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国内最大の鞄生産地で
〈豊岡鞄〉を核に受け継がれる、
伝統あるものづくり

ものづくりの現場
vol.036

posted:2023.3.31   from:兵庫県豊岡市  genre:ものづくり

〈 この連載・企画は… 〉  伝統の技術と美しいデザインによる日本のものづくり。
若手プロダクト作家や地域の産業を支える作り手たちの現場とフィロソフィー。

photographer profile

Mitsuyuki Nakajima

中島光行

なかじま・みつゆき●写真家
1969年、京都生まれ。京都在住。京都をメインに国内外問わず、風景や暮らし、寺院や職人など、そのなかに存在する美しさを抽出することに力を注ぐ。博物館、美術館の所蔵作品、寺社の宝物、建築、庭園などを撮影。そのなかには数多くの国宝や重要文化財も含まれる。そのほかに、雑誌、書籍、広告など幅広く活動中。(公)日本写真家協会会員 「三度目の京都」プロジェクト発起人。

歴史ある国内最大の鞄の産地を訪ねて

180社以上の鞄関連企業が集まる日本最大級の鞄の生産地・兵庫県豊岡市。
中心市街地にある全長約200メートルの〈カバンストリート〉は、
宵田商店街振興組合が地場の鞄産業の協力を得て2005年3月に発足して以来、
現在は、鞄関連のお店が14軒にまで増え、
「鞄のまち」を象徴する商店街として賑わっている。

各企業がプライドをかけてものづくりに取り組み、
職人たちがひしめくこの鞄のまちには、
さまざまな個性豊かなショップやアトリエが点在する。

豊岡鞄に魅了された人々が集まる“ものづくりの現場”

〈カバンストリート〉の拠点施設として知られる
〈Toyooka Kaban Artisan Avenue(トヨオカ カバン アルチザン アベニュー)〉。
1階は産地が発信するオリジナルブランドのほか、
豊岡産のさまざまなブランドを取り扱う専門店、
3階には次世代の鞄職人を育成する〈アルチザンスクール〉を併設。

店内には〈豊岡鞄〉をはじめ約150種類の鞄がズラリと並ぶ。(写真提供:Toyooka Kaban Artisan Avenue)

店内には〈豊岡鞄〉をはじめ約150種類の鞄がズラリと並ぶ。(写真提供:Toyooka Kaban Artisan Avenue)

2006年に工業製品として全国で初めて認定された地域団体商標「豊岡鞄」では、
そのブランドへの信頼性を高めるために兵庫県鞄工業組合が定めた基準を満たす
企業によって生産され、独自の製品検査基準も設けている。

2014年4月にオープンした〈アルチザンスクール〉では「1枚のラフスケッチから1人で鞄を製造できる職人の育成」をモットーに鞄職人たちが講師を務め、年間10名の学生が鞄づくりを学ぶ。

2014年4月にオープンした〈アルチザンスクール〉では「1枚のラフスケッチから1人で鞄を製造できる職人の育成」をモットーに鞄職人たちが講師を務め、年間10名の学生が鞄づくりを学ぶ。

「北海道から沖縄まで全国各地から学生さんが集い、
イチからひとりで鞄がつくれる職人の育成を目的に取り組んでいます。
1年間のプログラムのなかで豊岡市内のメーカーから
鞄づくりに必要な素材を提供していただき、
現役の職人や鞄企業から直接ものづくりを学べる実践的なカリキュラムは
生産地ならではの強みだと思います」と専任講師の竹下嘉壽さんが教えてくれました。

information

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Toyooka Kaban Artisan Avenue 

住所:兵庫県豊岡市中央町18-10

TEL:0796-34-8118(豊岡まちづくり株式会社)

営業時間:11:00〜17:30

定休日:水曜

Web:Toyooka Kaban Artisan Avenue

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思い出の鞄が蘇るメンテナンス専門店

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100年の歴史を積み重ねてきた鞄の「修復と再生」

〈カバンストリート〉の一角に佇む〈カバンコンシェルジュ キヌガワ〉は、1913年創業の会社。

〈カバンストリート〉の一角に佇む〈カバンコンシェルジュ キヌガワ〉は、1913年創業の会社。

100年を越え、思い出ある鞄をより長く愛用してもらうため、
「鞄のまち」豊岡ならではの培ってきた技術をもとに、
ハンドル、ヌメ革や内装交換、ステッチ修理など
職人がひとつひとつ丁寧に仕上げていく。
その特徴として、まずはカウンセリングを行い、
1点ずつカルテを作成することから始まる。

単純に鞄のパーツを直すのではなく、お客さんの思いを汲み取った修復、再生をモットーに、革製品の汚れやカビの除去など、傷、色、艶、風合いを蘇らせていく。

単純に鞄のパーツを直すのではなく、お客さんの思いを汲み取った修復、再生をモットーに、革製品の汚れやカビの除去など、傷、色、艶、風合いを蘇らせていく。

現在は店舗に併設している工房で8名の職人さんが鞄のメンテナンスに尽力している。
そのなかには〈アルチザンスクール〉の卒業生も。

高貴で味わい深い天然革製品は、お手入れ次第で短命に終わることもあれば、
永年使い続けることもできる。
この鞄のまちで培ってきた経験をもとに、思い出の品を代々受け継いでもらえるよう、
常に最善の技術をもってお客さんの期待に応えている。

information

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カバンコンシェルジュ キヌガワ

住所: 兵庫県豊岡市中央町18-8

TEL:0796-37-8012

営業時間:9:00~17:00

定休日:日曜

Web:カバンコンシェルジュ キヌガワ

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創作活動を収益化する “新たな発信拠点”とは?

