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posted:2019.11.21 from:宮城県仙台市 genre:食・グルメ
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writer profile
Haruna Sato
佐藤春菜
さとう・はるな●北海道出身。国内外の旅行ガイドブックを編集する都内出版社での勤務を経て、2017年より夫の仕事で拠点を東北に移し、フリーランスに。編集・執筆・アテンドなどを行なう。暮らしを豊かにしてくれる、旅やものづくりについて勉強の日々です。
仙台の住宅街で、おいしいクラフトビールに出会いました!
その名は〈穀町(こくちょう)ビール〉。仙台唯一のマイクロブリュワリーです。
〈穀町〉は地名で、伊達政宗公の時代、
米や穀物の専売権を与えられていたことに由来します。
「穀」物の「町」と書いて「こくちょう」。仙台に古くからある地名です。
「地名を知らない人が聞いたら、
“穀物の町でつくっているビール”ってイメージが広がる気がして」と話すのは、
代表の今野高広さん。
仙台市出身で、実家のガレージを改装し、醸造所とパブをつくりあげました。
店の住所は石名坂ですが、穀町商店街はすぐそばで、
子どもの頃はよく買い物に出かけた場所だそう。
醸造所に併設するパブ。店名の〈ビア兄(ビアニーニ)〉は「ビールをつくる兄さん」。今野さんのことであり、「派生してビール好きなみんな」が集まる場所です。
イギリス留学の経験があり、語学力を生かして
ベルギーチョコレートの輸入を手伝っていた今野さん。
「ベルギーで飲んだビールのなかで、
ビールなのにコクがあって度数が高く、飲みごたえがあるものが印象に残ったんだけど、
日本に帰ってくるとないんですよ。
これが決め手で、なかなか手に入らないので、
自分がおいしいと思ったものを自分でつくっちゃおう」と、
一から醸造の勉強をはじめます。
穀町からほど近い〈荒町(あらまち)〉にある〈森民酒造本家〉に勤務しながら、
東京の座学で知り合い、先に醸造所をオープンした島根県の〈石見麦酒〉で
ビールづくりの実習を行います。
1849年創業の〈森民酒造本家〉は、仙台市街に唯一残る酒蔵。
「大きなビール工場で一部分を担うより、
小規模に昔ながらの酒づくりをしているところの方が勉強になる」
と考えていた今野さん。
「そんな時ちょうど! 荒町をチャリンコで走っていたら、
森民さんに『バイト募集。ラベル貼りなど』って書いてあったんですよ」と笑います。
今野さんの思いが引き寄せた運命的な出会い。
4年間修行し、酒づくりはもちろん、酒屋や飲食店との人脈を築きます。
森民酒造本家の日本酒を多種扱う荒町の老舗酒屋〈及川酒店〉。穀町ビールを最初に卸したお店です。
「お酒をつくって瓶詰めした後、
どういう風に売るかは森民さんで学びました。
どこの酒屋さんへ卸したらいいか。お酒を配達しているとつながりができるんです」
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2017年のオープン以来、醸造したお酒は5種類。
はちみつをつかうのが特徴で、バーレーワインスタイルの〈穀町エール10〉が看板商品です。
「市販のバーレーワインはたぶんもっとすっきりしている。」〈穀町エール10〉は、今野さんが本当に飲みたい味に仕上げられているので、ほかにはないうま味のビールを楽しめます。「個性的だけど尖っているわけではなくて、受け入れられやすい味。」
「10」はアルコール度数で、
ワインのように香りの変化を楽しみながらじっくり味わうビール。
「パンが主食の人には合うみたい」と欧米人もよく訪れるそう。
パブでは、香りが立つビールグラス〈ビアクラシック〉に樽から注いでくれます。
2019年9月には、新商品〈穀町ミード14〉が完成。
はちみつの糖をシャンパン酵母で発酵させたはちみつ酒で、
仙台に本社を置く百貨店〈藤崎〉の200周年を記念し、
200本限定のオリジナルラベルで先行販売されました。
