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地元密着の材木店だからできること
大兵材木店の林洋見さん

いなべ、暮らしを旅する
vol.006

posted:2017.4.29   from:三重県いなべ市  genre:暮らしと移住 / 活性化と創生

sponsored by いなべ市

〈 この連載・企画は… 〉  ここには何もないから……、と言ってしまうのは簡単です。
だけどいなべ市には、四季を感じさせてくれる自然が贅沢にあって、
自然の恵みをたっぷり受けた人々の暮らしが息づいています。
そんな、いなべの暮らしを旅してみませんか?

writer profile

Ikuko Hyodo

兵藤育子

ひょうどう・いくこ●山形県酒田市出身、ライター。海外の旅から戻ってくるたびに、日本のよさを実感する今日このごろ。ならばそのよさをもっと突き詰めてみたいと思ったのが、国内に興味を持つようになったきっかけ。年に数回帰郷し、温泉と日本酒にとっぷり浸かって英気を養っています。

photographer profile

Yayoi Arimoto

在本彌生

フォトグラファー。東京生まれ。知らない土地で、その土地特有の文化に触れるのがとても好きです。衣食住、工芸には特に興味津々で、撮影の度に刺激を受けています。近著は写真集『わたしの獣たち』(2015年、青幻舎)。
http://yayoiarimoto.jp/photo/fashion/

木にまつわることのホームドクターとして

鈴鹿山脈の北部に位置するいなべ市では、
古くから木とともに人々の暮らしが成り立ってきた。
藤原町にある〈大兵(だいひょう)材木店〉は、そんな木と人間の営みをつないできた存在で、
材木店という名前ではあるものの、山から木を切り出す製材業から、
木造建築の設計・施工・リフォームまで幅広い業務を請け負っている。

「たとえば1枚だけめくれてしまった瓦を差し替えたり、
建具の立てつけが悪いと言われて見に行ったり。個人で所有している山の木や、
通学路で腐りかけている危険な木を切り出したり、
庭木が倒れているからなんとかしてほしいという依頼にも対応できるのは、
地域に密着しているからこそ。
木にまつわることのホームドクターみたいな役割を担っています」

と話す、林洋見さん。
家業として代々この仕事を受け継いできた大兵材木店の現在の社長は、
洋見さんの父・正廣さん。洋見さんと兄の雅樹さんは6代目にあたる。

「もともとは船材を扱っていて、この辺の山から切り出した木材でいかだを組んで、
員弁川を下って四日市まで運んでいたそうです。
建築を始めたのは、祖父の代からと聞いています」

いなべ市での伐採風景。(写真提供:大兵材木店)

一級建築士の資格を持つ林さんは、大学卒業後、
愛知の設計事務所で鉄筋コンクリートのマンションの設計などを行っていた。
しかしちょうどリーマンショックの煽りを受けていた頃で、
売れ残っているマンションがたくさんあるのに新築物件も減らないことや、
エンドユーザーの顔がまったく見えないことに違和感を覚えていた。

「新築は新築でもちろん大事だし、必要とされているのですが、
それよりも循環型に変えていくことが、僕らの世代がやるべきことのように思えたのです」

生まれ育った地域だからこそ取り組める、空き家対策

地域の空き家対策や古民家再生に興味を持ったのは、ごく自然な流れといえるだろう。
この連載で紹介している、廃屋になっていた古い旅館を
リノベーションした〈上木(あげき)食堂〉の設計・施工を担当したのも、林さんだ。

「最初は旅館を解体する依頼をいただいたのですが、
現在、上木食堂になっている道路沿いの棟に水場などがいい感じであったので、
『ここは残されたらどうですか?』と提案させてもらったんです。
そしたらタイミングよく、(オーナーとなった)寺園 風くんが
やりたいと手を挙げてくれて、うまくご縁がつながっていきました」

解体が終わったところ。(写真提供:大兵材木店)

旅館から食堂へのリノベーションは、「とてもやりがいがあった」と
振り返る林さん。旅館として使われていた時点ですでに修理を重ねていたため、
アルミサッシがはめ込まれているような場所もあったが、
そういう現代的なものはあえて取っ払い、解体した木製の建具などを再利用。