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次世代を担う鞄職人やクリエイターが集う

〈Apartment(アパートメント)〉は、クリエイターの創作物を取り扱うショップ、
会員専用のアトリエ、展示会やセミナーを行うライブラリの全3フロアからなる
〈カバンストリート〉の新たなものづくりの拠点として2022年6月にオープンした。

2階には月額会員制のアトリエを備え、会員さんは制作した作品を1階のショップでも販売することができる。

2階には月額会員制のアトリエを備え、会員さんは制作した作品を1階のショップでも販売することができる。

現在は21歳から55歳までの会員が在籍し、鞄だけでなく、財布や靴、
杞柳(きりゅう)細工、竹細工など、年齢や専門も幅広い分野の方々が
日々創作に励んでいる。
それぞれ得意分野がありつつも、何か悩んだときには情報を共有したり、
ここから新しいコラボレーションが生まれることもある。
ものづくりを通してつながる場として活用してもらえたらうれしいと話すのは、
オーナーの下村浩平さん。

下村さんは同じ〈カバンストリート〉内に自身の鞄ショップ〈Maison Def(メゾンデフ)〉を構えている。

下村さんは同じ〈カバンストリート〉内に自身の鞄ショップ〈Maison Def(メゾンデフ)〉を構えている。

もともとは下村さん自身も〈豊岡鞄〉に興味を持ち、2010年に福岡から移住したという。
「ファッションに興味があって独学で鞄をつくったりしていました。
就職活動中に友人が持っていた雑誌に豊岡鞄が特集されていて。
すぐに調べて、卒業後は念願叶って豊岡の鞄メーカーに就職し、
企画営業やデザイン、販売を経験して独立しました」

下村さんにとって原動力になるのは、まだ駆け出しの頃に、
“こんな場所があったらいいな”と実現してつくったこの場所を、
同じように豊岡のものづくりに魅了され活動するクリエイターが
新たな創作を生み出す発信拠点として、さらに成長させることだ。

「会員さんが創作はもちろん収益化を目指しながら、1階のショップで
販売することで買い手との交流も生まれる。独立を目指す職人やクリエイター
の方々の活動を少しでもあと押しできればと思っています」

アトリエに並ぶ杞柳(きりゅう)細工の職人の山本香織さんの作品。「杞柳(こりやなぎ)」を編み上げ、全工程を手作業で行っている。

アトリエに並ぶ杞柳(きりゅう)細工の職人の山本香織さんの作品。「杞柳(こりやなぎ)」を編み上げ、全工程を手作業で行っている。

information

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Apartment 

住所: 兵庫県豊岡市中央町18-7

TEL: 070-8965-9110

営業時間: 10:00~16:00

定休日: 火曜・水曜

Web:Apartment

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創業100年の老舗が生み出した「箱型鞄」の原点

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木工部の技術を融合し変革を遂げる鞄づくり

鞄メーカーとしては日本で唯一木枠・家具を制作する木工部を持つ
〈マスミ鞄嚢(ほうのう)〉では、1916年創業以来、革を扱う技術と
木工技術を融合した鞄製品を数々生み出してきた。

そのルーツは明治時代にさかのぼる。肥沃な河原に生えている「杞柳(こりやなぎ)」で
編まれた「柳行李(やなぎごうり)」に、3本の革バンドを付属し、開発された
「行李鞄(こうりかばん)」は全国に知られる豊岡の特産品に。
1917年には漆塗りや錠前取りつけ等の改良を施し、当時新たに誕生した「新型鞄」の
創作に尽力したひとりが〈マスミ鞄嚢〉創業者・植村賢輔さんだった。

〈マスミ鞄囊株式会社〉の3代目として代表取締役を務める植村賢仁さん。

〈マスミ鞄囊株式会社〉の3代目として代表取締役を務める植村賢仁さん。

〈マスミ鞄嚢〉では先代による「新型鞄」の創作をきっかけに皮革製品に着目し、
柳を革に代えて、豊岡で初めて箱型鞄の開発に取り組むようになったそう。

1950年から60年代にかけて、海外渡航用鞄として多くの人々が愛用し、
さらに1984年には当時の皇太子様が御外遊に使う箱型鞄「船ダンス」を制作。
衣服を美しく運ぶことができ、船のなかでもそのまま箪笥として使われ、重宝されていた。

