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posted:2021.5.17 from:大分県別府市 genre:活性化と創生
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writer profile
Kanae Yamada
山田佳苗
やまだ・かなえ●島根県松江市出身。青山ブックセンターやギャラリースペース、ファッション・カルチャー系媒体などを経て、現在フリーのライター、編集者として活動中。まだまだ育ち盛り、伸び盛り。ファッションと写真とごはんが大好きです。
ゴールデンウィークもお家でまったりと過ごした人は多かったのでは?
どこにも行けない日々はまだ続きそうですが、
旅した気分になる映画やムービーなどを見て、
自由に旅行できる日を待ち侘びたいもの。
今日ご紹介する、大分は別府にて撮影された〈湯とひとと〉は、
温泉文化とそれにまつわる人々の想いをまとめたショートムービー。
旅行できない今だからこそ観たい、日本一の温泉文化の本質に触れ、
その営みや文化のすばらしさを知ることができる内容となっています。
撮影の舞台となったのは、
約5000を超える源泉のなかから厳選された9つの地。
そして別府の湯にたずさわる9人。
別府の山間に佇む立ち寄り湯〈夢幻の里 春夏秋冬〉。
ここには、四季折々の風景を楽しめる白濁の硫黄泉があります。
歴史を感じさせるクラシックな岩風呂や
迫力の滝を背に、美しい自然を独り占めできる露天風呂。
心身ともに大自然の恩恵を受け取ることができそうな、そんな極上の空間です。
約100年以上もこの地で受け継がれてきた硫黄泉を継承し、
当時の趣を残した営みを陰で支えるのは温泉の管理人・湯守の藤崎謙太郎さん。
そんな藤崎さんらの、入浴できる状態にするまでの手間隙や想いなどが、
趣向を凝らした美しい映像とともに知ることができます。
日々のたゆまぬ努力から成り立つ〈夢幻の里 春夏秋冬〉。
それがいかに尊いものか、このムービーからひしひしと伝わってきます。
にぎやかな湯布院中心部より車で5分。
もくもくと立ち上る蒸気を分け入ったところにあるのが
温泉保養集落〈ゆふいん束ノ間〉です。
淡いブルーの温泉が美しい大露天風呂がある同館は、
“温泉のある時間”を自らクリエイトして
自由な滞在を楽しんでほしいというコンセプトで運営されています。
そして、ワーケーションにも対応した現代湯治宿舎〈湯倫舎〉がこの夏オープン予定。
美しい温泉ですが、自噴のためコントロールが難しく、
広々とした敷地も相まって、管理はかなり手がかかるといいます。
「うちだけの話じゃなくて、
みなさん温泉トラブルで苦労していると聞きます。
けれどそれ以上に、温泉に浸かったときの豊かさというのは、
これをやり続けないと味わえないからしゃあないなと思っています」
と、オーナーの堀江洋一郎さん。
ムービーを観て、大変な労力を知ったうえで入る〈ゆふいん束ノ間〉の湯は、
きっととても心に沁みることでしょう。
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このムービーを企画・プロデュースしたのは、
2年前に別府は鉄輪(かんなわ)温泉に移住し、
現在シェアハウス〈湯治ぐらし〉を運営する菅野静さん。
東京・大阪・上海の広告やコンサル業界で
バリバリと働いてきた菅野さんが温泉に興味を持ったきっかけは、
海外でのシャワー生活から気づいた入浴の大切さや、
多忙な日常の合間を縫って行った湯治旅から。
「湯治」とは、温泉地に滞在して、
心身の養生や免疫力向上のために行う行為のこと。
湯治旅でささくれた心がなめらかになり、自分を見つめ直せた経験から、
温泉と湯治の魅力に惚れ込み、移住を決めたのだそうです。
現在、西洋医学が発展し、湯治のニーズは減少しているそうですが、
湯治旅という新たな活用視点は、混沌とした現代こそ必要だと菅野さんは言います。
「コロナ禍で、免疫力を高めたい、
自然が多く密じゃない場所へ出かけたいなど、
