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連載

山に囲まれ、綿を育てる。
産地発の新しい服づくり
「hatsutoki(ハツトキ)」

セコリプレス
vol.006

posted:2015.6.24  from:兵庫県西脇市  genre:ものづくり

〈 この連載・企画は… 〉  生地をつくったり、染めたり、縫製したり。
日本には、地域ごとに、色とりどりの服飾のものづくりが存在しています。
土地の職人とデザイナーをつなげる、セコリ荘が考えるこれからの日本の服づくり。

writer profile

Shinya Miyaura
宮浦晋哉

ファッションキュレーター。1987年千葉県生まれ。London College of Fashion在学中に書いた論文をきっかけに、日本のものづくりの創出と発展を目指した「Secori Gallery」を始業。産地をまわりながら、職人とデザイナーのマッチング、書籍『Secori Book』の出版、展示会の企画、シンポジウムの企画、商品開発などに携わる。産地のハブを目指したコミュニティスペース兼ショールーム「セコリ荘」を運営。 http://secorisou.com/

日本のへそ、西脇

2012年から、
僕は国内の繊維産地と呼ばれる地域を巡る活動を始めました。
東北から九州まで
生地を織ったり編んだりする工場や、
染める工場、縫う工場。
大小さまざまな日本各地の産地を訪れてきました。

そんな活動の中で、過去最多で訪れているのが
綿織物の国内最大の産地である兵庫県西脇市です。

西脇には「日本へそ公園」という不思議な公園があり
日本列島の東西と南北のほぼ中央に位置していることから
へそ公園という名前になったそうです。

西脇に行くには、兵庫県を南北に走るJR加古川線が便利です。
高速バスを使えば大阪と京都から1時間半ほどで市内に入ります。

既製品だと、なかなか生地が「どの産地でつくられた」
という情報までは表に出ませんが
シャツやスカート、ランチョンマットまで
西脇産の生地は、意外と身近なものに使われています。

西脇市を含める「北播磨地域」で織られた
先染めの薄地織物は「播州織」と呼ばれます。

綿の状態や、生地や服のかたちになってから
染めるケースもあるのですが、
この地域では200年以上にわたり、
糸を先に染めてから織る「先染め」の技法で
シャツ生地の生産に特化してきました。

色の表現力、製織技術が高く
肌触りの良い生地が播州織の特徴です。

繊維産地として栄えた地域の多くは、
大きな川が通っていて
豊かな水に恵まれています。

西脇も四方を山々に囲まれていて、
一級河川の加古川がまちを横断しています。

初めて西脇を訪問した時は、美しい風景の連続が衝撃的でした。

そんな豊かな自然や
そこでゆっくりとじっくりとものづくりに向き合う人たち。
優しいコットン素材に惹かれて
僕はたびたび足を運ぶようになったのです。

四季を感じながら、産地の技術を生かす

生まれも育ちも西脇の小野圭耶さん。
一方、東京生まれ東京育ちの村田裕樹さん。

左が小野圭耶さん。右が村田裕樹さん。

ふたりが、在籍する島田製織株式会社で、
力を入れるのが自社ブランドの「hatsutoki(ハツトキ)」。
西脇産地で長年培ってきた、生地づくりのノウハウを生かした
シャツとストールに特化したブランドです。
産地の中にいるからこその職人さんたちと近い距離で
糸づくり、生地づくりを行う工場に頻繁に足を運び、
服づくりに情熱を注いでいます。

糸染色工場でのワンショット。無数の色見本の中から、色を決めていきます。

小野さんと村田さんがhatsutokiに込める思いとは?

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西脇の高校を卒業後、専門学校でファッションを学び
Uターンをした小野さんは、
現在はhatsutokiのテキスタイルデザイナーとしても活躍中です。

「私は西脇の高校に通っている時に、
播州織をつくる職人さんに出会いました。
その職人のおっちゃんはキラキラと産地の話を聞かせてくれました。
当時は、よくわからないけど面白そう! という感覚でした。
大阪の専門学校でファッションデザインを学んだ後に、
現場でものづくりに関わりたいと思い、
生地の製造卸を行っていた島田製織に入社しました」と小野さん。

播州織は1980年の生産のピークを過ぎて
生産数も産地内の工場数も年々減り続けていました。

小野さんが入社して4年後の2010年。
自社でも製品をつくり、産地の名前をもっと前に出して
「播州織を発信しよう」と自社ブランド「hatsutoki」が誕生しました。
誕生とはいえ、従来の業務と並行していたので
なかなかブランドの名が広がることはありませんでした。

そんなタイミングで、村田さんが入社したと言います。
村田さんはhatsutokiで企画デザインを担います。

「僕は東京の服飾の専門学校でファッションデザインを学んでいました。
学生の時、東京のコレクションブランドや
生地展をたくさん見てまわっていたのですが、
どの服も同じ顔に見えてしまった瞬間がありました。
それは素材である生地自体に
オリジナリティのあるブランドが少ないからだと気がついたのです。
でも、僕は生地から服をデザインしたいと強く思っていたので、
自社ブランドを運営している産地企業を就職先に探すことに決めたのです」
と村田さんは当時を振り返ります。

