「命を無駄なく、おいしくいただく」 岩手県二戸で、 生産者が営むシャルキュトリー
二戸で育まれるブランド〈佐助豚〉
岩手県・二戸は、冷涼な気候で疫病発生のリスクが少ないことや、
隣県の八戸港に、大規模な飼料穀物コンビナートがあることなどから、
養鶏・養豚が盛ん。
(豊かな恵みを育む二戸の土地柄については、こちらで詳しく紹介しています)
なかでも〈久慈ファーム〉の〈佐助豚〉は、
雄のデュロック種、雌のランドレース種と大ヨークシャー種の
3つの品種を掛け合わせた三元豚で、
全国のレストランやホテルから直接注文が入る人気のブランド豚。
さっぱりしているのにコクがある脂や、きめ細かな肉質が特徴です。
持続可能な営みが生んだ味

佐助豚の脂は、約36度と人間の体温と同じくらいの融点なので、冷めても、体の中でも脂が固まりにくい。
佐助豚は、二戸の東端にそびえる〈折爪岳〉の伏流水と、
200~300万年前の地層から採取した
炭化植物が配合された飼料で育ちます。
この飼料、もともとは周辺環境に配慮し、
汚水や臭気対策として取り入れられたものですが、
使ってみると、炭の脱臭効果のように肉の獣臭さを抑え、
脂の融点を下げるなど、味や肉質にも良い影響があったそう。
徹底した温度管理や体重管理のもと健康的に肥育される環境はもちろん、
二戸という場所で長く営みを続ける方法を模索するなかで、
佐助豚の味は育まれてきたのです。

「佐助」は久慈ファーム初代の名前で、ブランドのイメージになっているイラストも佐助さんがモチーフ。祖父から子へ子から孫へ、その飼育技術が受け継がれています。(撮影:安彦幸枝)
命をいただいているからこそのつとめ
久慈ファームでは、パテ・ド・カンパーニュや、レバーペーストなど、
シャルキュトリーの製造も行なっています。
日本人の消費量が増えているワインのつまみとしてもさることながら、
根底にあるのは、命を無駄にせず、おいしくいただくこと。
「ロースだけ売りたいと思ってもロースだけの豚はいないんです。
内臓から皮まで、1頭のすべてを無駄なく、おいしく食べてもらいたい」
「命をいただいているからにはそれがつとめ」と話すのは、3代目の久慈剛志さん。

佐助豚の豚耳、豚足、頭肉を香味野菜、スパイスとともに長時間煮込んだフロマージュ・ド・テット。
シャルキュトリーは、冷蔵技術が発達していない時代、
熟成や燻製することで家畜の肉を長持ちさせ、
「無駄にせずおいしく食べるため」生まれた料理。
根底にある命を大切にする思いに共感した久慈さんは、
技術を学ばせるため職人を本場フランスに派遣し、
佐助豚でつくるシャルキュトリーを生みだしました。
二戸の生産者だからつくれるシャルキュトリー

3代目の久慈剛志さん。
「肉は安定して供給できるんですけど、
野菜や果物のように旬がない。
原料を工夫して、季節感や、
二戸だからつくれる地域性も出したいと思っているんです」
久慈さんは、
「地元のおじいちゃんにお願いして採ってもらったフキノトウ」入りソーセージや、
平野が少なく稲作に向かない二戸で
栽培が盛んだったアワ、ヒエなどの雑穀をとり入れたパテ・ド・カンパーニュ、
近隣の山ぶどうをピューレにしたハンバーグに合うソースなど、
地元の旬の食材を使った、
この土地ならではの商品開発にも積極的に取り組んでいます。

二戸産五穀入りパテ・ド・カンパーニュ。焼型にも、岩手特産の南部鉄器を使っています。
通常、内臓は屠畜場で
ほかの生産者のものと混ぜられて出荷されますが、
〈佐助豚〉とブランドの名前がついたシャルキュトリーを販売できるのは、
生産から肥育、加工、販売まで一貫して行なっている
久慈ファームだからこそ成せること。
販売は主に業務用ですが、
二戸駅に隣接する〈なにゃーと物産センター〉や、
久慈ファームのホームページなどから購入することができます。
二戸の食の魅力発信にも積極的
近年は佐助豚のみならず、
二戸の主要産業である食用若鶏の親鶏を、
〈熟レ鶏〉としてブランド化し販売するなど、二戸の食の魅力発信にも熱心。

熟レ鶏のささみとレバーパテのスープ(料理:寺脇加恵)。肥育期間は一般的に食される若鶏の約9倍の450日で、大きくなるぶん、食べ応えのある食感と、旨みがたっぷりで濃厚な出汁になります。(撮影:安彦幸枝)
「食の好みも多様化してきているので、
臭みが無いことややわらかいだけがいい肉の時代じゃない。
好きな人には好まれるはず」
熟レ鶏は本来、若鶏の卵を産むために飼育されていた鶏。
その食用の魅力に気がついたのも、
もともとあった二戸の素材に向き合い、
命を無駄にしないという思いが常にあったからこそ。
「命を無駄なく、おいしくいただく」
佐助豚と、二戸の土地と向き合い、生産者自らがつくるシャルキュトリー。
とろける旨みをぜひ体感してみてください。
