連載
posted:2016.7.25 from:福島県いわき市 genre:食・グルメ
sponsored by KIRIN
〈 この連載・企画は… 〉
その土地ならではの風土や気質、食文化など、地域の魅力を生かし
地元の人たちと一緒につくった特別なビール〈47都道府県の一番搾り〉。
コロカルでは、そのビールをおいしく飲める47都道府県のスポットをリサーチしました。
ビールを片手に、しあわせな時間! さあ、ビールのある旅はいかがですか?
writer profile
Mikio Soramame
空豆みきお
そらまめ・みきお●akaoni コピーライター。山形に生まれ、山形に育つ。のち山形を出て、やがて山形に戻り、いまは山形で学び、山形で遊ぶ日々。夏の鳥海山の麓の農園の、朝採りの枝豆収穫の手伝いが好き。
http://www.akaoni.org
photographer profile
Kohei Shikama
志鎌康平
しかま・こうへい●山形県生まれ。写真家小林紀晴氏のアシスタントを経て、山形さ帰る。国内外旅に出てますが、山形の山を走ったり、裏山の湖でカヌーをするのが好きです。3歳の娘と遊ぶのも好きです。山形ビエンナーレ公式フォトグラファー。
http://www.shikamakohei.com
credit
Supported by KIRIN
47都道府県、各地のビールスポットを訪ねます。
福島でコロカルが向かったのは、いわき市の〈いわき万本桜プロジェクト〉。
10年先、30年先。それとも100年先、200年先のことになるでしょうか。
ここいわき市で、世界一の桜の風景を眺められるようになるのは。
見渡すかぎりの山々すべてが桃色に染められるのは。
その景色を見るために世界中から人々が押し寄せ、
その美しさに立ちすくみ、感嘆の溜息をもらすのは。
「ここに来てよかった」「いつかまた訪れたい」「ここが好き」と、
人々がそう思わずにはいられない場所になるのは。
やがて来るその日のために、いわきの里山に9万9千本の桜の苗木を
丁寧に丁寧に1本1本植樹していくという、途方もなく壮大な計画が進められています。
〈いわき万本桜プロジェクト〉。
僕らはその中心人物である志賀忠重さんに会いに来ました。
このプロジェクトに込めた志賀さんの想いやお話をお聞きし、
ほんのわずかでも僕らにもお手伝いをさせてもらえないかと思って。
まずは、2013年に制作されたパンフレットに
『プロジェクトのはじまり』というタイトルで掲載されている
志賀さんの文章をここにそのまま引用させていただきます。
負の遺産
私たち日本人全員の意思で原発を利用し事故を起こしたために、
未来の子どもたちへ、負の遺産を残してしまうことになってしまいました。
これは永年にわたる放射能の身体への影響、
永く使えない土地、そばに行きたくない地域を残してしまうことなのです。
さらに経済的には天文学的な負債を抱えなければなりません。
このような負の遺産を残してしまうことにすごい悲しさ、
悔しさをいまさらながら感じています。
なんとかならないものなのでしょうか!
春、桜の花が満開に咲いているのを見て、20年後、30年後の子どもたちに
山一面の桜を見てもらおうと思い立ちました。
万が一、いわきに住めなくなった時でさえ、
いわきを愛していた人たちの気持ちが伝わるぐらい、
たくさんの桜を植えたいと思っています。
飛行機から見ても分かるくらい、たくさんの思いを込めた木を植えたいです。
まず近くの山から。
1人ひとりの記念樹として、1本1本に参加してくれた人の名前をつけます。
最終目標は9万9千本です。
2011年3月に発生した福島第一原子力発電所事故以降、
いわき市は「第一原発からわずか50キロの土地」と位置づけられることになります。
事故発生直後の日々、多くの市民が身を寄せた避難所には十分な物資が届けられず、
その理由はトラックの運転手が「福島原発の近くには行きたくない」からだった
という話を志賀さんは伝え聞いたそうです。
愛するふるさとが、ほんの一瞬にして「だれも近寄りたくない場所」にされてしまった、
その悔しさや悲しみや怒りは、地元の人々にとってどれほど深かったでしょう。
だからこそ、志賀さんやプロジェクトの賛同者の方たちの怒りと願いの行き着く先は
「この土地を、みんなが行きたいと願う場所にすること」なのです。
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さて、いわき万本桜プロジェクトに関わるには、大きくふたつの方法があります。
ひとつは、月1回の植樹会に費用を払って参加する方法。
秋から春にかけて月に1度の植樹会が開かれており、
事前申込みをした参加者だけが桜の苗木を植えることができます。
植樹の本数はひとりにつき1本限りというのがここのルール。
その1本に想いを込めることで、山に魂が少しずつ宿っていきます。
もうひとつは、草刈りなど山の管理のボランティアとして参加する方法。
サポーターとして協力したいというポジティブな人を
いつでも志賀さんが受け入れてくれます。桜の苗木の成長のためには、
日当りや風通しのいい環境を与えてあげることが大切なので、
草刈り、水やり、枝打ちなどの日常的な管理こそが、
プロジェクトを支える裏方の大切な仕事になります。
これまで日本だけでなく世界中からボランティアが参加してくれました。
すでにデンマーク、中国、アメリカには熱心なサポーターの輪が広がっているそうで、
この先のグローバルな展開にも注目です。
2011年のプロジェクト開始から5年が経過した現在まで、
