colocal コロカル マガジンハウス Local Network Magazine

連載の一覧 記事の検索・都道府県ごとの一覧
記事のカテゴリー

連載

今帰仁(なきじん)で手に入れた
家とカフェ、そして野菜
〈カフェこくう〉

ローカルの暮らしと移住
vol.015

posted:2016.6.8   from:沖縄県今帰仁村  genre:暮らしと移住 / 食・グルメ

〈 この連載・企画は… 〉  ローカルで暮らすことや移住することを選択し、独自のライフスタイルを切り開いている人がいます。
地域で暮らすことで見えてくる、日本のローカルのおもしろさと上質な生活について。

writer's profile

Tomohiro Okusa

大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

credit

撮影:松木宏佑

高台からの眺望は最高! 長居したくなるカフェをつくった夫婦

ちょっと不安になるくらいクネクネと山道をクルマで上って行く。
しばらくすると突然パッと開ける場所に出る。
山の上に分譲住宅地があって、まだすべては埋まってはいないが、
そのなかでも海を一望できる一等地ともいえる場所に〈カフェこくう〉がある。
沖縄っぽい雰囲気がありながらもモダンな建物が目印だ。

真冬以外は大きな窓も開け放して、風がよく通る。
海へ向かうカウンター席もあって、
たとえ家族連れでも横並びでそちらに座ってみたくなる。
それだけ、この眺望は格別だ。

自宅併設のカフェを夫婦で営む。

木で溢れる店内。

お店がオープンしたのは2012年。
店を営む熊谷祐介さんと友紀子さん夫婦は、2008年に沖縄に移住してきた。
まずは那覇の都心部に住む。でもそれは仮住まいで、長く住むつもりはなかったのだという。

「小さなお店をふたりでやりたいねと話していました。
でも土地勘がないので、まずは那覇に住みながら沖縄をすべて見て回ったんですよ。
南城市も読谷村もステキだったんですが、
やはりココ今帰仁村(なきじんそん)が気に入りましたね」と話す熊谷祐介さん。

カフェは自宅を隣に併設している。
当初は古民家に憧れていて、移築して住みたいと思っていた。
しかしなかなかいい物件もなく、
建築士さんに「沖縄は風も日差しも強いから、数年で古民家みたいになるよ(笑)」
と言われ、新築を建てることに。

とにかく抜けが最高!

実際に施工を担当したのは宮大工さん。
すでに沖縄にも宮大工は2社しか残っていないという。
建物は沖縄らしい工夫がつまっているものになった。
ボルトなどの金属は使わず、木だけで組み上げている。
家を建てる土地に小さな家を建て、
時間ごとの日差しを計算したり、沖縄の自然環境に合わせて親身になって教えてくれた。
だから土地を購入してから実際に建物が完成するまでに、3年かかったという。
建物は台風などで風に揺れて、どんどん締まっていくという。
台風のたびに強くなる建築なんて、なんとも沖縄らしい。

じっくりとていねいに。
沖縄時間なんてよくいわれるが、それは熊谷さん夫婦のリズムにも合っているようだ。
いまは少しずつ色の変化や味を楽しみながら育てている段階。
沖縄特有の強い風と日差しで、どのように経年変化していくのか楽しみだ。

かわいい色の瓦が目印。

次のページ
ご自慢のランチをいただきます!

