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知られざる愛媛県の銘産
中山栗のおいしさを生かした
〈アステリスク〉のモンブラン

愛媛県 × colocal
えひめスイーツコレクション
vol.012

posted:2016.2.12   from:東京都渋谷区  genre:食・グルメ / 活性化と創生

sponsored by 愛媛県

〈 この連載・企画は… 〉  愛媛のフルーツ、おいしいのは柑橘だけではないんです!  
イチゴ、柿、栗、キウイなども実は愛媛の銘産です。
愛媛県産フルーツの生産者さんたちを訪ね、愛情をたっぷり注がれて育つフルーツを見てきました。
さらに、秋から冬にかけてぐっとおいしくなる愛媛県産フルーツを使った、
松山市と東京のスイーツ店もご紹介します。

writer profile

Miki Hayashi

林 みき

はやし・みき●フリーランスのライター/エディター。東京都生まれ、幼年期をアメリカで過ごす。女性向けファッション・カルチャー誌の編集を創刊から7年間手掛けた後、フリーランスに。生粋の食いしん坊のせいか、飲料メーカーや食に関連した仕事を受けることが多い。『コロカル商店』では主に甘いものを担当。

credit

撮影:千葉 諭
supported by 愛媛県

中山栗のおいしさを活かす〈モンブラン・クレメ〉の秘密

柑橘類、柿、イチゴ、キウイ……さまざまな愛媛の銘産をこれまで紹介してきましたが、
実は栗も愛媛の銘産のひとつ。愛媛県ならではの日照時間の長さと水はけの良い土壌は、
上質な栗を育てるのにも適しているのです。
今回は愛媛県の山間部、伊予市中山町で育てられた
中山栗のおいしさを楽しめるスイーツをご紹介。

2年に1度アメリカで開催されている製菓の国際コンクール〈WPTC〉をはじめ、
数々の世界大会での受賞歴を持つ和泉光一さん。
そんな彼がオーナーシェフを務めるのが東京・代々木上原に店舗を構える〈アステリスク〉。
中山栗が使われているのは2012年の開店以来、
お店の人気商品であり続けている〈モンブラン・クレメ〉です。

まず目を引かれるのが、この〈モンブラン・クレメ〉の高さ。
「9センチくらいあるんじゃないかな? お店の箱の高さのマックスが9センチなので、
これ以上高くすると箱の天井に当たってしまうんですよ」と和泉さん。
「かなりの量の栗を使っていますね。
つくるときは“(栗の)グラムは計るな”って言っています(笑)。
個人店では都内で一番、栗のペーストを使っているでしょうね」

ほかの生洋菓子と並ぶと、その高さが一層際立ちます。

抹茶や餡など、安易に和の素材を使わないというポリシーを持つ和泉さん。
和栗を使った〈モンブラン・クレメ〉のレシピの研究と開発には
相当な時間をかけたのだそう。

「モンブランのフランスのスタイルは確立されたもので、
甘いメレンゲにちょっとバニラの効いたマロンペーストをしぼって……と、
すごく一個で完成されているんです。
海外の栗と和栗とでは香りも違うので、
それをそっくり和栗に置き換えるのは“ちょっと違うな”と僕は思って。
メレンゲベースにする方は、
お砂糖をあまり入れない軽いシャンティ(甘みを加えた生クリーム)をしぼって、
上に濃い味を持ってくるんですけど、和栗だとどうしても風味のパンチが弱いんですよ」
と和泉さん。
「そこで脂肪分の軽い生クリームをあえて使わず、
脂肪分38%くらいの生クリームにお砂糖と、
もともとちょっと甘みのあるマスカルポーネチーズを加えたんです。
このシャンティをしぼることによってクリーミーさをアップさせたので、
“クリーミーな”という意味の〈クレメ〉を名前につけました」

生洋菓子だけでなく焼菓子、チョコレート、コンフィチュールなども並ぶ店内。そのどれもが芸術品のような美しさ……!

こう聞くと、食べ終えた後に胃が重くならいかと心配になる人もいるかもしれませんが、
その心配はまったくもってご無用。ほくほくとした和栗のペーストとクリーム、
そして土台のサクサクした香ばしいメレンゲがあわさった瞬間、
口の中に広がるのは実に程よい甘さ。クリームの口溶けの良さも手伝って、
食べる手がついついとまらなくなるおいしさなのです。

「メレンゲも普通は乾燥焼きさせるんですけど、
日本人はメレンゲの甘さが得意じゃないと思うんですよ。
なので高温の120℃でメレンゲを焼ききって、
中のお砂糖をキャラメリゼ(カラメル化)するんです。だからあまり甘みがない。
あと、ヨーロッパの栗が持つスモーキーな香りが、
メレンゲの中から出てくるようなバランスにしました」