工事中盤。写真に写っているのは、休憩中のオーナーの寺園さんと、店長の松本耕太さん。(写真提供:大兵材木店)

天井を撤去し高窓を設けたことで、古い建物特有の薄暗さがなくなり、
明るく開放的な食堂になった。タイミングが後押ししてくれた部分は大きかったものの、
自分が提案した何気ないひと言に多くの人が賛同して、
結果的に地域活性化の拠点になるような場所が完成。
しかもその空間づくりを担うことができて、大きな手応えをつかんだようだ。

解体した旅館と切り離した部分に、破風板という材料を取り付けているところ。(写真提供:大兵材木店)

上木食堂は無事に、2016年11月にオープン。

少子高齢化や過疎化などにより、いなべにも空き家自体は多いのだが、
まったく知らない人に貸すことに抵抗があったり、
仏壇がそのまま残されていたりして、
空き家問題の解決にはまだまだ多くのハードルがあるのも事実。
しかしながら林さんは、地元で生まれ育った人ならではの縁を生かして、
こうした問題に取り組んでいきたいと思っている。

「空き家再生に取り組んでいるNPO法人は全国にもたくさんありますが、
いなべでも上木食堂でやったようなことをもっと仕組み化して、
継続していけるような組織がほしいですよね」

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地域の声をかたちに。

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使い方が無限に広がる、小屋という小宇宙

林さんは空き家対策や古民家再生のほかに、やりたいと思っていることがもうひとつある。

「以前から小屋という空間に興味があって、
小屋を使って何かおもしろいことができないかなと考えていたんです。
そのことをいろんな人に話していたら、実際に依頼してくれた方がいたんですよね」

その依頼者とは、上木食堂と同じ阿下喜(あげき)地区の、
古き良きまち並みが残る一角にある〈暮らしのシューレ〉。
呉服屋のなかにあるこのセレクトショップは、
東日本大震災で栃木県の那須から一時避難していた
いなべ出身の三浦みどりさんが、故郷の人とのご縁で2015年にオープン。
その際、大兵材木店が改装工事を請け負ったのだが……。

三浦さんによると、

「大兵材木店さんは、うちの息子が一時避難をしていた中学2年生のときに、
職場体験でお世話になったところなんです。私がお店を始めることになり、
林さんともいろいろ会話するようになったのですが、
オープンの少し前に『実は僕、やりたいことがあるんですよ』
と告白をされて(笑)。そのとき小屋の話を初めて聞いて、
だったらぜひうちでデビューしてよ! と小屋をつくってもらったんです」

暮らしのシューレに設置されている、林さんが手がけたかわいい小屋。

暮らしのシューレは雑貨を中心に野菜、焼き菓子などを扱っているのだが、
店内に遊び心のある小屋を設置したことで、
「お店のコンセプトである衣食住がようやく整った」
と三浦さんは実感したそう。お母さんが店内をゆっくり見たり、
おしゃべりをしている間、一緒に来た子どもが小屋にこもってお絵かきに夢中になったり、
店内でライブをするときは音響室になったりなど、
使う人のアイデアによっていろんな空間になっているのだとか。

「シューレは、ドイツ語で『学び』や『学校』を意味するのですが、
このお店がいろんな人にとって、
やりたいことを表現できる場になったらとてもうれしいですし、
そうすることで暮らしのシューレという店名にも、
フィット感がより出てくるのかなと思っています」と三浦さん。

。2016年9月オープンの林さんが手がけた桑名市のお店〈HAPPY MUFFIN〉。シューレでの小屋を気にってくれて、依頼がきたそう。(写真提供:大兵材木店)

地域の困りごとに細やかに対応する、老舗材木店の伝統を守りつつ、
空き家の可能性を探し、自分たちの世代が楽しめて、
誇りに思えるような場所づくりを目指す林さん。上木食堂や暮らしのシューレのような空間が、
林さんのような若い世代の手によってつくられていくことに、大きな意味があるのだろう。

奥さまの麻佑子さんは、娘の日和ちゃんを妊娠中に編み物に夢中に。今では〈Wacca〉という名前で、手づくりのニット小物を暮らしのシューレなどで販売している。

information

map

大兵材木店

住所: 三重県いなべ市藤原町大貝戸1562

TEL:0594-46-2020

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