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posted:2024.6.25 from:新潟県妙高市 genre:旅行
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writer profile
Katsura Hiratsuka
平塚桂
ひらつか・かつら●ライター。神奈川県出身。東京で活動後、2012年より京都拠点。建築・まちづくり分野を中心に、月刊誌やWebメディアへの寄稿を行う。趣味は野球観戦。
築約120年の古民家を再生した〈MAHORA西野谷〉は、
1棟1組限定の宿泊施設です。
妙高連峰を望む伸びやかな田園風景の中に佇んでおり、
建築や食事、アクティビティなどを通じて、
地域の豊かな自然や文化に触れながらリフレッシュできます。
MAHORA西野谷のあるエリアからは妙高山、
火打山など複数の「日本百名山」の風景が楽しめます。
なかでも妙高山は初心者でも登りやすく、多くの登山客が訪れるメッカです。
また車で5分のロッテアライリゾートをはじめ、
複数のスキー場に近接しています。
夏はトレッキング、冬はスキーやスノーボードを楽しむことができ、
妙高山麓には7つの温泉(赤倉、新赤倉、池の平、妙高、杉野沢、関、燕)が集まる
「妙高高原温泉郷」もあります。
恵まれたリゾートコンテンツを擁する一方で、
高齢化や後継者の不在といった課題に直面し、
農業の担い手不足や空き家問題に悩む地域でもあります。
このMAHORA西野谷も、10年以上空き家となっていた民家を改修し、
生まれ変わったものでした。
「建物は約120年前につくられたそうです。
しばらく空き家でしたが、次世代へとつなぐため、宿として再生することにしました」
そう語るのは宿を運営する合同会社穀宇の共同代表、蔡紋如(サイ・ウェンル)さん。
2010年にワーキングホリデーで台湾から初来日し、
結婚を機に2014年に妙高に移住。
夫と農業を営み、妙高市のインバウンド誘致の仕事に関わるなかで、
「もっと日本のよいところを多くの人々に知ってほしい」という思いが募り、
この施設を立ち上げたそうです。
中に入ると吹き抜けの土間があり、梁の存在感に驚かされます。
「1902年5月、この地を襲った土石流により約30戸が被害を受け、
その後安全な土地に再建された住居のひとつがこの民家だそうです」
柱や梁は再利用されたものも多く、
よく見ると部材に以前の住居のためのホゾ穴などがたくさん残っています。
120年をさらに遡る、長い歴史がうかがえます。
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土間の隣にあらわれるのが、囲炉裏のある大空間です。
塞がれていた囲炉裏が改修により復活し、団らんの場になりました。
囲炉裏の上には、煙受けと照明を兼ねたスチール製の傘が浮かび、
落ち着きと一体感をもたらしています。
「設計は、京都大学で風土を生かした建築を研究する小林広英先生にお願いし、
相談しながら改修を進めました。
できるだけ元の建物のつくりや建具を生かしながら、快適に過ごせるよう整えました」
囲炉裏は掘りごたつ風の仕様。
新潟県の家具メーカー〈朝倉家具〉にオーダーしたクリ材の座椅子にもたれつつ、
脚を下ろしてゆったりと過ごせます。
団らんや食事のスペースとしてはもちろんのこと、
ちょっとしたミーティングやパソコン仕事にも使いやすそうです。
囲炉裏から外に目を移すと、大きな窓越しに田んぼの景色が広がります。
自然との距離の近さは、この宿ならではです。
その囲炉裏を囲むように、3つの客室が並びます。
8畳の和室2部屋は、床の間や雪見障子、竿縁天井などが継承された、
趣のあるゲストルームです。布団に慣れない人でも過ごしやすいよう、
6畳のベッドルームも用意されています。
寝具に蔡さんの出身地・台湾から直送した「Sleepy Tofu」が用いられるなど、
快適さにもこだわった寝室です。
さらにこの施設ならではの特徴が、地元食材を生かした朝食・夕食と、
体験プログラムです。自ら農業を営み、
地元ツーリズムに関わる蔡さんならではのネットワークにより、
通常の旅では接点を持ちづらい、地場のリアルな食と暮らしを体験できます。
「〈MAHORA西野谷〉がある妙高の矢代地区は、
きれいな雪解け水が流れ自然の恵みを受けた矢代米と呼ばれる、
おいしいお米が収穫できるエリアです。
私達夫婦が大切に育てたお米をはじめ、手づくりの味噌、
地元の農家さんと連携して提供する新鮮な野菜など、旬の食材を味わっていただけます」
食事には、ウドやゼンマイなどの山菜を使った料理や笹寿司、かんずりなど、
妙高の郷土料理が登場するので、地元食材を味わいながら、
伝統的な食文化も理解できそうです。
そして季節に合わせ、田植えや稲刈り、竹の流しそうめん、
野菜の収穫体験、郷土料理づくりなどの体験プランもオプションで用意されています。
さらに併設のシェアキッチンでは食材を持ち込んで料理をすることも可能なうえ、
シェフを招いた飲食イベント、カフェや物販のポップアップなども企画しているとのこと。
「この場所での体験を通じて未知の景色や文化と出合い、
地域の人たちと交流することで、また妙高に来たくなるきっかけを生み出したい」
と蔡さんは思いを語ります。
MAHORA西野谷では、訪れる人々と地域との接点をつくり、
里山体験を提供することを通じて、
持続可能なコミュニティを築くことが目指されています。
例えば体験の案内人や、朝食・夕食の提供などは
MAHORA西野谷の取り組みに共感した地域の人々が担う仕組みになっており、
過疎化が進む地域における仕事づくりの一面も持っているのです。
妙高の自然や伝統文化と密着した、小さな古民家宿。
そこでは自然の恵みの背後にある、大きな歴史や循環、
そして農村の暮らしを実感できる、濃密な体験が待っていそうです。
*価格はすべて税込です。
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