colocal コロカル マガジンハウス Local Network Magazine

連載の一覧 記事の検索・都道府県ごとの一覧
記事のカテゴリー

連載

飛騨高山のゲストハウス〈cup of tea〉
銭湯に浸かりながら、
新しい「木」のまちづくりを。

全国ゲストハウス図鑑
vol.002

posted:2020.7.3   from:岐阜県高山市  genre:旅行 / 活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  日本全国でゲストハウスが急増中!
リピーターを生むホスピタリティや、充実した施設、ロケーションが自慢などなど。
そこで、始めた経緯やお客さんを呼ぶ工夫、おもてなし術など、ゲストハウスの魅力を綴ってもらいます。

editor’s profile

Tomohiro Okusa

大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

今回のゲストハウス:cup of tea(岐阜県高山市)

外国人観光客から特に人気の高い観光エリア、飛騨高山。
東京と京都の間に位置することで寄りやすく、
豊かな自然が満喫できることも魅力となっている。
その高山で2018年にオープンしたゲストハウスが〈cup of tea〉。
海外経験豊富なオーナー・中村匠郎さんにオンラインインタビューにて
11の質問を投げかけた。

Q1 立ち上げ経緯は?

「世界の都市や東京から見てローカルコミュニティの可能性を感じました」

「高校生の頃から海外に留学し、大学、社会人と合計5か国10年間、
海外で生活していました。
それまで日本もグローバリゼーションの渦のなかで
発展していくべきだと思っていたのですが、
21世紀をリードすると考えられているシンガポールや上海で働くことで、
日本も同じ線上で勝ち目の薄い戦いをするべきなのかという疑問と違和感を持ちました。
それよりも別の土俵で戦うべきで、
それであれば東京よりローカルのほうが課題もたくさんあり、
解決できるのもローカルの現場だ。
そう思い、実家に戻って銭湯を継ぎつつ、
まずはゲストハウスをオープンすることにしました」

中村さんの実家は銭湯。かつては銭湯を継ぐことは考えてもいなかったというが、
東京で盛り上がりを見せる銭湯業界を目の当たりにし、
これからのコミュニティ社会にとっての核になる可能性を感じたという。

cup of teaはすっきりとしたデザイン。

cup of teaはすっきりとしたデザイン。

Page 2

Q2 どんな地域ですか?

「かつては陸の孤島。でも人情味があります」

「高山は漢字の通り、山に囲まれています。東京から直通バスで5時間半。
新幹線などを利用しても4時間はかかります。かつては高山を訪れると、
『よくもまあ、こんな山奥までお越しくださいました。本当に感謝です』と
言っていたそう。それがいまでも人情味として残っています」

まさに陸の孤島で、情報が遮断されガラパゴス化。
それが逆にほかの地域と似て非なる個性を育んでいったのかもしれない。
東京から発信された流行は日本列島を南下し、
日本一周していちばん最後に高山に届いたという冗談話もある。

高山の美しい中橋の風景。

高山の美しい中橋の風景。

Page 3

Q3 特徴的なゲストハウスの設備は?

「ドミトリーのカプセルが大きくプライバシーが保てます」

「僕は36歳ですが、僕くらいの年齢でも
ひとりで気兼ねなく泊まれるようなゲストハウスを目指しました。
具体的には、ドミトリーのカプセルサイズを大きめにして、
プライバシーに配慮しています。
一般的なカプセルホテルよりもひとり当たりのスペースが広いのですが、
開業前に修業した金沢のゲストハウス〈Blue Hour Kanazawa〉と
まったく同じサイズにしました」

〈cup of tea〉は個室が3部屋、ドミトリーが2部屋。
最大で26人収容のゲストハウスになっている。

広くて清潔な部屋。

広くて清潔な部屋。

Page 4

Q4 一番の売りや自慢は?

「創業77年。昔ながらの“ザ・銭湯”です!」

「道を挟んで向かい側、徒歩3秒のところに実家の銭湯〈ゆうとぴあ稲荷湯〉があります。
創業77年、僕で4代目になります。
いまでも大半は常連客で、僕が子どもの頃から毎日同じ時間に来てくれる方もいるほど。
特にヨーロッパの人は、笑顔になって戻ってきますね。
常連のお客さんは、そういった外国人の観光客にも臆せず日本語で話しかけるようで……。
そういう体験もおもしろいみたいです」

古き良き風情を残すゆうとぴあ稲荷湯。

古き良き風情を残すゆうとぴあ稲荷湯。

Page 5

Q5 ご近所でおすすめの仲間の店やスポットは?

「インターナショナルな〈カフェクーリエ〉とディープな〈半弓道場〉!」

「徒歩1分のところにある〈カフェクーリエ〉がオススメです。
夫婦で営まれていて、旦那さんは世界248か国を旅した強者。
それだけに世界各国のあらゆる知識が豊富で、何を聞いても答えてくれるおもしろい人。
台湾出身の奥さんがつくる台湾かき氷やお茶がおすすめです。
そしてその旦那さんがもうひとつ運営しているのが〈半弓道場〉。
90年間ネオン街のど真ん中で営業されていて、
弓道の半分のサイズで弓を射って楽しむ場所です。
地元では“飲みの1軒目と2軒目の間にさくっと射る”という場所でした。
戦時中も電気を消して営業していたらしいです。
それを高齢を理由に先代が畳むときに、クーリエの主人が引き継ぎました。
一度的に当たるとはまりますよ」

インターナショナルなカフェクーリエ。

インターナショナルなカフェクーリエ。

歴史のある半弓道場。

歴史のある半弓道場。

Page 6

Q6 オススメの観光コースは?

