古色蒼然とした屋敷を宿として再生
佐渡の中央部に位置する、国仲平野。
ふたつの山脈に挟まれ、美しい自然を有するこのエリアは
「トキの森公園」などの観光スポットもあり、
ほかのエリアにもアクセスしやすい地区です。
山から平野へ、清らかな水が流れるこの辺りは、その昔、豊かな農村地帯でした。
いまでも、穏やかな農村風景の名残をここかしこに見ることができます。
今回ご紹介するのは、同エリアにある農家民宿
〈カールベンクス古民家民宿YOSABEI(よさべい)〉。
両津港から15分ほど車を走らせ、林を抜けると、
オレンジ色の外壁に黒い屋根の建物が現れました。
その向こうには、畑が広がっています。
実はこの建物、江戸時代の家をリノベーションしたもの。
一歩、中に入ると、吹き抜けのダイナミックな空間が広がり、
正面には江戸時代に広まった階段箪笥が。
天井には太い梁が張り巡らされています。

リビングはかつて、村をあげての結婚式やお葬式に人々が集った場所。ダイニングテーブルはカール・ベンクスさんのデザイン。イスは佐渡の家具店で購入したもの。
床はフローリング、壁は桜色の漆喰壁。
新築のようにぴかぴかでありながら何ともいえず落ち着くのは、
古い木に包まれているせいでしょうか。木材のほとんどは、
元の家で使われていた200年前の木を使用しているといいます。
宿のオーナーは仲塚周子さん、雄輝さん夫妻。
娘の木春ちゃん(5歳)、木ノ芽ちゃん(1歳半)と家族4人でこの家に暮らし、
住み開きの宿を営んでいます。
東京に暮らしていたふたりは、東日本大震災を機に
「いつかは移住を」と考えるようになり、
2015年に周子さんの実家がある佐渡にIターン。
佐渡に移る大きなきっかけとなったのは、周子さんが受け継いだこの家でした。
「私の家は、祖父の代まで400年間ここに根ざしていました。
この辺りが農村として栄えていた頃は、庄屋さんを務めていたこともあったようです。
ところが祖父が他界して数年後に、この家が壊されるという話が持ち上がって。
そのときに、これまで受け継がれてきたものがなくなってしまうことに
強い抵抗を感じたんですね。それで最初は移住するつもりもなく、
老朽化した家を直すことにしたんです。とにかく“家を直そう”と」(周子さん)

仲塚雄輝さん、周子さん夫妻と娘の木春ちゃん、木ノ芽ちゃん。
その頃に雄輝さんが見つけたのが、ドイツ出身の建築デザイナー、
カール・ベンクスさんのことを紹介している本。
数々の古民家を再生させてきたベンクスさんは、新潟県十日町市に暮らしていました。
ふたりはすぐに会いにいき、ベンクスさんに改修をゆだねることに。
そしてベンクスさんと打ち合わせを重ねるうちに、
いつしか移住を決心していたといいます。
「ドイツでは街道沿いで暮らす農家はゲストルームを持っていて、
お客様をお迎えするそうです。そういうことにチャレンジしてみては、
とベンクスさんに提案されて、ひと部屋くらいやってみよう! と決めたんです」
かくして完成したのは、お客さんを迎え、暮らしながらもてなせる家。
ゲストルームは2階の角部屋にあり、風通しがよく、光溢れる空間。
窓からは林や蔵、長屋門を改装した新館が見えます。
また、宿泊客には専用のシャワールームと洗面台、トイレも用意されています。

2階に上がると吹き抜けを囲んで回り廊下のようなっており、奥に客室が。

ベッドとソファ、小さなアンティークのテーブルが置かれたシンプルで過ごしやすい部屋。
ベンクスさんがデザインしたテーブルが置かれているリビングは、
その昔、囲炉裏があった場所。
家に囲炉裏があった時代は、囲炉裏から立ち上る煙が建物と茅葺き屋根を燻し、
湿気や害虫から家を守るという、火を中心とした暮らしが営まれていました。
囲炉裏は祖父の代でガス台に変わりましたが、
今回の改修では、リビングに大きな薪ストーブを設置。
薪ストーブは上に鍋を置き、炉として使うこともできます。
揺らめく火を眺めながらじんわり温まる感覚は、エアコンでは味わえないもの。
やっぱり、火を囲む暮らしはよいものです。

薪ストーブが置かれたリビングスペース。
柱や梁は、ベンクスさんのこだわりで“煤黒”色にペイント。
これは、囲炉裏の煙が家屋を染める色をイメージした色なのだとか。
柱や漆喰を塗る作業は、地元の腕のいい職人さんに教わりながら、
雄輝さんと周子さんも行いました。