東京出身の村田さんに西脇の魅力を伺ってみました。

「産地にいると工場の職人さんと直接やりとりができるのが一番の強みです。
電話やファックスだけでは、
コミュニケーションが難しいことも顔を見て話せると伝えられることもある。
あと、やっぱり自然に囲まれていることですね。
日本は四季が豊かなはずなんですが、東京生まれの僕からすると、
日常では気温の変化くらいしか季節の移り変わりを感じていなかった。
……ということを西脇に来てから気がつきました。
家の前の木々が新芽を吹いて春の訪れを教えてくれて、
田植えの時期にはカエルが鳴き出し、梅雨の夜にはホタルが飛び交います。
いまは畑では夏野菜が鮮やかです。
服づくりに直接関係しないことかもしれないですが、
大切な感覚だと思っています」

西脇に移り住んで4年目になる村田さんは、
シーズンごとのテーマの設定から各アイテムのデザイン、
生産管理まで幅広い領域を担当しています。

「感動しかなかった」綿畑での風景

さらに、hatsutokiを展開する傍ら、彼らは有志で集まり、
2012年頃から、綿(わた)づくりも始めました。

「服は畑からできている?」
というコンセプトを掲げた
「365cotton(サブロクコットン) 」というプロジェクトです。
コットンハウスという古民家を拠点に
綿花の栽培と綿(わた)の収穫を始めたのです。

毎年5月に、畑に和綿の種を植え、6月には新芽が顔を出します。

「この産地で、私たちは当たり前に綿素材を扱っていますが、
その栽培方法については詳しく知りませんでした。
いまは、国内の綿の産業自給率は0パーセントとなり、
インドやアメリカから輸入された綿糸を使用しています。
そんな中、西脇で綿の栽培をしている話を思い出しました。
畑に行くと、ちょうど白いコットンが一面に広がっていて、
感動するしかなかったです。育て方から学ぼうと思い、
毎月綿栽培のお手伝いを始めることにしました。
実はその綿を栽培している方は、
高校生の時に私に播州織の魅力を教えてくれた職人のおっちゃんで、
綿を栽培して今年で16年目です」

と小野さんは、活動を始めたきっかけを話してくれました。
地元の若手を誘い畑仕事を始めた小野さんの求心力は県外にも及びます。

コットンハウスの前に広がる綿畑。6月頃の様子です。

いまでは、毎月ワークショップが開催され、
5月の種植えから、10月の収穫まで
年間を通して綿花の栽培を体験することができます。

大阪や東京からの参加者も増え
綿の栽培量も増えてきたそうです。

10月頃になりコットンは弾け綿(わた)となります。

そうやって西脇でものづくりに没頭する彼ら。
東京ではない場所でアパレルブランドを展開していく未来像を伺いました。

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産地でのものづくり

工場で職人さんと会話をする村田さん。

服には、やはりトレンドは重要です。
市場の変化にも常にアンテナを張ってなくてはいけないから
アパレルブランドの拠点が都市に集中するのも納得です。

しかし同時に、hatsutokiのように、
日々、職人さんと顔を合わせて
一緒に機械の鼓動を感じなら、
技術の高みを目指すようなものづくりのかたちに
未来の可能性を感じています。

トレンドを追いすぎる結果、
マーケティング先行の服づくりになり
市場がどんどん均一化されてきました。

生地のデザインと製品のデザインが同時にできるのは
産地ならではだと思います。

最後に、ふたりがどんな服づくりを目指すか伺ってみました。

「僕たちのものづくりは、産地を新しい視点で見つめるところから
スタートします。先輩たちが残してくれた倉庫に眠る生地のサンプル、
職人さんとの会話、身近な自然が教えてくれる季節の流れ。
そんな産地の中で生活するからこそ、
産地の中でものづくりをするからこそ、
できることを追求していきたいと思っています。
厳しい状況ですが、転換期だからこそ、
今後のものづくりがとても楽しみです」(村田さん)

「私にとって西脇は産地でもあり地元です。
とても残念ですが、ほかの産地同様に、
西脇の工場も年々減ってきてしまっています。
しかし、最近西脇に移住する若手も増えてきました。
ありがたいことに、hatsutokiを応援してくださる人も増えて、
初めてのhatsutokiの新メンバーを募集したところです。
コミュニティづくり、コットンの栽培を含めて、
いまの活動が播州織の未来につながっていけばと思っています」(小野さん)

おふたりのコメント、hatsutokiのブログを読んでいると
服を選び購入して、それを着る日常のことを考えました。

どこかで知らない誰かが設定して
「流行りだよ」とメディアが教えてくれたトレンドではなく、
「こんな素敵な職人さんたちと一緒に、こんな想いで、
こんな工程を経てつくった服です」
というメッセージが添えられたhatsutokiの服は、
身近な大切な人に小さく勧めたくなるような気持ちになる気がしました。

information

hatsutoki 
ハツトキ

http://hatsutoki.com/

※彼らがやっているコットンのプロジェクト
「365cotton(サブロクコットン)」
http://365cotton.wix.com/365c

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