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大分・農家民宿「雲中坂」前編

美味しいアルバム
vol.016

posted:2015.6.6   from:大分県竹田市  genre:暮らしと移住 / 食・グルメ

〈 この連載・企画は… 〉  フォトグラファー、津留崎徹花が、美味しいものと出会いを求め、各地を訪ね歩きます。
土地の人たちと綴る、食卓の風景を収めたアルバムです。

text & photograph

Tetsuka Tsurusaki

津留崎徹花

つるさき・てつか●フォトグラファー。東京生まれ。『コロカル』のほか『anan』など女性誌を中心に活躍。週末は自然豊かな暮らしを求めて、郊外の古民家を探訪中。

地元の方と一緒に食卓を囲む。

今年の1月に、コロカルの撮影で大分県竹田市を訪ねた。
以来、その魅力に強く引き込まれている。
澄み切った空気と満天の星空、雄大な九重連山、美味しい椎茸に豆腐。
それに、何と言っても地元の方々がとても温かくて心地がよい。
今回の旅だけではその魅力を味わい尽くせないと思い、3月に再び訪れることを決めた。

航空券とレンタカーを手配、さて宿泊先をどうしたものか。
せっかくならばホテルや旅館ではなく、地元の方と交流できるような民宿に泊まりたい。
以前、取材でお世話になった「まちづくりたけた」の子安史朗さんに相談をしてみた。
すると、最高のところがあります! と紹介してくださったのが「農家民宿」。
一般のご家庭で宿泊を受け入れているのだそう。
どんな出会いが待っているのか、期待に胸がふくらんできた。

3月中旬。
熊本空港から車を2時間ほど走らせると、農家民宿「雲中坂」に到着した。
「いらっしゃーい」と、張りのある声でお母さんが出迎えてくれた。
居間へおじゃますると、そわそわした様子でお父さんが待っていてくれた。

「よろしくお願いします」

照れくさそうに笑みを浮かべるお父さん、とても優しそう。
羽田野忠夫さん、あき子さんご夫婦。

ちゃぶ台のある広い居間は、どこか懐かしくてほっとする。

母「疲れたでしょ~」

東京からおよそ5時間の旅路。
たしかに疲れたけれど、ふと見るとちゃぶ台の上にはご馳走がずらり。
それを見たら、とたんに疲れが飛んでいった。

テツ「美味しそうですね~」

母「ごはんにしましょうか、ね」

はい。

農家民宿の魅力のひとつは、家主さんと一緒に食卓を囲めること。
(宿によっては、別の場合もあります)
地のものを使った美味しいごはんをいただきながら、
いろんなお話をうかがうことができる。
季節ごとに移り変わる農作物のこと、昔から地元で愛されている料理、
その土地ならではの食材や調理法。
一緒に食卓を囲むこの時間を通じて、地元の方の暮らしを垣間みることができる。
これが、旅をするなかで何よりも楽しく貴重な経験だと思う。

さて、今晩も食卓を囲んで

「いただきます!」

真っ先に目に飛び込んできたのは、つやつやとした椎茸の含め煮。
肉厚な椎茸にこってりと味がしみ込んでいて、なんとも美味しい。

母「これ、裏の山で採ってきたんよ」

ご自宅で椎茸を栽培してるなんて、さすがは椎茸の里、竹田市。
さてお次は、みずみずしい刺身蒟蒻に箸を延ばしてみる。

父「これ、わしが作ったんよ」

蒟蒻もお手製とは、すごい!
お客さんが来るときには、ゆっくりと時間をかけて作るのだそう。
柔らかくてシュワシュワとした口触りは初めての経験。
蒟蒻芋の香りが濃くて優しくて、とっても美味しい。

