colocal コロカル マガジンハウス Local Network Magazine

連載の一覧 記事の検索・都道府県ごとの一覧
記事のカテゴリー

連載

「マチスタの味」をつくろう

マチスタ・ラプソディー
vol.003

posted:2012.2.22  from:岡山県岡山市  genre:暮らしと移住

〈 この連載・企画は… 〉  東京での編集者生活を経て、倉敷市から世界に発信する
伝説のフリーペーパー『Krash japan』編集長をつとめた赤星 豊が、
ひょんなことから岡山市で喫茶店を営むことに!? 
カフェ「マチスタ・コーヒー」で始まる、あるローカルビジネスのストーリー。

writer's profile

Yutaka Akahoshi

赤星 豊

あかほし・ゆたか●広島県福山市生まれ。現在、倉敷在住。アジアンビーハイブ代表。フリーマガジン『Krash japan』『風と海とジーンズ。』編集長。

開店まであと 40日——————

「こいつ、いったいなんなん?」
ヤツを見ながら、そんなことを考えたりする。
当社アジアンビーハイブで飼っている元野犬のサブである。
普段、犬や猫を見て感じる可愛さが、実はこの犬にはない。
サブに対して愛情がまったくないというわけじゃない。
犬というより、むしろ人間だと思わせるなにかがサブにはあるのだ。
人間だとしたら薄汚れた元浮浪者のオッサンなわけで、そのオッサンから、
毎朝フェラーリの馬のポーズで何発も飛び蹴りされたり、
そばで暑苦しくじっと見つめることで朝夕の散歩をねだられたり、
その散歩で腕が抜けるほどひっぱり回されたり、
事務所の中で一日に何回も放屁されたりというのが毎日なものだから、
通りいっぺんの腹立たしさを通り越して、
日に何回と、哲学的にサブの存在の意味というところまで考えてしまったりするわけだ。
先週になって、『風と海とジーンズ。』の最新号のギャラが入った。長かった。
これでやっと、会社の口座残高が1000円以下なんてシュールな状況から抜け出すことができた。
お金が入って真っ先に買ったのが、サブの首輪だった。
前の首輪は幅広の赤い革に金メッキのスタッズが無数に入っているようなタイプで、
「無駄にイカツすぎる」と当社の女子たちに不評だった。
新しい首輪は5000円以上もしただけあって、
なるほどあの薄汚れたサブがちょっとだけ垢抜けて見える。
垢抜けたら垢抜けたで、今度はこれまで使っていた
麻縄のような古いリードとの見た目の相性が最悪だということが判明したのだが、
そのリードまで買い替える予定はいまのところない。

新生マチスタの最大の売りは、いわずもがな、コーヒーである。
なにせ正式な店名が「マチスタ・コーヒー」なわけだから。
これまでのコイケさんの店では、シングルオリジンコーヒーという、
ブレンドではなく単一の産地の豆を使用したものを提供していた。
しかも、どの産地のどの農園(生産者)という履歴が明らかで、
豆の品質等級でもトップクラスのものを使用したスペシャリティ・コーヒーだ。
実はこの手のコーヒーにこだわった喫茶店は近年珍しくはない。
どちらかというと結構な流行りのような印象もある。
そこで戦略的には、シングルオリジンから旧スタイルに戻すことを提案した。
主力メニューをブレンドにしようというのだ。
あまのじゃくというのも多分にあるんだけど、
シングルオリジンでコーヒーのメニューが複数あるというスタイルよりも、
ブレンドを作ってシンプルにしたほうが、テイクアウトスタイルにマッチすると思った。
コイケさんもこのアイデアにすんなり同意してくれた。
1月中旬、マチスタに焙煎されたブレンドの豆が届けられた。
豆を持ってきてくれたのはコイケさんの友人で、
街スタのコーヒーを焙煎・納品していた焙煎人の稲本道夫さん。
岡山で「カフェリコの稲本さん」といえばコーヒー業界の有名人だ。
20代の頃に神戸で修行し、地元の旧灘崎町(現在は岡山市内)に戻ってからは、
コーヒーの焙煎一筋約30年、
いろんな喫茶店に卸すことで岡山のコーヒーの味を作ってきたという業界の重鎮である。
実は稲本さんには一度も会ったことはなかったが、
新生マチスタでも引き続き焙煎をお願いしてあった。
豆は焙煎の深さの違いで、浅い順からシナモン、ミディアム、フルシティの3種があった。
それぞれ、コイケさんがペーパードリップで淹れてくれた。
ぼくの焙煎の好みからいうと、フルシティはちょっと濃い。
ミディアムあたりがちょうどいいんだけど、シナモンでも美味しく飲める。
コイケさんは濃いコーヒーが好みなので、このフルシティでもまったく問題ないと言う。
ふたりであれこれ短い言葉で感想を述べ合った。が、「美味い」という言葉はなかった。
焙煎の度合いはなんとなくつかめたが、豆のブレンドはこれでいいのかどうか。
そもそも、こうやって稲本さんから届いた豆をそのまま飲んでいるけど、
ブレンドってどうやって決めるのだ?
そんなとき、コイケさんから思わぬ言葉が飛び出した。
「ぼく、やっぱりこの香味があまり好きじゃないです」
「………というと?」
「ブレンドによくある、この口に残る感覚がイヤなんです」
意味がわからない。
ぼくにはコイケさんの感覚を解するだけの味覚はないみたいだ。
そういえば、コーヒーが飲めるようになったのはこの5年ぐらいだった、
自分でも忘れることがあるけど(それまでは飲むと必ず胃がムカムカしてたっけ)。
どっちにしても、ブレンドを主力にすると決めて準備を進めているのに、
ブレンドそのものが苦手ともとれるこの発言、到底聞き過ごすわけにはいかない。
この店で、コイケさんが自信をもって薦められないコーヒーを出しちゃいけないのだ。
「ブレンドで後口に残らないようにする方法はないんですか?」
「………ないことはないです。スペシャリティだけでブレンドを作るんです」
「………?」
「普通、ブレンドはスペシャリティの下のクラスの豆を混ぜるんです。
ブレンドによくある口に残る感じというのは、それゆえです。
でも、スペシャリティコーヒーは単一農園が条件ですから、基本的にブレンドはしません。
コストはかなり割高になると思いますが、規格外でお願いしてみますか?」
考えるまでもなかった。
「是非お願いしてみましょう」
後日、稲本さんからコイケさんのもとに連絡が入った。
次の日曜日、稲本さんの焙煎所「カフェリコ」に来てほしいと。
「もちろん、行きますと伝えてください」
そうコイケさんに回答したはいいが、コーヒーの味覚にまったく自信のないぼくは、
その日から数日、不安な日々を過ごすことになったのだった。
ああ、面倒だなあ。ブレンドなんて調子にのって言わなきゃよかったかなあ。
(つづく)

1月末に発行された『風と海とジーンズ。』最新号のvol.3。この写真を見てると、ついつい『風と海とジーンズとサブと。』と書きたくなる。

サブ、惰眠をむさぼるの図。いつもはもっとストーブに近いところで寝ている。脚がストーブの下に入っていることもある。

街スタで販売しているコーヒー豆。袋に描かれた意味不明のイラストはコイケさんによるもの。このイラストは新生マチスタでは却下の予定。

これが噂のカフェリコの外観。次回、ここを舞台に繰り広げられる激しいコーヒーバトル(?)の模様を詳しくレポート。

Shop Information

map

街なか study room

住所 岡山県岡山市北区中山下1-7-1
TEL なし
営業時間 12:00 ~ 23:30

Feature  これまでの注目&特集記事

    Tags  この記事のタグ