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岡山・倉敷・児島

マチスタ・ラプソディー
vol.021

posted:2012.6.27   from:岡山県岡山市  genre:暮らしと移住

〈 この連載・企画は… 〉  東京での編集者生活を経て、倉敷市から世界に発信する
伝説のフリーペーパー『Krash japan』編集長をつとめた赤星 豊が、
ひょんなことから岡山市で喫茶店を営むことに!? 
カフェ「マチスタ・コーヒー」で始まる、あるローカルビジネスのストーリー。

writer's profile

Yutaka Akahoshi

赤星 豊

あかほし・ゆたか●広島県福山市生まれ。現在、倉敷在住。アジアンビーハイブ代表。フリーマガジン『Krash japan』『風と海とジーンズ。』編集長。

マチスタへ足が遠のいてしまった理由。

遅ればせながら、マチスタとアジアンビーハイブの位置関係を解説しておきたい。
連載も20回を超えて何をいまさらなのだけれど、
たぶん岡山県外の人が読んだら、やれ岡山だ、倉敷だ、児島だと、
地図でも見ないと皆目わからない話なんじゃないかと思う。
やっぱり「だったら早くやっとけ」という話なのだ。

まずはマチスタのある岡山。
岡山県民がこのようにさらっと「岡山」という場合は「岡山市内」を意味している。
(ぼくが十代の頃に「ちょっと岡山に映画を観に行ってくるわ」と言えば
岡山駅前の<岡山70mm岡山グランド>か
岡山表町商店街に数軒あった映画館と相場は決まっていた)
マチスタはその岡山市内、JR岡山駅から徒歩7〜8分の距離にあり、
県庁から歩いてもほぼ同じぐらい。
店名の由来にもなっているようにかなりのまちなかで、
「天満屋」という岡山の老舗百貨店や表町商店街を擁する県内最大の商業圏にある。
東京でいえば銀座みたいなところだ。
一方、我が社アジアンビーハイブのある児島は、
岡山市の西に隣接する倉敷市の南端にある。
岡山駅と四国を結ぶJR瀬戸大橋線の本州最後の駅がこの児島。
岡山から電車だと約20分なのだが、車だと1時間近くかかる。
児島で育ったぼくが言うのもなんけれど、わりといいところだ。
人口は約7万人、田舎にしては大抵のものが手に入るし、
TSUTAYAもあるしユニクロだってある。
なによりぼくが好きなのは海があること。
それに美味しいうどん屋がたくさんある。
マチスタが銀座なら児島は三浦か、金沢八景とか金沢文庫あたりだろうか。

児島に住んでいる人も含めて岡山の人が「倉敷」というと、
JR倉敷駅や「白壁のまち」として知られる美観地区がある倉敷市の中央エリアを指す。
児島も倉敷市の一部に違いないのだけれど、
「倉敷に行かんといけんのよ」みたいなことを児島で日常的に耳にする。
児島が40年前までは児島市であったこと、それに倉敷市が47万人もの人口
(中国地方で3位)を抱えているというのもあるかもしれない。
さて、最後になったが、ぼくが住んでいる早島町だ。
ここは岡山市と倉敷市にぎゅっと挟まれた都窪郡にある人口わずか1万2千人の町。
町と呼ぶと語弊があるかもしれない。
実際、町らしい町はなく、ほとんどが田んぼと宅地だ。
古くはいぐさの産地として全国的に知られた土地で、
いまもいぐさで財を成したお金持ちがたくさん住んでいる。
財政的に恵まれているからか、
これまで岡山市と倉敷市からの合併のオファーを頑に拒んできたと聞いている。
運動会や花火大会、夏の野外ジャズライブ、
それに前に紹介したチューリップ祭りとか町のイベントが実に豊富で、
町民の参加率がやけに高いのも特徴だ。
東京で例えようとしても、こんな町はまったく思い当たらない。

ここのところ、児島とマチスタのある岡山の距離がやけに遠い。
前回に触れた冊子の仕事で児島のオフィスにはりついている状態が1か月半ほど続いている。
なかば缶詰状態で、まったくマチスタに顔を出せていないのだ。
しかし、この状態になる以前に、実はマチスタへの足が遠のきつつあった。
意識的にそうしていたのだ。
なぜかって、理由はこうだ。ぼくは経営者であるからして、店の売り上げが気になる。
売り上げが気になるから、
お店に行くと必ず出納帳に記帳されている売り上げの数字を見る。
でも、あるとき、ふと思った。
(顔を出すたびに出納帳をチェックする経営者って、相当ウザいのでは?)
自問するまでもなく、ウザい。
ぼくがノートを見ている横にはコイケさんかのーちゃんがいるわけで、
彼らにしたら、不快まではいかなくてもいい気持ちはしないはず。
そのあたりの無神経さは、ぼくの場合ままあることで、
人としていたらないところ。もう「すいません」と謝るしかない。
しかしそうは言っても、顔を出すとやはり帳簿を見たくなるのが経営者の性らしく、
しばらく店に出ても帳簿を見ないで我慢することが続いた。
しかし、我慢をするというのはそれだけで不自然なことであり、
そのせいでコイケさんやのーちゃんとの会話も
なんとなくちぐはぐになったように感じて早々と店を去る、
そんなことが何度か続いていたのだ。
結果、マチスタが楽しくなくなってしまった。もう、やりきれないぐらい。
(もうお客じゃないのだからそれも仕方ない)
そんなふうに無理矢理受け入れ、
それで足が遠のいたまま現在の缶詰状態に突入したのだった。

解決の糸口を与えてくれたのはクライン・ダイサム・アーキテクツのふたり、
マーク・ダイサムとアストリッド・クラインだった。
どこで彼らに会ったのか不思議に思うかもしれない。会ってはいない。
会っても相手にしてくれないだろう、まったく見識がないのだから。
テレビで見たのだ、NHKの番組で。
(悩みの解決の糸口をテレビ番組で発見したとはあまりに安っぽいと思うが
事実なのだから認めよう)
ふたりは彼らの設計した建築を紹介しながらこう言った。
「自分たちが楽しめないと、人を楽しませるものはできない」
これ、ぼくが『Krash japan』を作っているときによく言っていた言葉だった。
自分で言っておきながら忘れていた。
そうなのだ、経営者というトップだからこそ、楽しくやらないとダメなのだ。
マークとアストリッドの出番が終わらないうちに、
ぼくはエプロンをして、マチスタで洗い物をしている自分の姿を見た。
オープンしてしばらく一緒に店を手伝っていたあの頃、ぼくは確かに楽しんでいた。
(なにをウジウジしてたんだ、オレは? 
今度マチスタに行ったら、一日ホールをやって洗い物をして、
スタッフのひとりとして働くぞ!)
目から鱗が落ちる思いでそう誓った。
以来、マチスタに行きたくってウズウズしているんだけど、
いまだ例の缶詰状態から抜け出せないでいる……。

海があって山がある、それだけで児島は魅力的だ。正面に見える山は龍王山。子どもの頃は水晶を探してよく頂上まで登りました。水晶、なかったなあ。

2週間ほど前に田植えが始まった早島町。夜はうるさいほどにカエルが鳴くんだけど、うるさいと思ったことはなく、むしろ心が落ち着きます。田園生活、快適!

Shop Information

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マチスタ・コーヒー

住所 岡山県岡山市北区中山下1-7-1
TEL なし
営業時間 月〜金 8:30 ~ 20:00 土・日 11:00 〜 18:00

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