〈 この連載・企画は… 〉
ひとつの商店街(地域)をねり歩きながら、パンと具材を集めて勝手にサンドイッチを作る旅。
そこでしか食べられないオリジナルなサンド、果たしてどんなものができるのか?
writer's profile
Kozakai Maruko
小堺丸子
こざかい・まるこ●東京都出身。読みものサイト「デイリーポータルZ」ライター。江戸っ子ぽいとよく言われますが新潟と茨城のハーフです。好きなものは犬と酸っぱいもの全般。それと、地元の人に頼って穴場を聞きながら周る旅が好きで上記サイトでレポートしたりしています。
「商店街サンド」とは、
ひとつの商店街(地域)で売られているパンと具材を使い、
その土地でしか食べられないサンドイッチを作ってみる企画。
以前東京の3つの商店街(戸越銀座、麻布十番、巣鴨)で試してみたところ
どれも個性的なサンドイッチができあがり、感動するほど美味しいものができたので
それを日本各地の商店街でもやってみよう、というのがこの連載の趣旨である。
また、美味しいものが食べられるだけでなく
同時にまちの様子を知ることができるという一挙両得の旅でもあるのだ。
記念すべき第一回目は、島根県の浜田駅にやってきた。
アンパンマンに匹敵するほど子どもが夢中になるという
珍しい伝統舞踊「石見神楽(いわみかぐら)」がさかんな地だ。
石見神楽は古事記や日本書紀を原典とした舞で、
ストーリーを知らずとも、そのきらびやかな衣装(全てがオリジナルの特注品)、
テンポの速いお囃子、舞子の激しい動きにどんどん引き込まれる。
神社の祭壇やイベントホールなどで毎週のように行われるので
石見地方に行ったら必見の催し物だ。
ちなみに演者はみな別の仕事を持っていることもあり、
夜8時以降に行われることが多いのも特徴。
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さて本題のサンドイッチ作りだ。
今回は縁あって島根県西部の観光商工課の清水宏祐さんと一緒に
サンド作りに挑む事になった。
・・・・・・のだけど、清水さんは事前の電話のやりとり同様
「東京とは違ってこのあたりの商店街はシャッター下ろしているところが多いんですよ、
サンドイッチができるのか心配です」と不安そう。
いやいや、そうは言ってもじっくり探せばきっとなにかあるはず!
と、なかば無理やり決行した。
ほんとだ、開いている店がない・・・・・・。
夜から開くような居酒屋さんやスナックはあるのだけど、
ほかにはブティック、刃物屋さんなど食べ物とは関係ないお店ばかりだ。
ひとりあたりの車の保有率が高い島根では
食材は商店街ではなくスーパーで一気に揃えるのが普通なのだとか。
まずい、どうしよう。
空には太陽がギラギラと照っているのにふたりの表情は曇ってきた。
まず駅前の十字型になっている商店街を
くまなく探すものの、なかなかみつからない。
道ですれ違った方に聞いたりして駅からどんどん離れていった。
その途中に大きなスーパーがあり思わず入ってしまった。
地元の食材も多く並んでいて、
もうここで揃えてしまおうかと逃げ腰にもなる。
しかしそれじゃあ「商店街サンド」とは言えないぞと、
諦めず汗だくで歩き回ること約2時間。
なんとか個人商店で3つの具材とパンをゲットすることができた。
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清水さんやお店の方の話によると
浜田市は日本海に面しているだけあって
ノドグロ、フグ、さば、海苔など海産物を取り扱った商品が多いそうだ。
ぜひ食べてみたいところだがそのままだとサンドに合わない。
しかしどうだ。
集まった具材を並べてみたら、
魚のすり身に赤唐辛子を練り合わせて揚げた「赤てん」、
浜田の藻塩を練りこんだというパン、
さらに珍味屋さんで見つけた「鰈(かれい)カレー」がそろった。
選ぶ余地はほとんどなかったものの、
なんだか浜田らしいものができそうじゃないか。
駅の建物内にある休憩所兼特産品売り場に
場所をお借りしてサンドを作ることに。
暑くてたまらなかった外とは違い快適な空間で嬉しいのだが、
その特産品売り場、なんと買ってきたばかりの「赤てん」と「鰈カレー」が
たくさん置かれていた。
清水さんとともにおもわず目を細める。
しかしそれほどお薦めの商品ということがわかったし、
わざわざ歩き回ったことでまちの雰囲気を知ることができたのだから良しとよう。
全体的に茶系となった浜田オリジナルサンドができあがった。
パンはオシャレなのに中身はダイナミック。
なんせ鰈の顔がのぞいているのだ。
はさみ方の問題もあるだろうが、
これは明らかに男性好みの見た目である。
赤てんの唐辛子色がなんとか
彩りのバランスをとってくれているだろうか。
今思えば、メンチカツを買ったケンボローの店先に売られていた
野菜を買って緑を添えればより良かった。
どちらかというと甘めのカレーの味がまず口の中をいっぱいにした。
それに対抗するように、かみ締めるたびに
ほんのちょっとピリッとした辛味をきかせてくる赤てん。
下にはサクサクとした衣が香ばしいジューシーメンチカツ。
この3つが揃って美味しくないわけがない。
そして最後にやってくるのは塩気。藻塩のパンの仕業だ。
くどくなりがちな具材の後味を
さっぱりとさせてくれるのが面白く、
汗とは違うその塩気に日本海の近さを感じた。
正直、鰈の味はよく分からなかったが
全体の風味のひとつとして活躍してくれたはずだ。
見ための面白さ、それぞれの素材がいきいきと活躍するそのさまは
まるで石見神楽が口の中で上演されているようであった。
最後に、サンドを美味しそうに頬張っている清水さんに
「値段をつけるならいくらですか?」と聞いみる。
すると「うん、500円はいけますね!」との返事。
購入した材料費はその3倍になってたのは秘密にしよう。
(実際にサンドに使うのは少しだけど。残りはお土産としてあとで堪能した)
・パンの森の藻塩ロールパン1つ…81円
・ケンボローのメンチカツ2個入り…430円
・江木蒲鉾店の赤てん5枚入り…529円
・珍味屋の鰈カレー…540円
ーーーーー
合計 1580円
商店街サンド#01 -- Spherical Image -- RICOH THETA
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