これまで培ってきた「箱型鞄」の長い歴史と、その技術を継承しながら、
時代に合わせてアップデートしてきた。
自社で木工部を持ち家具を製作する技術と、鞄をつくる技術をあわせもつ
〈マスミ鞄嚢〉だからこそできる職人技の賜物である。

>2016年に創業100周年を迎え、2018年7月には工場内に併設したファクトリーショップ。「船ダンス」や什器としても使用している「革貼デスク」もディスプレイしている。(写真提供:マスミ鞄嚢)

2016年に創業100周年を迎え、2018年7月には工場内に併設したファクトリーショップ。「船ダンス」や什器としても使用している「革貼デスク」もディスプレイしている。(写真提供:マスミ鞄嚢)

information

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マスミ鞄嚢 ファクトリーショップ

住所: 兵庫県豊岡市立野町5-1

TEL: 0796-37-8177

営業時間: 9:30~11:30

定休日: 火曜

Web: マスミ鞄嚢

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人と自然の共生から生まれるまちづくり

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コウノトリが再び豊岡の空を舞う

かつて特別天然記念物コウノトリの最後の生息地でもあった豊岡市。
1971年、戦後の日本の高度経済成長に伴う、生息地である湿地の開発や、
農薬の大量使用で餌となる生き物が激減し、日本の空から姿を消すことに。

実はその少し前から、コウノトリを捕獲して人工飼育を開始。
さまざまな苦難を乗り越え、25年をかけて飼育下での繁殖に成功した。

その後、豊岡では再び空に帰すための取り組みを開始し、
コウノトリの生息地となる水田や河川の自然再生、営巣するための人工巣塔の設置、
そして無農薬による米づくりを始めた。

2007年に野外での繁殖に成功し、今では毎年ヒナが巣立ち、全国で約300羽が大空を自由に舞う(2023年2月現在。写真提供:豊岡市)

2007年に野外での繁殖に成功し、今では毎年ヒナが巣立ち、全国で約300羽が大空を自由に舞う(2023年2月現在。写真提供:豊岡市)

人と自然の共生を考えるエコミュージアム〈豊岡市立コウノトリ文化館〉。施設内には、野生復帰に向けた取り組みを学べる多目的ホールや、併設された観測デッキから周辺の田んぼやビオトープを舞う野生のコウノトリを見ることができる。(写真提供:豊岡市)

人と自然の共生を考えるエコミュージアム〈豊岡市立コウノトリ文化館〉。施設内には、野生復帰に向けた取り組みを学べる多目的ホールや、併設された観測デッキから周辺の田んぼやビオトープを舞う野生のコウノトリを見ることができる。(写真提供:豊岡市)

「コウノトリも住める豊かな環境づくりのため、市民と協働してつくった湿地や
ビオトープの整備などさまざまな取り組みが広がっています。
農薬や化学肥料に頼らず、おいしいお米と多様な生き物を同時に育む
“コウノトリ育む農法”に力を入れており、豊岡の環境と経済の好循環にもつながっています」
と館長の稲葉一明さん。

information

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豊岡市立コウノトリ文化館

住所: 兵庫県豊岡市祥雲寺127番地

TEL: 0796-23-7750

開館時間: 9:00~17:00

定休日: 月曜(祝日・振替休日にあたる場合は、その翌日)

年末年始(12月28日から1月4日)

Web: 豊岡市立コウノトリ文化館

自然の神秘を感じる、ダイナミックな景勝地

〈玄武洞公園〉の5つの洞は、「玄武」「青龍」「白虎」「南朱雀」「北朱雀」と、
中国の四神にちなみ名前がつけられている。
今から約160万年前の火山活動で噴出した溶岩が冷えて固まりできた
〈玄武洞(げんぶどう)〉。六角形の柱状に規則正しく割れ目が入り、
長い歳月をかけ波の侵食により現れた独特の地形は、まさに自然が創った大彫刻だ。

その希少性から国の天然記念物に指定されている〈玄武洞〉。2022年には世界の「地質遺産100選」に選出され、山陰海岸国立公園を代表する貴重な自然遺産として注目される。

その希少性から国の天然記念物に指定されている〈玄武洞〉。2022年には世界の「地質遺産100選」に選出され、山陰海岸国立公園を代表する貴重な自然遺産として注目される。

information

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玄武洞公園

住所:兵庫県豊岡市赤石1347

TEL:0796-22-4774

開園時間:9:00~17:00 (16:30以降の入園不可)

定休日:年末年始(12月29日から1月3日)

Web:玄武洞公園

人と自然が共生し、歴史ある地場産業をまちが一体となって守り、育てる。
全国へとその名を広めつつある〈豊岡鞄〉は、先人たちが築いてきた鞄づくりへ
敬意を払い、伝統と技術を継承しながら常にアップデートし続けている。
そんな品質の高いジャパンメイドの拠点で心ときめく鞄にきっと出合えるはず。
日本一の鞄のまち、豊岡でものづくりの現場をぜひ一度訪ねてみては。

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