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〈 コロカルニュース&この企画は… 〉
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writer profile
Haruna Sato
佐藤春菜
さとう・はるな●北海道出身。国内外の旅行ガイドブックを編集する都内出版社での勤務を経て、2017年より夫の仕事で拠点を東北に移し、フリーランスに。編集・執筆・アテンドなどを行なう。暮らしを豊かにしてくれる、旅やものづくりについて勉強の日々です。
こちらのポストカードに描かれているかわいいイラストは、
宮城県・南三陸の名物「モアイ」。
このほか「タコ」と「ワカメ」を描いたものもあり、
どれもほっこりさせてくれます。
このかわいいイラストを描いたのは、
南三陸にある生活介護事業所〈のぞみ福祉作業所〉を利用する
障害のある“アーティスト”たち。
ふかふかで厚みがある、オリジナルの〈NOZOMI PAPER®〉に、
活版印刷されています。
どうやってつくられているのか、
そのストーリーを聞いてみたくなる手触りを持った〈NOZOMI PAPER®〉は、
手作業で漉き上げられたもの。
障害のある〈のぞみ福祉作業所〉の利用者が、
原料を解体する作業から、手漉きして印刷し、梱包するまで、
すべての工程に携わっています。
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〈のぞみ福祉作業所〉は、2015年に〈NOZOMI PAPER Factory〉として活動を開始。
〈NOZOMI PAPER Project〉を立ち上げ、
〈NOZOMI PAPER®〉の生産と商品の制作を行っています。
作業所には、“アーティスト”としての利用者の作品がところ狭しと飾られ、
さながら美術館。緻密でかわいくて、発想豊かな作品が並びます。
作品のタイトルは、南三陸さんさん商店街にあるカフェ〈NEWS STAND SATAKE〉で
定期的に開催されている個展に向けてつけられたもの。
発表の場があることで、作品は日々進化しています。
本来は「生活介護事業所」であり、
就労のためではなく生活をケアしてもらうために
〈のぞみ福祉作業所〉を利用していた彼ら。
“アーティスト”としての活動を始めたのは、
あるデザイナーとの出会いがきっかけでした。
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〈NOZOMI PAPER Project〉を企画したのは、
「福祉とあそぶ」をテーマに活動する、
デザイナーの前川雄一さん・亜希子さん夫婦による
ユニット〈HUMORABO(ユーモラボ)〉。
障害のある人が描いたアートを、広告や商品のデザインに使用することを仲介し、
仕事につながるよう支援する団体〈エイブルアート・カンパニー〉との仕事を機に、
福祉施設の商品開発やブランディングに携わっています。
自身でも絵を描いていた亜希子さんは、障害のある人たちと出会い、
「もう私描かなくていい」と思ったといいます。
「障害のある人たちの作品は、とんでもない表現が出てくるのでワクワクするし、
(自分で描いた絵より)自分が好きだと思った作品を
おもしろいかたちに落とし込んで商品化する方が楽しいと感じて」
さらに福祉と関わるようになってふたりが目にしたのは、健やかな働き方。
「たとえば9時30分から作業を始めたら、お昼の前にお茶を飲んで休憩する時間がある。
また作業して、お昼を食べたら、みんなで歯磨きをして、
午後も作業して、お茶して、片づけて、15時30分には帰宅する……
ちゃんと休んでちゃんと働いて、健やかですよね(笑)
お給料はもちろん違うけど、福祉を知ることで、
自分たちがどういう風に働くか、どうしたら楽しくなるか、
教えてもらえることも多いんです」
雄一さんと亜希子さんが〈のぞみ福祉作業所〉のメンバーと出会ったきっかけは、
2011年3月11日に発生した東日本大震災。
ふたりは〈エイブルアート・カンパニー〉が企画した、
被災地の障害のある人の“しごと”の復興を支援する〈タイヨウ・プロジェクト〉に
それぞれ個人のデザイナーとして参加。
雄一さんが依頼されたのが、〈のぞみ福祉作業所〉の
利用者が漉き上げるポストカードのデザインでした。
雄一さんが関わる以前は、職員がクリアファイルを切って型をつくり、
利用者はステンシルで色をつける作業を担当。
ステンシルをひとつ間違えると、紙は廃棄されていました。
「みんなが一生懸命漉いてできた紙なのにもったいないし、
ここに僕のグラフィックを載せても仕方がない。
