colocal コロカル マガジンハウス Local Network Magazine

連載の一覧 記事の検索・都道府県ごとの一覧
記事のカテゴリー

連載

豊島〈mamma〉
元乳児院が、お風呂自慢の
ゲストハウスに

全国ゲストハウス図鑑
vol.001

posted:2018.5.15   from:香川県豊島  genre:暮らしと移住 / 旅行

〈 この連載・企画は… 〉  日本全国でゲストハウスが急増中!
リピーターを生むホスピタリティや、充実した施設、ロケーションが自慢などなど。
そこで、始めた経緯やお客さんを呼ぶ工夫、おもてなし術など、ゲストハウスの魅力を綴ってもらいます。

writer profile

Kohei Izutsu

井筒耕平

いづつ・こうへい●1975年生まれ。愛知県出身。2012年株式会社sonraku代表取締役就任。博士(環境学)。「地域の自立に向け、火を起こす存在となり、暮らしに寄りそった湯けむりのように。」をコアバリューとして、宿泊施設を中心とした地域の再生を手がける。主に、岡山県西粟倉村で「あわくら温泉元湯」とバイオマス事業、香川県豊島で「mamma」を運営しながら、再エネ、地方創生、人材育成などの分野で企画やコンサルティングを行う。

credit

メインカット:片岡杏子

バイオマスエネルギーの専門家が、
ゲストハウスの運営をするようになった理由

はじめまして。〈mamma(まんま)〉の運営を行っている
株式会社sonraku代表の井筒耕平です。
sonrakuという会社は、林業とローカルベンチャー創造に力を入れる
岡山県西粟倉村を本拠地とした総勢20名程度の会社で、
西粟倉村では宿泊施設(あわくら温泉元湯)の運営と、
薪や木質チップをつくってお湯を沸かして温泉施設に提供する事業を行っています。
今回ご紹介する香川県豊島(てしま)のmammaは、
西粟倉村に続くふたつめの拠点として2017年8月にオープンしました。

mammaは、元乳児院をリニューアルし、宿泊、カフェ&バー、銭湯をひとつにした、
ストーリージェニックな施設です。
個室、ドミトリー合わせて6部屋の客室には、
最大20名が宿泊できるスペースを有しています。
豊島へは、宇野港(岡山)や高松港から船で訪れることができ、
周囲には豊島美術館や豊島横尾館などのアートスペースと、
標高340mの壇山が抱える豊富な雨水を利用した棚田が瀬戸内海に迫り出すなど、
ダイナミックな自然環境が楽しめます。

実は、僕の専門は、木質バイオマスエネルギー
(薪、チップ、ペレットのような燃料で給湯や暖房を行う)を
地域でどのように導入していくかの調査・研究で、宿泊施設運営は素人でした。
そんな僕が、なぜゲストハウスを始めるに至ったのか。
それは2014年春、僕が西粟倉村に引っ越した頃に遡ります。
その頃、西粟倉村役場が、休業した宿泊施設の担い手を探していた、
ということがきっかけとなりました。

それまでバイオマスエネルギーという本当にマニアックな世界に長期間いたので、
もうちょっとこのバイオマスエネルギーのことを知ってほしいし、
そのためにはなにか人が集まるような場が必要だ、と思っていたところでした。
偶然、〈あわくら温泉元湯〉に薪ボイラーが導入される予定(その後2015年秋に導入)なのに、
誰も運営していないこの施設を見て、
「あ、ゲストハウスって人が集まるし、
その集まった人にバイオマスを知ってもらったらよいかも」と思ったこと、
そして「まさか自分がゲストハウスを運営するなんて、
想像もしてなかったけどおもろい人生やん」というふたつの気持ちが
僕の背中を強く押し、やってみようと思い立ったのでした。

そして豊島。なぜ豊島でやろうとしたのか。
これは、建築家の安部 良さんが僕を誘ってくれたからです。
安部さんは、あわくら温泉元湯のリノベーションの設計に関わってくれたご縁があり、
のちにmammaとなった元乳児院〈神愛館〉の
リノベーション設計にも携わっていたことから、
「井筒君、お風呂と宿を予定しているんだけど、
そのふたつといえば井筒君得意じゃない? やってみない?」
とお誘いを受けました。西粟倉村が山間地域であり、
その真逆の「離島」というキーワードに惹かれた僕は、
「やってみたいです!」と即答。2017年春のことでした。

フェリーの写真。豊島へは、宇野港(岡山)や高松港から船で訪れることができます

豊島へ向かうフェリーからの写真

写真:片岡杏子

Page 2

mammaは僕の住んでない場所、しかも離島で始めようとしたため、
ものすごく大変でした。まずは仲間集めですが、
これはsonrakuの社員募集というようなかたちで、SNSなどを使って募集しました。
これは今でも続いている課題ですが、
とにかくゲストハウス運営って仲間集めがとても大変です。
このことは、ゲストハウス運営に共通するようで、
オーナー同士の集まりでもこの話題は尽きません。
地方のゲストハウスは、「就職=引っ越し」ですから、ハードルはかなり高いのです。

このmammaですが、上にも書いたように
戦後すぐに始まった乳児院の建物を利用しています。
ですから、かなり老朽化が進んでいました。
リノベーションは、耐震補強、お風呂増設、部屋の構造組み替えなど、
非常に大掛かりな工事となりました。
この工事費用の大半を負担していただいた建物オーナーである
社会福祉法人イエス団(本拠地・神戸市)のみなさんには、本当に感謝しています。

