ほどよい辛さが、優しさの証
米どころのイメージとは結びつきにくいかもしれませんが、
新潟は知る人ぞ知るラーメン王国。
しかも三条のカレーラーメンや長岡の生姜醤油ラーメン、妙高のとん汁ラーメン、
新発田のもつラーメンなど、ほかではあまりお目にかかれないいわゆる変わり種が、
局地的に人気なのが特徴といえます。
そんななかでここ数年、新潟で盛り上がっているのが、麻婆麺。
ラーメンに麻婆豆腐をかけたものを王道とし、
スープまでとろみをつけたもの、激辛・痺れ増しのパンチが効いたもの、
背脂でさらにこってりとさせたもの、隠し味にチーズでまろやかに仕上げたものなど、
各店が工夫をこらしています。この食べ比べが楽しいもの。
他県では、中華料理店ではたまに見かけるものの、
ラーメン専門店としては意外と珍しいメニューではないでしょうか。
「私は新潟出身で、東京に嫁いで20年くらい暮らしていたんですけど、
お父さんがある日突然ラーメン屋をやるって言い出して、脱サラしちゃってね。
東京にいる頃は、外食といったらラーメン屋さんにしか連れて行ってもらえなかったんだけど、
まさか自分たちでやることになるなんて思わなかったわよ!」
と笑って話すのは、新潟市江南区にある
〈ラーメン工房 まるしん〉のおかみさん、小田郁子さん。
“お父さん”こと店主の小田隆さんは、サラリーマン時代からラーメンづくりが趣味で、
休日になると友人、知人によく振る舞っていたそう。
荻窪にあったラーメン店での修業を経て、新潟に移住して〈まるしん〉をオープンさせたのは、
30年ほど前のこと。ただしオープンして間もない頃、
麻婆麺は1日に2、3杯出ればいいほうだったと隆さんは言います。
「麻婆豆腐は知っているけれども、
麻婆麺なんて見たことも聞いたこともないというお客さんがほとんどでしたからね」
メニューの片隅に20年以上ひっそりとあった麻婆麺は、4、5年前から徐々に人気が出始め、
今ではお客さんの7割がオーダーするほどに。気になるお味はというと、
麻婆豆腐が麺を覆い尽くすようにかかっていて、甘辛いうまみが際立っています。
濃厚でとろみが強く、最後まで熱々でいただけるのも、
寒い寒い新潟で愛されるようになった理由なのかもしれません。

麻婆豆腐が麺とスープにフタをするようにかかった「マーボ麺」850円。ネギとふわふわの豆腐、コリコリとしたキクラゲの食感の違いを楽しんで。サンショウの香りもさわやか。
「単体で食べたり、白いご飯に乗せる麻婆豆腐は、みそ味をベースにすることが多いけど、
うちでは麺に合うようにしょうゆベースにしています。ファミリーでいらっしゃる方が多いので、
子どもからお年寄りまでおいしく食べられるよう、辛さも柔らかくしているんです」(隆さん)
辛さや刺激を売りにするようなお店が増えているなか、あえて控えめなスパイシー加減。
ひき肉や豆腐と一緒に炒めたトウガラシと、
最後に上からふりかけているサンショウのバランスが絶妙です。
「小さい子はサンショウ抜きにする場合が多いのですが、小学3年生くらいになると、
一丁前にサンショウ入りを食べるようになりますよ」(隆さん)
麺の量は約180グラムとボリュームたっぷりなのですが、
ほかのお店のは辛くて食べられないという子どもやお年寄りも、ぺろりと平らげてしまうそう。
辛党にはもの足りないかというとそんなことはなく、
卓上にある自家製ラー油をプラスして好みの辛さにアレンジすることも。
まさに老若男女が満足できる麻婆麺なのです。
ほかにも、「汁なしマーボ麺」という気になるメニューが。
実はこれも、お客さんのことを考えて生まれたのだとか。

見た目は似ているけれども、こちらが「汁なしマーボ麺」850円。冷たい麺と熱々のあんをしっかり絡めてめしあがれ。
「上にかけている麻婆豆腐は一緒ですが、
名前の通りスープがなくて、麺を冷たくしているんです。
夏場も麻婆麺はよく出るのですが、
お昼休みにいらっしゃるYシャツにネクタイ姿のサラリーマンが
汗だくになって食べているのを見て、
これで会社に戻ったら大変だと思い、冷たい麺にしてみたんです。
そしたら結構評判がよくて、通年メニューになりました」(郁子さん)
とろみの強い麻婆豆腐に氷でしめた麺を絡めると、
たしかに食べやすくなり、これなら猫舌の人にもよさそう。
おいしく食べてもらいたいという細やかな気づかいが、うれしくなる一品です。