紙の原料もストーリーのあるものに統一したいと思ったんです」
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雄一さんが仕組みから変えようと、
これまでに〈のぞみ福祉作業所〉でつくられたポストカードを
手に取って見ていたときのこと、
「スタッフのひとりが僕の手からカードをパッて取って、
別のカードにすって入れ替えたんです(笑)
僕が見てもそんなに違いはなかったんだけど(笑)、
カードをつくりはじめてからの数か月で、自分たちなりに成長していると感じているようで、
少しでも上手にできたものを僕に見せたかった。
『これはものづくりが好きそうだな』と気がついたんです。
ものづくりを利用者の「仕事」の中心にして、
利用者の“アーティスト”としての力をさらに伸ばす。
そうして、“仕事”と“アーティストとしての作品”を組み合わせた商品を
つくれたらいいんじゃないかって思ったんです」
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こうして開かれたのが、
震災後南三陸に「本物のモアイ像」が届くことから発案された
「モアイを描こう」というワークショップ。
tomoyaさんの描く〈moai〉が生まれ、
〈moai card〉と、〈moaiフェイスタオル〉として商品化されます。
そして〈moai card〉は、印刷方法を活版に変更。
ステンシルのように色を間違えて廃棄することもなく、
インクジェットのようにパソコンを使う必要もない。
利用者が無理なく印刷作業を担うことができ、活版という付加価値がつくことで、
手間に対するコストバランスも改善されました。
タオルもカードも好評でしたが、商品化されたのは、
タイヨウ・プロジェクトに参加する企業の「復興支援」があったから。
「支援ありきで商品をつくっていたら、
復興需要がおさまったら行き詰まってしまう」
そう思った〈HUMORABO〉が〈のぞみ福祉作業所〉に提案し立ち上がったのが、
支援がなくても続けられる商品づくりの仕組み〈NOZOMI PAPER Project〉でした。
東日本大震災後3年でタイヨウ・プロジェクトが終了してもなお、
〈のぞみ福祉作業所〉での商品づくりは続いています。
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ふかふかの〈NOZOMI PAPER®〉をつくりあげている原料は、
全国から送られてくる牛乳パック。
震災後のボランティアで作業所を訪れた人や、紙漉きをしていると知った人たちが、
〈のぞみ福祉作業所〉のためだけに送ってくれるもので、
〈HUMORABO〉は「ストーリーがある原料」として着目。
この牛乳パックを使うことで、「思いの詰まった」紙が漉き上がります。
資源回収で「紙類」として収集されている牛乳パックは、
実はそのままではリサイクルできないもの。
表面にビニールが混在していて水に溶けないため、
紙の原料にするためには手作業でビニール部分を取り除かなければなりません。
この解体作業を担うのも〈のぞみ福祉作業所〉の利用者たち。
「(牛乳パックから)プラスチックを除く設備が整った工場もありますが、
手作業だとすごく手間がかかるんです。
効率を優先してしまう一般社会ではできない作業なんだけど、
福祉施設では時間をかけることができるし、時間をかければできる人たちがいる。
このまま社会に戻せる仕組みではないけれど、
逆に、この作業をしないとリサイクルできないものを
世の中がつくってしまっているとも言えるので、
社会への問題提起にもなる商品だと思っています」
〈NOZOMI PAPER®〉の感触を忘れられないのは、
たくさんの人の手を通しつくられる、
気持ちがこもったものだからなのかもしれません。
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2018年には、東北6県の「伝統工芸品」と
「新たな東北のスタンダードとなりえる商品」をセレクトし販売する
〈東北スタンダードマーケット〉から声がかかり、コラボ商品が誕生します。
〈東北スタンダードマーケット〉の企画を担当する岩井さんは、
図案の製作から、紙原料の解体、紙漉き、印刷、梱包までを
一貫して手作業で行う〈のぞみ福祉作業所〉の姿勢に共感。
「〈NOZOMI PAPER®〉をつくる作業は、すごく手仕事的なんです。
非効率で手間がかかるけど、手間が価値とは評価されにくいから、
お金にするのも難しいし、商品の値段もあげられない。
産地を訪れて手仕事に携わっているおばあちゃんたちから
聞こえてくる話と同じだったんですよね。