豊島〈mamma〉は戦後すぐに始まった乳児院の建物を利用

乳児院の建物内の様子

乳児院の様子を紹介した書籍

次のページ
ゲストハウスに大きなお風呂を

Page 3

自慢は日当たり抜群な気持ちのいいお風呂

2017年の秋頃には、本格的に工事が始まりました。
しかし離島での工事はなかなか難しい。
まず、工事の元請けになれるような大きめの工務店がなく、
安部さんらが大工さんや設備会社さんなどに直接依頼するようなかたちとなり、
かつ、小豆島から通ってくる業者さんも多かったために
なかなか思うように工事が進みませんでした。
僕らスタッフもDIYを必死にやりましたが、
当初のオープン予定であった4月から大幅遅れの8月オープンとなりました。

工事中の和室

客室の様子。改装前

客室の様子。改装後

客室の様子。こちらが改装後

厨房の階層の様子

mammaは特にお風呂が自慢なのですが、
これはもともと子どもたちがお昼寝やひなたぼっこをしていたような、
おひさまのあたる気持ちのよい場所をお風呂にしました。
ガラス張りだったサンルームはいまでもそれを生かしたお風呂となっており、
コンクリート打ちっ放しのそのお風呂は、
これまで目にしたことのないような空間になっています。

そのほか、赤ちゃんが使っていたベビーベッドや小さなトイレは今も使っていたり、
お隣の小豆島で使われていた素麺の木箱を本棚に使ってしたりと工夫しています。
また、個室の5部屋はもともと乳児院の先生が使われていた部屋を使い、
襖はマスキングテープでアレンジ、
照明カバーは島の子どもたちと一緒にワークショップをして描いたワーロン紙で飾っています。
それと、豊島は夜にお店が開いていないため、
夜ご飯も提供したいなと思い、豊島の棚田で獲れたお米、瀬戸内海の魚、
豊島の天日塩など島の素材をふんだんに生かした食事を提供しています。

おひさまのあたる気持ちのよい場所をお風呂に

照明カバーは島の子どもたちと一緒にワークショップをして描いたワーロン紙で

Page 4

ちなみに、事業スキームとしては、mammaの場合はイエス団、
西粟倉村の場合は役場、というように建物オーナーが別にいて、
僕たちは運営に専念するスタイルをとっています。
初期資金がなかなか調達できないため、そこは建物のオーナーにお願いしつつ、
運営しながら少しずつ使用料などを支払っていくという関係性です。
これは、星野リゾートのような大きな運営会社でも
同様のスキームを採用することがあって、
規模に関わらない手法ですので参考になればと思います。

豊島は、ゼロ年代は産廃による公害の調停が争われた島として
負のイメージが先行していましたが、
2010年代に入り瀬戸内国際芸術祭をきっかけとして豊島美術館、
豊島横尾館などアートサイトの建築が進み、非常に多くの外国人観光客が訪れています。
よって、国内メインの予約サイトだけでなく、
Booking.comやAirbnbに英語で店舗の掲載をすることで、
外国人のお客様が当施設を見つけやすいようにする努力をしています。
また、インスタグラムはほぼ毎日更新することで、
島やmammaの今や、スタッフが考えていること、空気などを伝えようとしています。

さらにチェックインの時には、島で起きていること、
乳児院の歴史と人々のあゆみなどを紹介して、単に宿泊するだけでなく、
豊島のことを知ってもらう工夫を通じて、
お客様にとって豊島の滞在がひとつの学びになるよう心がけています。

豊島〈mamma〉での食事の様子

プレーヤーたちの止まり木やベースキャンプのような存在に

もうひとつ大切にしていることは、島の人たちとのコミュニケーションです。
mammaは日帰り入浴もできますし、宴会もできます。
日々、島の人たちに来ていただける環境を整えています。
こうした基本的なサービスを提供することはもちろん重要ですが、
それだけはありません。豊島は、森林豊かで水が豊富な島で、
無数の棚田に水を満たしてきた島でもありました。
しかしながら、森林の手入れが行われず、
イノシシも他の島から泳いで来て住みつき農作物を荒らしています。
さらに、春から秋のオンシーズンには観光客は多数訪れますが、
冬季はその差がひどく、訪問客は激減します。
こうした島の課題に取り組むことこそ僕らのミッションであって、
単にゲストハウス運営だけをしたいわけではありません。

ですから、これからのmammaがどういう展望を持っているのか。
そのスタートは、島の課題や挑戦に関わるプレーヤーたちの
止まり木やベースキャンプになればと思っています。
島の中と外の人たちが立ち寄って、「はじめまして」がたくさん生まれていく。
そこから始まるプロジェクトが必ずあるはずです。

僕としては、衣食住エネルギーを自給する、
学べる宿をやってみたいと思っています。
山形県金山町の認定こども園〈めごたま〉がこれを目指していて、
子どもたちが羊からウールを採ってさおり織をしていました。
薪ボイラーも使っています。そのシーンすべてがすてきすぎて、
僕もやってみたい気持ちになりました。
離島という特色を生かし、すべての素材を島から得て、
お客様、島の人、スタッフのみんなで動かす宿。すてきだなって思っています。

豊島〈mamma〉のスタッフ写真

information

map

mamma 

住所:香川県小豆郡土庄町豊島家浦43-1

TEL:0879-62-8881

宿泊料:

個室

1名1室/7,000円

2名1室/10,000円

3名1室/12,000円

※ハイシーズンは+1,000円/人

ドミトリー

1名/3,500円

※ハイシーズンは+500円/人

予約・問い合わせ先:

電話、メール、ウェブより受け付けています。

メール:teshima.mamma@gmail.com

ウェブ(予約ページ):https://mamma.rwiths.net/r-withs/tfi0010a.do

Feature  特集記事&おすすめ記事