遭遇しただけかな? くらいに思っていたのですが、
そんなことはなく、夜、外に出るたびに柿の木周辺に光る目があるのです。
こんな調子なので、周辺のどの田畑も厳重な獣害対策をしています。
美杉に住むある方が
「山に住ませてもらっているようなもんだから、しょうがないよ」
とおっしゃっていたのを思い出します。
ある日、柿をとって、
鳥につつかれて傷んでいたのを何個か落としておきました。
それを翌朝、見に行ったらすっかりなくなっていました。
鹿が食べたのかな? まあ、あれだけ柿の木の周りに
群らがっているのだから当然か……とも思いました。
ただ、柿はなくなっていましたが、辺りには鹿のものと思われる
ほやほやの糞がまるでお返しのようにこんもりと……。
最近、命の循環について思いを巡らすことの多い僕は、
こうして食べた実のなる木の周りに糞をお返しすることは、
循環という意味ではとても理にかなった行為なのではと感心してしまいます。
(自分の田畑の作物をとられてしまってお返しが転がっていたら、
そんな悠長なこと言ってられないのでしょうが……)
そんな鹿たちのお返しがあるから
人が何も手をかけなくても栄養たっぷりの土となり、
その土がこのおいしい柿を育んでいるのかもしれません。
本能的に循環の一部としての役割を立派に果たしている
けなげな鹿たちを見習って、この地でこの地になった作物をいただく以上、
なるべくこの地にお返しをしたいと思ってしまいました。
(なにより星空を見ながら、澄んだ空気をいただきながら
大地にお返しをするのはなんとも気持ちがよく、
循環の一部になった感が半端ないのです。
ちなみにこれは自分の主義でして、家族には強要しておりません……)
そんな風にのんびりと家族3人で何日か過ごし、
この仮住まいでの暮らしに少し慣れてきました。
娘もここでの暮らしを楽しんでいるようです。
この調子であれば、年明けからもう少し長いスパンで暮らせそうです。
今回は少しの期間でしたが、前回、移住から気持ちが離れてしまった
娘の気持ちを考えるとちょうどよかったのかもしれません。
そして、東京に帰らなければならない日が近づいてきました。