Page 2

今帰仁村の食材でていねいにつくられるランチ

〈カフェこくう〉は、カフェといっても、
新鮮な野菜をシンプルにいただくランチが好評だ。
今帰仁村は沖縄本島のなかでも土壌が良いと言われていて、
那覇などでも、今帰仁産の野菜を使っている飲食店は多い。

「今帰仁村にある3軒の農家さんと契約しています。
料理を通じて今帰仁村の良さを伝えていきたいと思っているので、
なるべく近くの農家さんの野菜を使うようにしています。
毎朝、どこかしらの野菜が届きます。
ほしい野菜の種類を指定しているわけではなくて、それぞれの農家さん任せ。
だからメニューも必然的に日替わりになりますね」

和食で修業した熊谷さんの見事な包丁さばき。

その日に入荷した野菜によって、その日の献立を考える。
毎日考えるのは大変だが、
料理自体は野菜そのものの味を引き立てるようなシンプルな料理が多い。

「あまりこねくりまわさないで、蒸して塩だけとか、
オリーブオイルとシークワーサーでマリネとか。そんな調理法ばかりです」

野菜をなるべくそのまま食べてもらう。
それが〈カフェこくう〉の料理。それだけ今帰仁の野菜自体がおいしいってこと。

とにかくきれいでていねいにつくられる料理。〈カフェこくう〉を訪れたら、ぜひゆっくりと時間をかけて味わってほしい。

「じっくりコトコト煮る、ていねいに洗ってあげる。
そんなことで味に差が出るのかわかりませんが、野菜を大切に取り扱うようにしています」

沖縄の焼き物「やちむん」もたくさん揃っている。

こうしてつくられた料理は、
沖縄の作家がつくったお皿やグラスなどに盛りつけられる。

「やはり沖縄の食材には沖縄のうつわをあわせたいですね。
沖縄特有の色、そして力強さや土くささが表現できると思います」

ランチ前の仕込みで忙しい厨房を覗かせてもらった。
熊谷さん夫婦とスタッフの3人がせわしなく動いている。
でも荒っぽさはなく、切る、和える、煮る、すべての仕事はすごくていねい。
おいしい野菜を大切に調理したいという気持ちがそこに表れているようだ。

取材した日のランチ。

この日のランチセットの献立
・春菊ともやしに、豆乳で白ゴマをペースト状に伸ばして和えたもの
・セロリ、レンズ豆、トマトをシークワーサーとナンプラーでマリネに
・ブロッコリーとネギ油の泡盛酒蒸し
・ホウレンソウとしめじの白和え、アーモンド入り
・大根と島にんじんの重ね煮
・リーフレタスとはんだまのサラダ
・切り干し大根と昆布の煮物
・根菜のトマト煮
・セロリの葉と長命草のかき揚げ
・石垣島米のご飯
・みそ汁

根菜のトマト煮。

セロリの葉と長命草のかき揚げ。

6種類の野菜が乗ったプレート。

品目も多く、野菜たっぷり。
今帰仁の恵みをまるごといただいているような贅沢定食だ。
春は野菜がたくさんあるので、ドライトマトなどの保存食もつくり、
夏の野菜不足に備えるという。
旬の野菜を食べるのはもちろん、気候に合わせた工夫で、暑い沖縄の夏を乗り切る。

オープンキッチンになっているので、ちょっと覗き見。

今のところは、子育てが一番大切。
お店も無理せず、学校の行事があるときは、休むこともある。

「生活のなかにお店があるという位置づけです」と熊谷さんは言う。
「太陽の光で目覚める、カーテンなんてない状態。
それで子どもたちも日の長さが変わることを認識したりしています」

熊谷さん夫婦は、今帰仁村に来て、大切にすべきものをあらためて認識した。
それによってライフスタイルも変わってくる。
店名の「こくう」は「穀雨」から取られている。
二十四節気のひとつで、雨が多く降る4月20日ごろの、穀物が育つのを助ける雨。
そんな場所でありたいという思いが込められているのだ。

わざわざ車で山を登っていって、のんびりとした時間を過ごしたい。
きっと自身にとっても雨になって、次への活力が沸くだろう。

あざやかな野菜の色に、食も進みそう。

information

map

カフェこくう

住所:沖縄県今帰仁村諸志2031-138希望ケ丘内

TEL:0980-56-1321

営業時間:11:30〜

定休日:日曜・月曜

http://miyupapa2.ti-da.net/

Feature  特集記事&おすすめ記事