news
posted:2021.5.12 from:青森県弘前市 genre:食・グルメ
〈 コロカルニュース&この企画は… 〉
全国各地の時事ネタから面白情報まで。
コロカルならではの切り口でお届けする速報ニュースです。
writer profile
Haruna Sato
佐藤春菜
さとう・はるな●北海道出身。国内外の旅行ガイドブックを編集する都内出版社での勤務を経て、2017年より夫の仕事で拠点を東北に移し、フリーランスに。編集・執筆・アテンドなどを行なう。暮らしを豊かにしてくれる、旅やものづくりについて勉強の日々です。
青森県弘前駅から徒歩約15分、
セレクトショップやベーカリーが建ち並ぶ代官町に、
「街中醸造」をテーマにした〈CIDER ROOM GARUTSU〉があります。
昨年商品がリニューアルし、クラフトサイダーシリーズとして、
330mlのビール瓶に詰められた5種類の商品が登場しました。
目指すのはおみやげではなく、地元の人が食中酒として楽しめる果実酒です。
リニューアルを手掛けたのは、弘前市出身の今祥平さん。
醸造からラベルデザインまで担当しています。
以前は弘前市内の飲食店で働いていましたが、
〈GARUTSU〉を設立した相内英之さんとの出会いをきっかけに、
醸造家としての道を歩み始めました。
今さんが参加する以前から、シードルとアップルワインは商品としてありましたが、
どちらも750mlの大瓶サイズでした。
甘い印象のあるシードルは、日常使いでは食事に合わせずらく、敬遠されがち。
甘さを抑えることはもちろん、飲みきりサイズで販売できれば、
手にも取りやすく、お試しもしやすいのではという考えから
小瓶のシリーズを生み出しました。
今さんは醸造もデザインも未経験でしたが、
相内さんは今さんの「やりたい」という気持ちを尊重し一任。
今さんもその期待に応え、独学で商品開発を行います。
「やりたい人って強いし、やるよね。そういうのがいいよね」と話す相内さん。
「お酒の味は年齢を重ねないとわからないという実感もありますが、
祥平(今さん)はお酒が飲める人なので、
祥平が今おいしいと思うお酒をつくってほしいと思っています」
GARUTSUのハードサイダーは、
“お酒好きの人が、食事と一緒に楽しめる味”を目指し、
アルコール度数が高めで、甘くないことが特徴。
地産地消されるものになってほしいという思いから
その味は生まれています。
「青森弘前ではシードルはおみやげ品で、地元の人はあまり飲まないんです。
でも長野に行くと地元の人にもすごく飲まれていて、おしゃれアイテムになっている。
同じりんごの産地として負けたくないと思うし、
山形では地元でつくられたワインをみんな日常で飲んでいて、
そういうのやっぱりいいなってすごく感じるんです」と今さん。
青森での食事シーンに、GARUTSUのハードサイダーも入っていきたいと
商品の開発に挑戦しています。
王林のみ、つがるのみと、りんごの単一品種でつくるシードルは青森でも珍しい商品。
甘くない商品を目指したことや、香水やアロマオイルも好むなど、
ボタニカルな香りにこだわりがある今さんならではのアイデアから生まれました。
「王林はすごく香りが強い品種で、単体でジュースをつくると、
砂糖より甘く感じるくらい甘いんですが、
果実酒はりんごの糖分がアルコールに変わるので、
濃厚な匂いだけ残る印象になるはず、
シャンパンみたいにつくれるのではと考えて挑戦しました」
Page 2
今春には、地元の人にもっと知ってもらおうと、
弘前を中心に地域の人からりんごを募集。
集まったりんごで〈ワンドノシードル〉を醸造しました。
1組が交換できるシードルの上限は3本(りんご15個分)でしたが、
それ以上のりんご寄付してくれた方も多かったといいます。
ラベルには、クラフトサイダーシリーズとは印象が違う、
レトロな梅結びがデザインされました。
「りんごを持ってきてくれたのは、おじいちゃんの農家さんが多かったんです。
わかりやすくて、昔からある復刻版のようなラベルを目指してつくりました。
ワンドノシードルを飲んでみて、GARUTSUのほかのシードルを
日常でも飲んでみようって思ってもらえたらうれしいですね」と話す今さん。
着実に地元に愛されるハードサイダーを生み出しています。
Page 3
弘前でのシードルの醸造と並行して、GARUTSUでは、
2019年に青森県の西目屋村に〈白神ワイナリー〉を設立。
2020年からワインKAMUYシリーズの販売をスタートしました。
