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お米を育てる=哲学を学ぶ
〈いとしまシェアハウス〉の
発見だらけの田植えシーズン

糸島での自給自足の日々を綴った
―田舎暮らし参考書―
vol.006

posted:2018.6.26   from:福岡県糸島市  genre:暮らしと移住

〈 この連載・企画は… 〉  田舎へ移住を考えている人、すでに移住した人。
そんな方の、暮らしの参考やアイデアになるはずです。農業、狩猟、人とのつながり、四季のこと。
福岡県糸島で自給自足生活を営む〈いとしまシェアハウス〉の暮らしをお届けします。

writer profile

CHIHARU HATAKEYAMA

畠山千春

はたけやま・ちはる●新米猟師兼ライター。3.11をきっかけに「自分の暮らしを自分でつくる」活動をスタート。2011年より鳥を絞めて食べるワークショップを開催。2013年狩猟免許取得、狩猟・皮なめしを行う。現在は福岡県にて食べもの、エネルギー、仕事を自分たちでつくる〈いとしまシェアハウス〉を運営。2014年『わたし、解体はじめました―狩猟女子の暮らしづくり』(木楽舎)。第9回ロハスデザイン大賞2014ヒト部門大賞受賞。
ブログ:ちはるの森

1年で一番忙しい、田植えの季節がやってきました。

田植えは、〈いとしまシェアハウス〉で食べる1年分のお米を自給する、一大イベント。
6月上旬は毎日田んぼへ出るので、体力を使いきり、夜は気絶するように寝てしまいます。
よく働き、よく食べ、よく眠る! そんな日々が始まりました。

我が家の田んぼは機械を使わずに手で苗を植えるので、
時間とマンパワーをどれだけ確保できるかが勝負。

種籾から育った苗をとっているところ。これから田んぼに植えていきます。

種籾から育った苗をとっているところ。これから田んぼに植えていきます。

田舎暮らしはスローライフ、だなんていう声もちらほら聞いたりしますが、
この季節、ほとんど田植えにつきっきりで、ほかの仕事はほぼできません。
自然は1秒たりとも待ってくれませんし、雨が降れば強制的に1日お休み。
この日のためにスケジュールを空けたのに……なんていうこともざらにあります。

目の前に広がるは、広さ合計3反弱の田んぼ4枚。
1反は約992平方メートルですから、3反というと学校の体育館3つくらいの面積を
イメージするとちょうどいいでしょうか。

その面積すべて、かがんだ姿勢で苗を手植えしていきます。
想像するだけで腰、痛くなりませんか。

植え始めは、田んぼが果てしなく広く感じます。

植え始めは、田んぼが果てしなく広く感じます。

くるくる気まぐれに変化する梅雨のお天気を見越し、
余裕を持ってスケジュールを組まないと
この広大な田んぼの田植えを終わらせることはできません。

シェアハウスでは何度もミーティングを重ね、
自分たちはもちろん、近所に住む元シェアメイト、ご近所さん、友だち、お客さん……
代わる代わるたくさんの人が田んぼへ出てくれたおかげで
今年も無事、植え終えることができそうです。

お昼ごはん後の昼寝。

お昼ごはん後の昼寝。

田植えの繁忙期は6月ですが、その準備は4月からスタートしています。
種籾を水につけて発芽させ、田んぼに播いたのが4月の後半。
1か月以上ゆっくりと苗を育て、新芽が伸びて株分れするほどに成長したら、
それを田んぼへ植えていきます。

集落にある小さな田んぼから始まった我が家の稲作でしたが、
翌年からは地域の空いている棚田をさらに貸していただけることになり、
今は初年度の15倍くらいの広さを耕しています。

高齢化で増加する耕作放棄地の対策として、地域の人と共同で、空いた棚田をまちの人へ貸し出す棚田オーナー制度も始めました。

高齢化で増加する耕作放棄地の対策として、地域の人と共同で、空いた棚田をまちの人へ貸し出す棚田オーナー制度も始めました。

さて、田んぼの面積が増えるに従って、進化してきたのが「道具」! 
自作した道具を毎年改良することで、効率よく田植えができるようになりました。

田植えヒモ。

田植えヒモ。

そのなかでも特に活躍してくれるのが、田植えヒモ。
苗をきれいに整列させて植える道具なのですが、これがあると作業が一気にはかどります!

田んぼ4枚を植え終えるには、約2週間ほどかかります。梅雨のお天気に左右されながら、毎日休みなく田植えにいそしみます。

田んぼ4枚を植え終えるには、約2週間ほどかかります。梅雨のお天気に左右されながら、毎日休みなく田植えにいそしみます。

田んぼは1年に1度しかできないので、10年やっても試せるのはたったの10回。
そう考えると、先人たちが生み出した知恵や技術にあやかって
作業できることは、本当にありがたいです。

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お米と人間の関係性とは?

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お米はあえて人に食べられている? お米の生存戦略を考える

裸足であちこち動き回るので、足の裏が鍛えられます。

裸足であちこち動き回るので、足の裏が鍛えられます。

私は普段、昼と夜の1日2食ですが、
朝食べずに体を動かすと、お昼には胃の中がすっからかんになります。
そうすると、作業後に腹ペコで食べるお昼ごはんがおいしくて!

土鍋で炊いたほっかほかの炊きたてご飯、
お米を一粒食べるごとに、疲れ切ってからっぽになっていた体に
みるみるエネルギーがみなぎっていきます。
お米は体を動かす力の源なのだな、とあらためて感じる瞬間です。

田植えの合間に、軽トラごはん!

田植えの合間に、軽トラごはん!

おやつは毎年ご近所さんが差し入れしてくれる白玉団子。

おやつは毎年ご近所さんが差し入れしてくれる白玉団子。

その一方で、「お米を育てるために、お米を食べて必死に働く」
という私の姿ってなんだかとても滑稽で。
お米の視点から見てみると、もしかしたら人間は
一生懸命米を育て、米の“種の保存”のために働いてくれる
便利な生きものなのでは、と思うようになりました。

無我夢中で田植えをしていると、
“あえて人に食べられることで自分たちの種を残す”という
お米の巧みな生存戦略に、まんまと乗せられているような気がしてなりません。
私たちがお米を食べる限り、彼らの種が絶えることはないからです。

アフリカンミュージックを流しながら、ノリノリで田植え。

アフリカンミュージックを流しながら、ノリノリで田植え。

ただ、もしそうだとしても
これからも私は喜んで彼らの戦略に乗っていくつもりです。

人も動物も植物も、そうやって深く関わり合いながら生きているのだし、
田植えは大変だけれど、それ以上に得られる学びや哲学がたくさんあるからです。

裸足で泥の中に足を入れたとき、
何かが足元をすり抜けていく不思議な感触を楽しんでみたり、
小さな米粒が芯のしっかりした苗に育つ姿に感動してみたり、
稲そっくりに擬態する雑草のしたたかさに励まされたり、
風に揺れる稲を見て癒されたり。

青々と稲が大きく育った我が家の田んぼ

何より、こんなにおいしいものが食べられるんだったら、
お米の思惑に乗せられるのだって悪くない。

だから、今年もお米の種の保存のためにも
しっかりとお役目を果たしたいと思います。

我が家のお米さま、どうか元気に育ってね。

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今日のごはん

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今日のシェアハウスごはん

縁側に座ってぼーっとしていたら、庭の池に大好物のツガニがいるのを発見! 
大急ぎで捕まえて、プーパッポンカリーというタイのカレーにして食べました。
出汁がよく出て絶品なのです!

庭の池にいた大きなツガニ

プーパッポンカリー

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