酢味噌をかけていただく。

母「その漬け物も、畑で採れた大根で作ったの、食べてみて」

きれいな赤い色に染まった漬け物、甘酸っぱくてやみつきになる。
その隣にある丼へと手を伸ばす。

父「そのふき味噌も、裏山で採れたふきやし」

ご飯にたっぷり乗せていただくと、口いっぱいに春の香りが広がった。

食卓に上がっている料理のほとんどが、素材からすべて手作りなのだと知った。
あの作り方もこの作り方も聞きたい、と、つい興奮してしまう。

母「たいていのもんは裏山で作っとるねぇ、お父さん」

さきほどから話に上がる裏山というのは、どんな宝の山なのか、とても気になる。

テツ「あの、その裏山には私も連れて行っていただけたりしないでしょうか」

父「うん、ええよー。明日一緒に行く?」

お父さんが嬉しそうに微笑むものだから、私もとても嬉しくなってしまった。

子安さんご夫妻もご一緒に。

食事を済ませ、早々に布団のなかへ入ったものの、なかなか目がつむれない。
遠足前の子どもの気分、明日が待ち遠しい。

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いざ、食材の宝庫へ。

翌日。薄曇りの天気のなか、軽トラに乗って山を目指す。
車を少し走らせると到着した。
ここからは徒歩で登っていくのだそう。

今回は、3才になる我が子と一緒。
お母さんに甘え、おんぶで山の中へ連れて行ってもらう。

父「こっちはブルーベリー、こっちはみかん、こっちにはたらの芽ができるんよー」

山の中を案内してくれるお父さん、表情がはつらつとしている。
湿った土を踏みしめながらさらに奥まで進んで行くと、
そこには椎茸のほだ木がずらりと並んでいた。

原木からニョキッと生えている椎茸の姿は、とてつもなくかわいくて神秘的。

母「ほら、ここにも、ここにも」

慣れた手つきで、次から次へと椎茸を収穫するお母さん。
あっという間に、たくさんの椎茸がエプロンに包まれていた。

父「ほいだら、ふき採りにいく?」

足下に注意しながら、お父さんの後を追う。

父「ほらここにある、あ、ここにも」

斜面をよーく観察してみると、あちこちからふきが顔を出している。
みな、終始無言で地面とにらめっこ。

父「さ、こんだけ採れたらいいじゃろ~」

あっという間に、きれいな薄緑のふきでかごが一杯になった。

母「帰りに、畑も寄って行こか」

レタスやネギを収穫する。
水分をたっぷりと含んでいる様子が、いかにも美味しそう。

お孫さんの勘太くんも一緒に野菜を収穫。

ありとあらゆるものがこの山と畑で揃うのか。

母「買うっていったら魚くらいなもんで、あとは全部つくっとるよ。
楽しいよ~、工夫して育てて、それを料理して美味しく食べる」

農作物を育てることはまったく苦ではなく、むしろ毎日の張り合いなのだそう。

母「お父さんなんか、食べ物以外もなんでもつくるよ。
居間のちゃぶ台もそうやし、薪ストーブとか、なんでも自分でつくってしまう」

男の中の男だ、素敵すぎる。
お母さんの傍らで静かに佇むお父さん、少し誇らしげに鼻を膨らませている。
自分でつくれるものはつくる、その時間を楽しむ。
そんなシンプルな暮らし方が、とても豊かに思えた。

羽田野さんご夫婦の農家民宿「雲中坂」では、
農作業や蒟蒻作りも教えてもらうことができる。
土地の暮らしの一部を体験することで、もっと竹田市を好きになってほしい。
そういう気持ちから、この民宿を始めたのだそう。
おふくろの味、自然のなかでの体験、そして何より
地元の方の暮らしや思いやりに触れることができるのが、この農家民宿。
その暮らしに一歩入り込んでみると、旅の景色が少し違って見えた。

後編に続く。
次回、収穫した食材を使って、お母さんが料理を作ってくれます。

Information


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雲中坂

住所:大分県竹田市大字竹田993番地

TEL:0974-62-4838

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