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posted:2023.4.20 from:長崎県雲仙市 genre:買い物・お取り寄せ
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writer profile
Saori Nozaki
野崎さおり
のざき・さおり●富山県生まれ、転勤族育ち。非正規雇用の会社員などを経てライターになり、人見知りを克服。とにかくよく食べる。趣味の現代アート鑑賞のため各地を旅するうちに、郷土料理好きに。
〈天洋丸(てんようまる)〉は、長崎県にある島原半島の西端に位置する雲仙市南串山町で
主にまき網漁でカタクチイワシを獲る水産業の会社です。
年間の水揚げ量は全体で1000トンほど。
地元以外から若い漁師や漁師体験を希望する人を積極的に受け入れ、
漁以外に食品や雑貨を販売する事業も展開しています。
天洋丸が手がける製品のひとつに〈網エコたわし〉があります。
網エコたわしとは、古くなった魚網を使いやすいサイズに切って、
洗浄・殺菌したものです。
代表を務める竹下千代太さんが、ひょんなことから
「網をたわしとして商品化したらどうか」と提案されて誕生しました。
魚網は定期的に繕いながら使われます。しかし、10年ほどで新しいものと入れ替え。
使い古した網は、畑の鳥よけなどに利用されてきました。
一方、漁師たちは自分たちの包丁やまな板などを網の端切れで洗っていました。
小さなカタクチイワシを獲るための網は、
網目が細かく洗剤がよく泡立つため、洗い物にぴったりだからです。
当初は、使い古したものだからと
商品のおまけとしてプレゼントしていましたが、販売して欲しいという声が急増。
しばらくして福岡のテレビ番組で料理家が愛用しているとコメントして
福岡を中心に注目されました。
パッケージデザインも工夫を施して、「2021年長崎デザインアワード」で大賞を受賞。
ネット通販以外にキッチン用品を扱うお店にも置かれ、年間1万個も販売される
ヒット商品になりました。
代表の竹下さんは、会社員として名古屋で働いていましたが
漁業の現場で働きたいという思いが募り、2001年に妻子とともにUターン。
家業を継ぎました。
妻の敦子さんは神奈川県横浜市出身。
新しい環境での暮らしとなったことから、地域を知ろうと活動を始めます。
そこで出会ったのが郷土の炊き込みご飯、自転車飯です。
自転車飯という、一風変わった名前の料理が当地で誕生したのは昭和初期。
昭和2(1927)年に島原半島を自転車で一周する大会が開かれたときのことです。
地元の人たちはその応援に出かけるため、
取るものも取りあえず、いりこだけが具になった素朴な炊き込みご飯を作りました。
その炊き込みご飯が
「じてんしゃんごて はよ たくる しょいめし(自転車のように速く炊ける醤油飯)」と、
自転車飯と呼ばれるようになりました。
いりこを広く知ってもらう方法を考えていた敦子さんは「じてんしゃ飯の素」として、
いりことごぼうやにんじん、しいたけなどの九州産の乾燥野菜を一緒にした商品を開発。
2009年から販売を始めたのが、天洋丸によるオリジナル商品のスタートでした。
その後、同じく郷土食の「エタリの塩辛」も商品化します。
エタリとは、天洋丸が主な漁場とする橘湾周辺でのカタクチイワシの呼び方です。
つくる人も食べる人も少なくなったエタリの塩辛でしたが、
敦子さんと関係者の努力により
2005年にスローフード協会国際本部の「味の箱舟」計画に登録されて、
その価値が認められます。
地元ではいりこ生産者が中心となって「エタリの塩辛愛好会」を発足。
子どもたちに向けた食育イベントなども行っています。
ほかにもいりことドライフルーツやナッツを組み合わせた〈橘湾のOYATSU〉シリーズなど、
いりこを気軽に食べられる商品も販売しています。
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天洋丸が主に行っているのは、夜間に海に出て朝に港に戻るまき網漁。
以前は船主以外の乗組員は
近隣の農業従事者がパート勤務で漁を担っていました。
しかし、パート乗組員の高齢化に伴って、人材不足に直面。
天洋丸を株式会社化して
漁業者を募ろうと漁業の就労イベントに繰り返し参加しました。
漁師の仕事と地域を体験する期間を設けるほか、寮も完備して人材の確保に努めました。
その結果、現在では、女性漁師2名を含む
全国各地から集まった乗組員がふたつの漁船団で漁に出ています。
また、2017年からインドネシアからの技能実習生も受け入れています。
現在は技能実習生4人、技能実習から特定技能に移行した2人が
乗組員として仕事をしています。
インドネシアから来た実習生が欠かさず食べているのが、サンバルという辛味調味料です。
インドネシア人の食生活になくてはならないもので、
現地では各家庭で唐辛子とニンニクを中心につくられます。
天洋丸で仕事をするインドネシア人たちは、寮の前にある畑で唐辛子を栽培し、
サンバルをつくっていました。
その様子を見て、自分たちで漁獲したカタクチイワシの煮干しを入れた
オリジナルのサンバルをつくることに。
インドネシア料理の研究家を東京から南串山町に招いて〈ニボサンバル〉が開発されました。
「ニボサンバル」は日本人でも食べやすいよう辛さは控え目。
インドネシア人には「辛さが足りない」と言われているのだとか。
ほかにもインドネシアの食文化を地域の人たちに伝える「インドネシア料理研究会」の活動や、
お祭りでインドネシア式のジャンケンゲームをして、
屋台でインドネシアのフードを販売するなど、
実習生たちと地域の人たちが自然な交流ができるようにと企画を行なっています。
天洋丸の拠点、雲仙市南串山町は、長崎空港から車で1時間30分ほどかかる自然豊かな場所。
便利なところとはいえない南串山町ですが
海の仕事や商品の魅力を伝え、地域とのつながりをつくる活動が
若い漁師の定住を促しています。
天洋丸の活動は、地方の豊かさを守るモデルケースのひとつになるのかもしれません。
*価格はすべて税込です。
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