さまざまなことを思われたのではないでしょうか。
湯治旅はそのような願望にも応えてくれるもの。
このような時代だからこそ、
温泉の本質やそのつくり手を知り、心の琴線に触れるような
素朴な旅も必要だとますます感じています。
また、とりわけ別府の温泉文化は、温泉を守り、受け継ぎ、
愛す人々がいるからこそ成り立っている部分があります。
それを個性豊かな温泉とともに多くの人に伝えたい、
そう思ったのがムービーをつくるきっかけです」
そこから大分県の委託事業に提案し、プロジェクトが成立。
ショートムービーの制作が始まりました。
取材では各地域や宿の歴史から、
温泉を維持するための並々ならぬ尽力を知り、
涙することも多々あったそう。
「別府をはじめ今回取材した温泉文化の背景には、
人の想い・葛藤・おもてなしの気持ちなど、
さまざまな“じーんと来るストーリー”がありました。
それを知ったうえで入る温泉は格別の気持ちよさでしたね」
現在1万以上の再生回数を記録。
温泉好きな著名人の方のSNSでの拡散や、帰省できない県出身者の方から
「次はこの温泉に」「温泉や泉質の違いを新しく発見した」
「別府に住みたくなる」など、さまざまな反響がありました。
「登場いただいた女将さんの遠方に住むお子さんが
『はぐらかし続けてた家業のこと、
わかっていたようで全然わかっていなかった。目が覚めた』
と言ってくださったことに驚き、
大分の観光やくらしの未来を紡げたかもしれないと感じました。
誰かの心を動かせたなら、この難しい視点に取り組んでよかったです。
今回5000を超える源泉から9本の動画しか制作できませんでしたが、
その多様な個性をもっと見出し、多くの方に届けたいと思いました」
ゆくゆくは湯治を日本のライフスタイル、
ひいてはヘルスマネジメントとして確立したいと言う菅野さん。
これからの展開も楽しみです。
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映像制作を担当したのは、写真家・映像ディレクターの岡本裕志さん。
このムービーを制作するにあたり工夫したのが、
多種多様な温泉それぞれの個性や価値、背景の可視化だといいます。
「ロケーションがすばらしい温泉や色鮮やかなお湯を
美しい映像として描くのはわかりやすいですが、
泉質の意味や利用者への利点、背景などは簡単に可視化させづらいと感じていました。
そのため、温泉に携わるさまざまな人々の個人的な物語を通し、
それぞれの温泉が持つ独特の価値や背景を明らかにする構成を工夫しました」
そうしてできあがったのが、
この9つの温泉の個性を映し出した、美しいムービーです。
岡本さんはこのプロジェクトを通し、
古くから豊かな温泉資源を持つ大分県だからこそ蓄積された、
人々や地域社会と温泉の多様なつながり・視点をあらためて学び、
すばらしさを実感したといいます。
「温泉は、陰で管理する人々のたゆまぬ努力と葛藤のうえに成り立っています。
例えば、温度の高い源泉をなるべく温泉成分を薄めることなく
入浴に適した温度まで冷ますために30時間近くかけてお湯を張っている宿や、
天候の影響を大きく受けながら沢水を浴槽にひき、
ひと晩かけて源泉の蒸気をあて続ける手法で、温泉をつくっている山奥の立ち寄り湯など、
縁の下で支える方々の物語にはとても心を打たれました」
別府をはじめ、大分県が誇る温泉文化の今を丁寧に切り取った〈湯とひとと〉。
それぞれのムービーを観た後、
温泉はこんなにも多様で、多くの人の想いで溢れているのかと、
そのすばらしさに敬意を示したくなります。
まだまだ移動がままならない日々が続きますが、
〈湯とひとと〉から、ぜひ大分県の温泉文化の一端に触れ、
コロナ後の旅行の計画を立ててみてはいかがでしょう?
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湯とひとと
Web:YouTube
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