弘前出身の相内さんと西目屋との縁ができたのは2011年の東日本大震災直後のこと。
外遊びができない福島の子どもたちを、青森県内で受け入れる復興支援プロジェクトがあり、
相内さんはその実行委員長を務めていました。
受け入れに積極的だった西目屋を何度も訪問するうちに、
土地との縁が深まっていったといいます。
同じころ、銀座のビルの屋上で養蜂を行う〈銀座ミツバチプロジェクト〉の成功を機に、
弘前で桜のハチミツを採ろうという動きが活発化していました。
相内さんはその活動に心を動かされ、
世界遺産・白神山地の入り口にある道の駅〈ビーチにしめや〉の屋上で養蜂を開始。
そのハチミツを販売する店舗〈BeFavo〉を2013年ビーチにしめや内に構えます。
「教育に関心があって、復興支援プロジェクトなどに参加していたんですが、
継続させるためには、ビジネスであることが必要ということを実感したんです。
ビジネスをしっかりできる人材を育てていきたい。
そのために自分もしっかりビジネスをやっていこうと決意しました」と相内さん。
ワイナリーを立ち上げることになったのは、
ビーチにしめやの店舗改装の話が持ち上がった2019年のことでした。
「いつかワイナリーをやってみたいという思いはもっていたんです。
せっかく改装するならばというタイミングでもありましたし、祥平はじめ、
料理もつくれて、お酒もつくりたいという思いを持った
能力の高い人たちが集まってきてくれたときでもあったので、
今ならやれるかもしれないと思ったんです」
Page 4
次々と思いをかたちにしていく相内さんが見据えているのは、
次の世代へより良いバトンを渡していくこと。
「りんご産業をはじめとして、今ある産業は、
先輩たち誰かがつくってきてくれたものなんですよね。
新しいことに挑戦した先輩たちがいたからここまで続いてきた。
私たちは食べ物にも困らない、恵まれた世代だったので、
そういう状態に甘んじていいのかなという思いがあって、
祥平とか、次の世代に、産業として高めていける可能性があるものを
渡していかないといけないと思っています」
「先人たちのものをもっともっと発展させてやるんだ、
新しいものをつくってやるんだという思いで取り組んでいくのが
ひとつのミッションです。養蜂もやりながら、醸造所を2拠点構えている今は、
できるポジションにもいるし、できる勢いもあると思っています。
私たちにも力はあるはず。
もっとおもしろいことをやって、その力を存分に発揮したいですね」
現在醸造するワインは、山形から購入するブドウなども混ぜていますが、
いずれは自社農園のブドウだけでワインをつくりたいという夢も持っています。
「育てるのは大変ですが、フランスで、
ブドウ栽培からボトリングまで担った生産者だけに与えられる
『Cuvfee(キュヴェ)』をボトルにつけるまでは、がんばりたいなと思っています。
まだまだ何年も先ですけど」と今さん。
醸造の興味の入り口はビールでしたが、
今では果物と酵母と砂糖しか使えない制限の中でつくる
果実酒のおもしろさを感じていると言います。
「ジュースのような印象があって、
好んで飲んでいなかったシードルのイメージは、つくってみて変わりました。
健康志向の高まる海外では、ワインはもちろん、
グルテンフリーのハードサイダーがクラフトビールより定着してきているので、
果実酒の可能性も感じています」
「相内さんはいつも、やったことがないことも、
やったことがあるように喋るんですよ。
できるかわからないし、正解もわからないけど、
おもしろいはんで(から)やるかって始めて、やったらできた。
そんなことばかりです」
次世代へとつながっていくバトン。
次はどんなビジネスが生み出されるのか、今後の展開が楽しみです。
GARUTSUのハードサイダーやワインは、オンラインショップからお取り寄せでき、
全国どこでも楽しめます。食事のおともにいかがですか?
information
GARUTSU
Web:GARUTSU
information
CIDER ROOM GARUTSU
住所:青森県弘前市代官町13-1
TEL:0172-55-6170
営業時間:18:00-21:00
定休日:日曜
information
白神ワイナリー&BeFavo
住所:青森県中津軽郡西目屋村田代神田219-1 道の駅津軽白神 ビーチにしめや内
TEL:0172-85-2886
営業時間:時季により異なる
定休日:時季により異なる
*価格はすべて税込です。
Feature 特集記事&おすすめ記事