外からも厨房の中がうかがえるスタイルに、お店としての誠実さを感じます。

ただおいしいものを組み合わせるのではなく、
口にしたときの味わいを徹底的に考えて誕生した和泉さんの〈モンブラン・クレメ〉。
開店まもないころに、新聞社で行われたモンブラン調査では見事一位を獲得し、
瞬く間に話題の存在に。
そして今でも〈アステリスク〉のトップセールスをほこる存在なのだそう。

モンブラン好きのみならず、スイーツ好きの心もわしづかみにする
〈モンブラン・クレメ〉。
その素材に愛媛県産の中山栗が使われるようになったのは、
レシピとの相性の良さだけではなく、ひとつのストーリーがありました。

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郷土の素材を使った逸品を

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郷土の素材を使った特別な洋菓子が生まれるまで

愛媛県の最南端にある愛南町出身という和泉さん。
そしてご実家は「おじいちゃんの代から和菓子の職人で、僕の父が二代目」
という和菓子屋さん。
そんなこともあり、和栗は子どものころから触れていた素材だったのだそう。
また当時から料理に興味を持っていたそうですが
「でも父親とおじいちゃんとは一緒のお菓子づくりをしたくて。
じゃあ洋菓子をやろう、と東京の学校に入ったんです」

オーナーシェフの和泉光一さん。

その後、洋菓子の名店でシェフ・パティシエを長年務めた和泉さん。
そのお店を退社し、〈アステリスク〉をオープンさせるまでの3年間は
「世界の色々なお店で勉強をしたり、日本の企業でケーキを教えたり、
お店をやらないでフリーランスで仕事をしていました。
その時に全国津々浦々を回り、素材の生産者さんに会いに行ったりもしていました。
奄美までパッションフルーツを見に行ったこともあれば、海外にも。
もう気になるものがあれば、動いていましたね。
僕は納得しないと素材に使わない部分があるので、
“なかなか手強い”ってみんなに言われます」

〈アステリスク〉をオープンさせる前年の2011年、
郷土の素材を取り入れた洋菓子をつくれないかと和泉さんは考え始めます。
「僕の友達のフランス人とかも、
生まれ故郷の何かを使ったスペシャリティーというものを持っているんですよ。
和栗の生産量は茨城、熊本、愛媛という順なのですが、
震災の影響で茨城の収穫量が減ってしまったんです。
“じゃあ熊本の和栗か?”とも思ったのですが“いや、自分は愛媛出身だから、
3位までつけている愛媛に一回見に行こう”と愛媛へ行ったんです」

開店以来、レシピを全く変えていないという〈モンブラン・クレメ〉。その言葉に洋菓子としての完成度の高さがうかがえます。

そこで和泉さんが出会ったのが、伊予市中山町で育てられている中山栗。
「みかんを育てていた段々畑でみかんが育たなくなってしまったので栗に移行したところ、
日照時間の長さと日中の寒暖差の激しさによって
糖度が高い栗が穫れるようになったと聞きました。
あと絶対に栗を地面に落とさないようにしているんですよ、
イガから取れてしまうと甘くなくなるから。
段々畑にネットを敷いて、上から下の受け口へと自然に転がるようにして、
そこを軽トラで走って収穫するという地形を生かした昔ながらの方法をとられているんですよ」

園地である山から加工業者さんの工場まで見させてもらったという和泉さんを魅了したのは、
中山栗のおいしさだけではありませんでした。
「やっぱり愛媛県の人たちはすごく真面目で、ブランドの名前だけでは売ってこないんですよ。
栗も下は1等級から上は10等級までクラスがあるのですが、
その中の9〜10等級のものしか使わないから風味も良くて。
そんな農家さんのこだわりやつくり方を含め、
納得できた上で中山栗のペーストを使うようになったんです」

シュークリームとショートケーキも開店以来レシピをずっと変えずにいるのだそう。「やっぱりお店の核となるものだから、そこに対してこだわりを持とうと思って」と和泉さん。

郷土で育てられた栗との出会い、
そして時間をかけた研究によって誕生した
和泉さんのスペシャリティーである〈モンブラン・クレメ〉は、
今や〈アステリスク〉を代表する洋菓子のひとつに。
「栗だけでなく、愛媛県産のみかんやイチゴを使う年もあって、
〈紅まどんな〉をピュレにしてムースをつくったこともあるんですよ。
今年はたまたま柑橘は使ってないですが、去年はお菓子で出していました。
でも〈モンブラン・クレメ〉だけは変えずに、ずっとつくっています」

おいしいものをつくるためなら手間ひまを惜しまず、妥協もしないーーー
そんな愛媛に代々伝わる気風から生まれたともいえる〈モンブラン・クレメ〉の味わい。
そのおいしさを楽しまれるときは、
このストーリーのことも思い出していただけるとうれしいです。

information

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ASTERISQUE 
アステリスク

住所:東京都渋谷区上原1-26−16

営業時間:10:00〜20:00

http://asterisque-izumi.com/

https://www.facebook.com/AsterisqueIzumi

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