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posted:2024.9.27 from:岐阜県大垣市 genre:ものづくり
〈 コロカルニュース&この企画は… 〉
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writer profile
Naomi Kuroda
黒田 直美
くろだ・なおみ●愛知県生まれ。東京で長年、編集ライターの仕事をしていたが、親の介護を機に愛知県へUターン。現在は東海圏を中心とした伝統工芸や食文化など、地方ならではの取り組みを取材している。食べること、つくることが好きで、現在は陶芸にもはまっている。
ファッション衣料の生地を染色し、風合いを整える
「染色整理加工」を行っている岐阜県大垣市の株式会社艶金。
染色過程ではたくさんの水を使用したり、大量のCO2を
排出することから、この会社では、環境に配慮した取り組みを行っています。
工場内では、早くから木材チップを燃料とするバイオマスボイラーを導入し、
カーボンニュートラルを実現。また、染色機メーカーとの共同で、
開発した省エネルギー染色機の導入や、2021年より太陽光、風力、水力などの
再生可能エネルギー率を高めてきました。
そういった企業理念の一貫から、岐阜県産業技術総合センターと
共同開発でスタートしたのが、食物残渣を生かした染色です。
当時のことを墨勇志(すみゆうじ)社長はこう話します。
「岐阜県産業技術総合センターは、県内の繊維、食品、和紙などの
研究をしているのですが、食品部に地元のピーナッツ加工のメーカーから、
廃棄する殻や渋皮を有効利用できないかという相談がありました。
そこで、繊維部が試し染めをしてみると黄色く染まったのですが、
天然染めは、洗濯したら色が落ちてしまったり、
干すと色が変色してしまったりといった難点があるため、弊社が技術協力し、
1年以上かけて実験、試作を繰り返し、ようやく染料をつくることができました」
初めてピーナッツの皮でつくったあたたかい色合いは、社員たちにも好評だったとか。
それ以後、近隣の農家さんから出る地元産の栗や柿、ブルーベリーをはじめ、
植物廃棄や、企業から持ち込まれるワインの搾りかすやカカオの皮、
老舗の和菓子屋から出るアズキの皮などから、染料をつくり、
現在は12色の天然染料を製造しています。
〈のこり染〉をスタートしたときには、まだ天然染料に関心を持ってもらうことは難しく、
染色から縫製まで自社工場で一貫して製造し、製品化したのだとか。
展示会に出展しながら、アピールしていくうちに、徐々に環境への意識が高まり、
「廃棄されたカカオの皮で染めた会社のユニフォームをつくりたい」と
飲料メーカーから依頼がきたり、「ノベルティや記念品をつくってほしい」
との依頼で、大手メーカーとコラボするまでに成長しました。
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天然染料は、自然のものだけで抽出しているため、
染色時に使う水を汚すことも最小限に抑えられます。
「のこりもの」から生まれるありがたい染料であることから、
ブランド名も〈のこり染〉とし、これを利用して製造する生活雑貨
〈KURAKIN(クラキン)〉を立ち上げました。
色合いだけでなく、やさしい風合いの麻100%のルームシューズです。
素足に履いても心地よいやわらかさです。
ブルーベリーの濃紺やワインのピンクが自然由来と思えないほど、
美しい発色となっています。
スマホはもちろん、ちょっとした小物を入れて使うにも便利なスマホショルダーも、
ナチュラルな色合いの〈のこり染め〉はどんな洋服にも似合います。
そのほか、ランチョンマットや鍋つかみ、エプロンといったキッチン用品も
充実していて、安心安全な素材で食卓を彩ってくれます。
こうして、天然染料での仕事が少しずつ軌道に乗ってきたことで、
今度は染色工場内にある在庫として眠る生地や不良品とされた生地を
再利用し、衣料品へよみがえらせるアップサイクルブランド
〈retricot(リトリコ)〉を2022年より展開。
裁断の際に出るはぎれも使用するなど、いかに布地を生かすかを
常に考えるようになったといいます。
現在は、地元の大垣桜高校の服飾科とコラボして、洋服デザインしてもらったものを
製作したり、服飾専門学校の卒業制作などに廃棄する生地を使ってもらうなど、
若い世代に向けた環境への意識づくりも始めています。
大垣市が主催する「子どもの仕事体験」で〈のこり染〉を体験してもらったり、
自社工場の見学と合わせて、〈のこり染〉の体験ワークショップも開催しています。
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現在、日本での衣類の製造は減少の一途をたどり、
ほとんどが海外生産に移ってしまっていまるのが現状です。
艶金も国内生産が減ったことで、メーカーから反物の染色の仕事がなくなり、
一時、工場の倉庫はガラガラになってしまったこともあったそうです。
そうしたなか、海外で生産したストックを倉庫に預かるようになると、
売れ残った商品も大量にストックされるようになりました。
その結果、メーカーから、倉庫代を浮かせるため、洋服の廃棄を依頼されます。
焼却される大量の服を目の当たりにして、このままでは地球環境は
どんどん汚染されてしまうと、墨社長は感じたそうです。
「安価で大量の服をつくることで、1着あたりの寿命がどんどん短くなっていく。
そういったファッション業界の流れに、疑問を感じるようになりました。
この『もったいない事態』に気づいてもらうひとつの方法として、
もったいないをコンセプトとした取り組みをしていこうと、
食物残渣から染料を作ることにも繋がっていったんです」
大垣は〈水の都〉といわれるように、河川がたくさんあり、水源が豊富です。
この地を生かして、少しずつでも環境にやさしいものづくりをしていくことを念頭に、
敷地内ではオーガニックで野菜を育て、それを食堂で使用するなど、
食物連鎖の循環にも目を向けています。
企業と地域の人々が一体となって、環境への意識を高めていきながら、
地域を活性化させていく。艶金の挑戦はまだまだ広がっていきそうです。
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