「まちを楽しみ、自然も楽しむ!」

「夕飯後に半弓道場、帰ってきたら銭湯に行って就寝。
翌朝は徒歩1分の朝市で朝食。この流れがオススメです。
また高山のあと松本に向かう方が多いですが、松本までの途中、
友人が営む〈雷鳥〉というゲストハウスがある乗鞍高原をオススメしています。
その友人が言うところの、人工的な音が一切しない“ノイズレス”を堪能できる秘境です」

日本人観光客からは、「とにかくガイドブックに載っていないところを
教えてほしい」というリクエストが多いそう。
ゲストハウスに泊まる客層がいま求めている旅を物語っているようだ。
もちろん地元に住む中村さんは、高山の楽しみ方を基本から応用まで教えてくれる。

ゲストハウス雷鳥がある乗鞍高原。

ゲストハウス雷鳥がある乗鞍高原。

Page 7

Q7 店主やスタッフのパーソナリティは?

「複業を必須にしているので多様な可能性があります」

「もともとスタッフには“複業必須”としています。
現在2号店を準備していますが、
そこで加わってくれる仲間はネイチャーガイドに興味があり、
それならばやってしまえばいいという話になっています。
もちろんゲストハウスに泊まったお客さんをネイチャーツアーに送客もできますし、
逆も可能。こういうことが積み重なってシナジーを生み、
ゲストハウスとしての個性になっていくと思います」

店主の中村匠郎さん。

店主の中村匠郎さん。

Page 8

Q8 ゲストハウスのおもしろさとは?

「新しい働き方ができること」

「ゲストハウス自体の仕事は、毎日同じことの繰り返しで単調になりがち。
そこで自分のやりたいことを空いた時間にやってみるという、
先述した複業の話になります。
ゲストハウスはある意味、ベーシックインカム的にいいように利用して、
スタッフには自身の興味があることにどんどん挑戦してもらいたい。
だからスタッフにはまず“あなたは何がしたいのか?”と問います。
そしてこちらはその活動を応援し、
ゲストハウスと相乗効果を生みだせればなと思っています。
こういう働き方ができるのもゲストハウスのユニークさだと思います」

チェックアウト後の掃除時間からチェックインまでの空き時間をうまく利用し、
新しい業態を組み込む。
ただ寝泊まりするだけの場所ではないゲストハウスのおもしろさだ。
最近は種まきをし過ぎて、10以上のプロジェクトが進行中とか。

cup of teaの共有スペース。

cup of teaの共有スペース。

Page 9

Q9 ゲストハウスとしてどうありたいですか?

「ゲストハウスはゴールではなく過程です」

「自分自身、実はゲストハウスを経営しているという感覚はありません。
取っかかりはゲストハウスですが、ゴールではありません。
いかに高山を未来の地方都市としてあるべき姿に変えられるか、
というのが自分自身に課したチャレンジです。
コロナショックは、高山がいかに観光に依存していたかを露呈しました。
どんどん外部資本が入ってきて観光地化が進み、
こんな山の中でも僕が距離を置きたかった資本主義という世界の枠組みに
飲み込まれてしまっていた。このまま観光地化が進めば自分たちの足ではなく、
外の世界のルールに振り回されて、まちとしての寿命は縮まっていたでしょう。
今後の地方都市、地方社会の課題は、
いかに自分たちの足で立っていけるかだと思います」

コロナ禍において、観光業に頼ってきたことがわかった高山。
だから自分たちで産業を興していくことが大切だと考える。
その結果が次項の答えにつながる。

共有スペースは開口部が広く気持ちいい。

共有スペースは開口部が広く気持ちいい。

Page 10

Q10 ゲストハウス型観光とは?

「“木”を高山の新しい観光資源にしたい」

「観光とは、読んで字の如く“光”を“観る”こと。
高山においてその光は、〈古い町並み〉のままであってはいけないと思っています。
新しい光を自分たちの手でつくっていきたい。
具体的にいま考えているのは“木”です。
飛騨は山に囲まれていて、林業、製材、加工、家具、飛騨の匠の歴史、
さらに教育機関まで。木に関する産業、歴史・文化が川上から川下まである。
この特性を生かしたまちづくりを進めて、将来の観光資源にまで育て上げたい」

木が豊富な地域である高山。

木が豊富な地域である高山。

Page 11

Q11 ゲストハウスという場所から生まれるコミュニティとは?

「人生を豊かにする旅先を選ぶ、そのハブになりたい」

「いま観光や旅の目的が徐々に変わり始めていると思います。
それはただ観光名所を訪れるのではなく、何が自身の人生を豊かにするか。
それが旅先を選ぶ基準になる。
例えば高山では、“伝統的な木造建築に興味がある、家具づくりを勉強したい”。
そういう興味をもとに “観光”することが、アフターコロナの観光だと思います。
そんなお客様と“木”を根幹に据えたまちづくりのハブになる。
それが僕が今後果たしていきたい役割です。
地域内外の交流が始まり、木にまつわる産業をより分厚くブランド化していった結果、
未来のまちの資源とすることが当面の目標です」

中村さんはまちづくりの手段のひとつとしてゲストハウスを選んでいる。
地域内外のさまざまなハブとなれるゲストハウスは、よき選択だった。
この先は、大きなプロジェクトのなかのひとつ、
ゲストハウス〈cup of tea〉となっていくのだろう。
交流点であるゲストハウスにはそんなポテンシャルがあるようだ。

information

map

cup of tea 

住所:岐阜県高山市八軒町1-77

チェックイン:15:00〜21:00

料金:ドミトリー2300円〜、個室6000円〜

https://cupoftea-takayama.net/

ブログ:銭湯と宿でまちづくり

Feature  特集記事&おすすめ記事