colocal コロカル マガジンハウス Local Network Magazine

連載の一覧 記事の検索・都道府県ごとの一覧
記事のカテゴリー

news

“木工のまち”大川に
森になる空間〈ARBOR〉が誕生

コロカルニュース

posted:2022.9.28   from:福岡県大川市  genre:ものづくり

〈 コロカルニュース&この企画は… 〉  全国各地の時事ネタから面白情報まで。
コロカルならではの切り口でお届けする速報ニュースです。

writer profile

Mayo Hayashi

林 真世

はやし・まよ●福岡県出身。木工デザインや保育職、飲食関係などさまざまな職種を経験し、現在はフリーランスのライターとして活動中。東京から福岡へ帰郷し九州の魅力を発信したいとおもしろい人やモノを探しては、気づくとコーヒーブレイクばかりしている好奇心旺盛な1984年生まれ。実家で暮らす祖母との会話がなによりの栄養源。

credit

photographer profile

Junpei Nakayama

中山淳平

福岡県那珂川市にあるBUTTHEN STUDIO所属。広告写真から家族写真、野外フィールドまで幅広く活動中。畑仕事も得意な、自然を愛するカメラマン。BUTTHEN STUDIO

木を知りつくす企業が、地域に開いた「森」

福岡県大川市に、
「つくる人をつくる森」をコンセプトにした
新施設〈ARBOR(アーバー)〉が誕生しました。

大川市といえば九州の
一大家具産地として有名な「木工のまち」。

その大川市にルーツを持つ
〈クレアプランニング株式会社〉が、
同社の敷地内に公園のような機能をもつ広場と
アウトドアブランドのショップを併設した
新施設・ARBORを9月3日に開業、注目を集めています。

広々とした敷地に緑地が映える。

広々とした敷地に緑地が映える。

1973年に創業したクレアプランニング。
主に商業施設、店舗の企画、デザイン、設計、
施工、木工什器製造をワンストップで行い、
さまざまな業態の空間を
大川の木工技術と共につくり続けてきました。

木の魅力を知りつくしている企業が提案する
ARBORとは、どんな施設なのでしょう?

福岡在住の彫刻家・新庄良博さんによる作品(中央)。さまざまな木の素材を生かしたインテリアが出迎える。

福岡在住の彫刻家・新庄良博さんによる作品(中央)。さまざまな木の素材を生かしたインテリアが出迎える。

芝生の丘を越えてエントランスを潜ると、
頭上では木材を薄く切り出したモニュメントが風に揺れています。

建築デザインを手掛けたのは、〈Happenstance Collective〉。

施設全体を囲う建材やインテリアに木材をふんだんに使った仕様で、
作り手の木に対する熱量が伝わってきます。

Page 2

オープニングレセプションの様子。

オープニングレセプションの様子。

ARBORでは、定期的に国内外のクリエイターや
アーティスト、職人たちが来場し、
木はもちろん、さまざまな素材や要素を用いた
エキシビジョンやワークショップなどを開催していくとのこと。

都心では実現することが難しい、
地方ならではの環境とクリエイティブな人材との
化学反応が楽しみですね。

福岡のアウトドアショップ〈CROSS ORANGE〉の2号店となる〈MONO THREE〉を併設。

福岡のアウトドアショップ〈CROSS ORANGE〉の2号店となる〈MONO THREE〉を併設。

“単なる集客スポットとは異なる視点で、
この場所だからこそ気づけるオルタナティブな
ライフスタイルに触れるきっかけをつくりたい。”

そんな思いが込められ、アートやアウトドアショップが
併設するパブリックな空間が誕生しました。

“未完成の森”がみつめる新しいものづくりの時代

「以前から、森をつくりたいと考えていた」という、クレアプランニング代表取締役社長の中田泰平さん。

ARBORのコンセプトは「つくる人をつくる森」。

「以前から、森をつくりたいと考えていた」という、
クレアプランニング代表取締役社長の中田泰平さん。

「『つくる人』とは、まず大川の生産者のこと。
ここで働く人にとって豊かで創造的な場所であることが大切です。
そして、コロナ禍を機に、受動的な娯楽から
能動的に自らものづくりをする、アウトドアで遊ぶといった
『つくる人』が生まれています。
ARBORも同様に、能動的な場所にしたい。
誰かが何かを始めるきっかけになればうれしいんです。」

そして「森をつくる」意味とは。

「『森』とは、遊びをつくる、創造する、
発展させるといったニュアンスを含んでいます。
アーティストだけでなく、ここを訪れた人たちから、
僕らが思いもしない出会いや楽しさを受け取るかもしれない。
この場所がどういう風に成長するかはわからない、
ゴールを決めていないからこそ未来がおもしろいんです」。

巨大な流木は、〈西海園芸〉の庭師・⼭⼝陽介さんによって植栽され、新たな息吹が注ぎ込まれた。

〈西海園芸〉の庭師・⼭⼝陽介さんによって植栽され、新たな息吹が注ぎ込まれた。

ARBORは、いわば“未完成の森”なのだそう。

長い歴史のある産地において、
「新しい時代の流れが必要である」と中田社長は話します。

Page 3

大川の歴史はまさに、木と共にあり。

筑後川の上流域の日田の山から木材を切り出し、
川に流して運ぶ「木流し」や「筏流し」は、
江戸時代から昭和20年代まで盛んに行われていたそう。

そのため下流域の大川では、木工産業が盛んになり、
建造物や造船、時には鉄道車両などをつくり、
近代では婚礼家具を中心に木工のまちとして発展してきました。

木によって支えられ、時代によって
生産する対象が移り変わってきた大川の木工産業。

「家具から次のものづくりへの過渡期である、
令和の時代だからこそARBORが生まれた」という言葉に、
長年大川の地でものづくりに向き合ってきた
中田社長の思いが込められていました。

柱に巻き付いてる“ニョロニョロ”は長崎県波佐見町にある西海陶器で制作された神山隆二さんの作品。

柱に巻き付いてる“ニョロニョロ”は長崎県波佐見町にある西海陶器で制作された神山隆二さんの作品。

ARBORの放つ世界観。

世界的にも活躍するアーティスト・神山隆二さんによる
陶器の作品が、柱にいくつも絡みついて展示されているなど、
ユニークさも兼ね備えます。

「材料以上、家具未満」というワードで、
荒削りな素材と洗練された家具の中間、
使い手によって変化する木の可能性があちこちに
散りばめられていて、見ているだけで楽しめます。

「世界観が変わると、まち全体がもっと素敵になるんじゃないか」。

“未完成の森”は、未来の芽となり徐々にこの地で花開くことでしょう。

2、3年後には一面が桜で満開になるそう。

2、3年後には一面が桜で満開になるそう。

オープニングイベントでは〈UPI〉のサウナテントも特設され
多くの人出で賑わいました。

今後の企画など詳しくは
こちらの公式インスタグラムをぜひチェックしてみて。

ARBORに携わるクリエイティブチーム。

ARBORに携わるクリエイティブチーム。

歴史ある産地だからこそ見出せる木材の持つ可能性と、
家具というツールにこだわらない自由度の高いクリエイションが
有機的に融合するARBOR。

ものづくりのアイデアを探しに、
ふらっと芝生に寝転がりに。

この秋、ARBORを拠点におもしろさを増していく、
大川や筑後地域を訪れてみてはいかがでしょうか?

information

map

ARBOR 

住所:福岡県大川市大字三丸1231-2

TEL:0944-87-2664

Feature  特集記事&おすすめ記事