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新生活のはじまり

森のまち智頭町子育て日記
vol.001

posted:2015.8.6  from:鳥取県八頭郡智頭町  genre:暮らしと移住

〈 この連載・企画は… 〉  鳥取県南東部に位置する八頭郡智頭町。
森林に囲まれたこの小さなまちに、家族4人で移り住んだ一家がいます。
このまちで、どんな風に子どもたちが育っていくのか。普通の母親の目線から、その日常を綴ります。

writer profile

Aya Tanaka

田中亜矢

たなか・あや●横浜市生まれ。2013年東京から広島・尾道へ、2015年鳥取・智頭町へ家族で移住。ふたりの子ども(3歳違いの姉弟)を育てながら、マイペースに音楽活動も続けている。シンガーソングライターとしてこれまで2枚のソロアルバムをリリース、またバンド〈図書館〉でも、2015年7月に2枚目のアルバムをリリース。
http://ayatanaka.exblog.jp/

自然豊かな場所で子育てをしたい

主婦、ときどき歌うたい。
いまの自分をひと言でいえば、こんな感じかな? 
いたって平凡な生活を営むわたしに、連載のお話をいただいたときは、
正直自信がなく迷ったけれど、
「普通の読者と同じくらいの目線で、日常を綴ってほしい」というリクエストに、
思い切って引き受けてみることにした。
4歳の娘、1歳の息子、そして夫とともに始めた鳥取・智頭町での田舎暮らし。
出会った人々や、自然とともに暮らしながら、家族で成長していきたい。
そんなわたしたちの、これからの日々を伝えていきたいと思う。

10年近く前、東京に住んでいた頃。
いつだったか、地方を電車で移動しているときに、車窓から見える里山の風景に
「日本の景色って美しいなぁ」と心から思った瞬間があった。
以前はひとり旅というと海外が多かったが、
それから日本の地方をじっくり旅してみたくなり、
九州の友人の家に居候しながら数か月間田舎暮らしを体験したりして、
いつしか「東京を離れて、地方で暮らしたい」と思うようになっていた。
生まれ育ったのは横浜の住宅地だったけれど、その頃は自然もたくさん残っていて、
毎日、近所の裏山に出かけていっては雑木林のなかで遊んでいた。
それが一番、自分のなかに残る楽しい記憶だったからかもしれない。

結婚してからもその思いは変わらず、子どもができてからは、
自然が豊かな場所で子育てをしたい、という思いも加わった。
夫も東京生まれ、東京育ちだったが、やはり同じ気持ちを持っていて、
勤めていた会社に地方への異動願いを出したのが2年前。
初めて関東を離れ、広島の尾道へ家族で引っ越した。
そしてこの春、夫の転職を機に、
ここ鳥取県八頭郡智頭町に移住することになったのである。

智頭の美しい里山の風景。

智頭は鳥取県の南東部、鳥取市内からは車で30分ほどの、岡山県と接する山あいのまち。
面積の9割がおもに杉の山林で、「杉のまち」としても知られている。
移住する前、智頭に初めて家族で来た日のことは忘れない。
2月末、まだ雪も残っていて、冷たく透きとおった空気のおいしさと、
山から流れてくる川の水のきれいさに驚いた。
川沿いには田んぼや畑、ところどころに古い民家があり、
絵に描いたようなのどかな田舎の風景が広がっていた。

4月末、引っ越しの日は夜遅くに智頭に到着した。
夜空には、ここ何年も見たことがないようなたくさんの星。
朝、目覚めると、窓から流れ込んでくる澄んだ空気に、
引っ越しの疲れがすーっとどこかへ消えていくような感じがした。

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自然のなかで過ごす〈森のようちえん〉

引っ越し後、何日かお世話になったお家の庭には、山菜もたくさん生えていて、
5歳のHくんが「これはイタドリ、これはワラビ……」などと教えてくれた。
近所を散歩していると、畑仕事中のおばあちゃんに出会い、
畑に咲いているチューリップを見て「きれいですね」と話しかけると、
「あげようか?」と、何本か摘んでくださった。
田んぼや用水路には蛙がいて、子どもたちは捕まえるのに夢中。
4歳の娘は、初めて触れる蛙に目を輝かせていた。

おばあちゃんが摘んでくださった花。

娘は蛙を手にのせて大喜び。

蛙を捕まえるのに夢中な子どもたち。

智頭のことは、尾道にいた頃に知った。
日本では数少ない〈森のようちえん〉があることや、
麻の栽培を行なっていることなどで、友人たちの間で話題になることが多かったからだ。
何年か前、デンマークの森のようちえんを紹介しているドキュメンタリー番組を見て、
こんな園が近くにあったら……と思っていたわたしにとっては、
娘がちょうど幼稚園にあがるタイミングで、
智頭に来られたのは願ってもないことだった。
引っ越し後、さっそく家族で体験入園に参加した。

森のようちえんは、園舎を持たず、自然のなかで1日を過ごす園。
智頭町にある〈森のようちえん・まるたんぼう〉にも、
町内にいくつかの活動場所があり、毎朝、その日に行く場所を決める。
その日向かったフィールドは棚田の美しい新田集落のそばにある森。

それぞれのペースで、自由に遊ぶ子どもたち。

見ていてヒヤッとするような山の斜面をガシガシ登っていく子どもたち。
遊具やおもちゃがなくても、土や水や木や草花でいろんな遊びを思いついていく。
先生たちは見守りに徹していて、命の危険があるようなことをしなければ
「危ないよ」とは決して言わない。全員が一緒に行動をすることはほとんどなく、
それぞれのペースで、自分で選んだ好きなことをやる。
お弁当はお腹が空いたときに自由に食べる。
それでも子どもたちには社会性が育っていて、困っている子がいれば
声をかけたり助けたり、お互い誘いあってご飯を食べたり。
子ども同士が大人を介さずに、ちゃんとコミュニケーションをとっている印象。

斜面を登れない娘に手を差し延べる年長の女の子。

水温10℃の川で、素っ裸で遊び始めた男の子たちを見て、
娘も張り切って服を脱ぎ捨て、誰よりも長く水遊びしていた。

……そのせいなのか? 引っ越しの疲れが出たのか? 
その晩からひどい嘔吐下痢と40℃近い高熱に襲われ、
それが家族にもうつり、数日間はみんなでグッタリしていた。
いま思えば、新しい環境に合った体をつくるための調整期間だったのかな。
それも乗り越えて、ゴールデンウィーク明けに無事入園。
わが家の新しい暮らしが始まった。

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