植樹した苗木は3千本以上、もともと山にあったヤマザクラを加えて、
山にある桜の木の総計は約4千本になります。
ここ数年、植樹の数は年間400本にも満たないくらいのペース。
「9万9千本を単純に400本で割ると、
目標達成まで約250年かかるという計算になるね。
かなり大雑把な計算だけど、どれだけの時間がかかるかはそれほど大事なことじゃない。
あくまで世界一の規模を目指して継続していけるかどうかが
一番重要なテーマなんだ」と、志賀さんは笑います。
そして、「人がたくさん集まればいいってことじゃないんだ」とも。
植樹会を行うためには、事前に土地の手入れをしておくことも、
苗の準備も、サポーターの協力も必要です。
お金も手間もすべて有志の協力によってまかなっているので
「わけもわからずただ興味本位の人に来られても対応するこっちが大変だし迷惑。
本当にこのプロジェクトに賛同してくれて、
自分の想いを込めて苗を植えてくれる人を大事にしたい」と。
そんな話を聞いた僕らももちろん「草刈りのお手伝い、やらせてください!」と
志賀さんにお願いして、近くの山の草刈りにチャレンジ。
6月の初夏の日差しのもとで、長靴履いて、帽子かぶって、軍手して。
草刈り機の使い方を教えてもらって、スイッチON。
ヴィーーーンという草刈り機の音が響き、手にはモーターの振動が伝わります。
「苗木を切るなよ」と教えられた僕らは、
慣れない手つきで、へっぴり腰で、必死に機械を握ります。
ひと息ついてあたりを見渡せば、ずいぶんすっきりときれいになってキモチいい!
でも、草の伸びたところは山のずっと先の向こうまで果てしなく広がっています。
桜の苗木を植える予定になっている多数の山々はすべて「誰か」の所有物で、
「うちの山に木を植えてもいいよ」とプロジェクトに賛同してくれた
地主さんの数は50人以上。広大すぎるほどの土地にわたります。
だから、草刈りすべき場所はいつもたくさん残されているし、
草を刈ったはずの場所にやがて戻ってくればまた草は伸びている、というわけです。
ここでボランティアを体験した人たちはみんな元気になるらしいのですが、
たしかに、自分の体に眠っていた生きるチカラのようなものが目覚めたような、
野性的なチカラを山からもらっているような気がしました。
かつて若い頃には自給自足の生活を実践していた志賀さんは、
できることはなんでも、自分のチカラでつくったり、切り拓いたりすることを
とても大切にしているのです。
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ひと仕事終えた僕らは、プロジェクト事務所のすぐそばにある、
蔡國強さんがデザインした野外美術館〈いわき回廊美術館〉の回廊に飾られた
子どもたちが描いた未来のいわき市の絵を見ながら渡り歩き、
館山という名の里山の頂に広がるキモチのいい広場で
志賀さんがつくったベンチに腰を下ろしました。
近くには少しだけ成長した桜の苗木が立ち、枝に掛けられた木札に
「美しく優しいいわきの大地が永遠に輝きますように」という
植樹者のメッセージが書き込まれていました。
僕らの目の前には、青々と生い茂ったいわきの山々や
田んぼの美しい景色が広がっていました。
「草刈り」はお金にはならないけれども、立派で貴い労働です。
やがていつの日か、たとえわずか数十分だけの労働であっても、
僕らが草刈りをして流した汗が、この土地に見事な風景を生み出すことに
つながっていると想像することはとても楽しい。
未来に生きる子どもたちの笑顔に少しでもつながっていると信じることはうれしい。
250年先まで続くであろう植樹も、果てしのない草刈りの仕事も、
これからもずっとずっと続くのだから、
地道にゆっくりとした足どりで進むことこそ大事。
志賀さんはそう教えてくれました。
「長生きの秘訣を、100歳をゆうに超えても元気な
中国のおばあちゃんに尋ねたことがあるんだ、そうしたらね、
『労働だ』って教えてくれたよ」と志賀さんは笑いました。
今日という日を精いっぱい仕事して、汗をかいて、終える。
また明日は明日で、やれることをやる。
ときには腰を下ろしひと息ついて、里山に吹くやさしい風に包まれて、
渇いた喉をビールで潤しながら。
それにしても、とあらためて思うのは、
この土地に襲いかかった怒りと悲しみの記憶を、
9万9千本の桜の景色に変えていこうという、
そのアイデアそのものの美しさと強さです。
その秀逸なアイデアを捕まえて、その先にある未来を信じて、
希望と祈りの輪を広げている、志賀さんと志をともにするいわきの人たちと
世界中の人たちに、乾杯をしたいと思います。
9万9千本の桜の木に添えられた、植樹した人たちひとりひとりの願いと祈りが、
いつの日か花となり実を結ぶように。
※一番搾り 福島づくりは、福島の誇りを込めてつくった、福島だけの味わいです。
問合せ/キリンビール お客様相談室 TEL 0120-111-560(9:00~17:00土日祝除く)
ストップ!未成年者飲酒・飲酒運転。
Information
いわき万本桜プロジェクト事務所
住所:福島県いわき市平中神谷字地會作7
TEL:0246-88-8970
http://www.siga.co.jp/iwakicherry/cherryindex.html
*特に駐車場は設けていません。お車でお越しの際は近隣の方の通行の邪魔にならないようマナーを守って駐車してください。
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