東北の手仕事と福祉は同じ課題を抱えている。
独特の”ゆらぎ”を持った紙や絵も、
手仕事が持つ”ゆらぎ”に共通するものがあると感じるんです」
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コラボ商品の発売に合わせ、
〈東北スタンダードマーケット仙台PARCO2店〉で
『東北の手仕事と福祉』と題されたイベントも開催されます。
仙台でのイベントの開催は〈HUMORABO〉にとっても願っての機会。
南三陸以外の東北で〈NOZOMI PAPER®〉がとりあげられたのはこれがはじめてのことでした。
「大都市圏のイベントなどに出展していたので、
〈NOZOMI PAPER Factory〉の商品やアートはすでに
青山や渋谷のデザインショップで販売されていたり、
デザイン誌の表紙を飾ったこともあって、
東京ではけっこう人気になっていたんですが、
南三陸で暮らす〈のぞみ福祉作業所〉の“アーティスト”自身や
その家族にとっては、青山も渋谷もデザイン誌のこともよくわからないし、
それがどれだけすごいことなのかピンと来ていなかったんです。
重度の障害を持っている利用者もいて、
東京のショップまで足を運ぶこともできない。
もっと彼らに近い場所、宮城県の都市部である仙台で販売ができれば、
多くのお客さんの声も聞こえるし、お店を見に行くことができる利用者もいる。
評価されている商品をつくっているんだよ、
ということを実感してもらえる機会をつくりたいと考えていました。
それに〈NOZOMI PAPER Project〉のメンバーも、
『地域貢献したい』という意識が強かった。支援されることはありがたいけれど、
自分たちが受け入れるだけではなくて、
地元にできることはやっていきたいという思いをもっていたんです。」
イベントでは東北の手仕事に携わる職人とコラボした商品も誕生。
下請け作業を行うことがほとんどの福祉施設が、
クライアントになって職人に依頼するという新たな経験が育まれました。
イベント会場へは、〈のぞみ福祉作業所〉の“アーティスト”たちも足を運び活版印刷のワークショップを開催。仙台の人たちが「福祉とあそぶ」機会にもなりました。
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注目を浴びるイベントや個展の開催、商品づくりを通じ、
“アーティスト”たちの作品は成長し、作業所の雰囲気も明るくなったといいます。
今後目指すのは、利用者と社会がつながる場づくり。
作業所内に、〈NOZOMI PAPER Factory〉のショップをつくりたいと考えています。
「外で商品だけ売れても、利用者との接点はないんです。
労働の対価として得られるお金も大事だけど、
1万円足りなくても、ひとり友達がいれば1万円以上のつながりのなかで
もっと違うサポートが生まれるかもしれない。
のぞみ(福祉作業所)さんは、
震災のときにボランティアの受け入れをしていたので、
外との交流に慣れているし、フレンドリーだし、そこは武器だと思っています」
作業所を訪れる人が増えれば、“アーティスト”とふれあい、
働く様子も、作品も見てもらえる。
そうすれば、きっと〈NOZOMI PAPER Factory〉のファンになる。
「ファンのような“仲間”が自然と集まってきちゃうのも
のぞみ(福祉作業所)さんの魅力なんですよね」と雄一さん。
東日本大震災から9年、
〈NOZOMI PAPER®〉の原料となる牛乳パックが足りなくなったことはないといいます。
「復興支援という理由だけなら、もう送ってくれていないと思うんです。
でも〈NOZOMI PAPER Factory〉のメンバーは、名前を覚えてもらって、
人として全国の人と結びついているから今でも届いている。
それってすごく素敵なことですよね」
たゆまない人とのつながり。
「福祉を真ん中に考えると、社会はもっと楽しくなる」と考える〈HUMORABO〉は、
「誰もが幸せに楽しく生きるためのヒント」を「ユーモラ」と呼んでいます。
社会の課題に気づかせてくれながら、「ユーモラ」をくれる〈NOZOMI PAPER®〉。
触ればきっと虜になるでしょう。
information
NOZOMI PAPER Factory
住所:宮城県南三陸町歌津字伊里前325-2(社会福祉法人洗心会 のぞみ福祉作業所)
電話番号:0226-25-8200
※商品の購入はオンラインショップからも可能
Web:HUMORABO
Web:東北スタンダードマーケット
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