〈穀町ミード14〉の藤崎200周年ラベル。現在はラベルの一部を変え、及川酒店などでも購入できます。
「地元の麦をつかいたい」とつくられた〈の・ビール〉は、
宮城県東松島市野蒜(のびる)のモルト100パーセントで仕込まれたペールエール。
農家に自ら連絡し、商品化に至ったそう。
左が〈の・ビール〉。アルコール度数6パーセント。中央は夏季限定の〈穀町パナシェ5〉。〈穀町エール10〉のソーダ割りで暑い日にぴったり。右は〈穀町エール12〉。冬季限定のベルジャンストロングスタイル。
今後は「宮城県内というよりももっと身近」な場所の作物で
ビールづくりをしたいと考えています。
「そこら辺に生えているのでつくったらこんなビールができたよっていうのは楽しいかなって」
「車で30分くらいの範囲で育った穀物や果物でお酒を仕込んで、
身近な人で飲むっていうのをやりたいんです」
〈穀町ビール〉の今野さん。パブで必ず飲めるのは〈穀町エール10〉。〈穀町エール12〉や〈穀町パナシェ5〉など、季節に合わせて2種あることも。手前のタップも今野さんの手づくりです。
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今野さんが修行した〈森民酒造本家〉や、
穀町ビールをはじめて販売した〈及川酒店〉をめぐり、
穀町ビールを訪れるツアー〈荒町まちあるき 穀町ビールで乾杯!〉が、
『東北・美酒と食のテロワージュ』に仲間入りしました!
荒町は伊達政宗公が麹づくりの特権を与えた麹の町。
400年以上つづく〈佐藤麹味噌醤油店〉など、
歴史ある町並みを荒町のゲストハウス〈Hostel KIKO〉のスタッフが解説し、
穀町ビールまで案内してくれます。
及川酒店も創業300年の老舗。今野さんが穀町ビールの売値の相談をしたのも及川酒店なので、12代目が販売秘話や町の歴史を教えてくれます。
ツアーに参加すると、穀町ビールがより味わい深く感じられるかもしれません。
「震災で、被災者で、復興で、というよりも、
シャッター通りになってしまった地元で、おもしろいことをやれたら」
と店を始めた今野さんは、近くの〈こくちょう菓子屋〉とも連携。
醸造の際に出る「麦芽のかす」を提供し、商品開発に挑戦しています。
麦芽をふりかけた〈玉ねぎクラッカー〉と、練りこんだ〈クッキースコーン〉。ビールとの相性は抜群です。
旬の野菜や果物を使用し、無添加の焼き菓子を販売する
〈こくちょう菓子屋〉の原田さんは、「ほかには無い商品を作りたい」と試行錯誤。
麦芽そのままでは喉につかえるため、発酵させて乾燥後、
細かくパウダー状にしてお菓子やパンにとりいれています。
栄養も香りも増し、バナナのような風味をともなう発酵麦芽。
「自分が楽しいも大事だけど、
小さなビール工場があったら仙台の人が楽しいだろうなと思って」と今野さん。
「東京にはこういうところはたくさんあるけど、仙台は都会とはいえ、
文化的なもの、余計なものが少ない。サブカルではないけれども、
なくてもいいけどあったら楽しいという場所がなかなかないところに貢献したかった」
〈穀町ビール〉を飲めるのは、宮城県内だけ。
「東京で流行しているものが好まれる傾向にある仙台では、ブームのつけ方が難しい」
としながらも、県内流通を倍にしたいと考えています。
「地元でしか買えない方がいいかな。
周りの人が全員飲んでくれて、仙台のおみやげにしてくれたら」
「よくパンに例えるんですが、スーパーで80円のパンを買ってもそこそこおいしいし、
だいたいそれを買うけど、
たまには地元のこだわりパン屋さんの270円のパンを買いたくなる。
そういう感覚でいいんです。普段はコンビニで大手のビールを飲んでいただいて、
私も買いに行きますし、でもたまにはこういうビールを飲みたいなと思ってもらえる位置で、
ビールをつくっていきたい」
「なので、ファンになってください」とにっこり笑う今野さん。
仙台唯一のクラフトビール〈穀町ビール〉。飲むときっとファンになります!
information
穀町ビール ブルーパブ ビア兄(ビアニーニ)
住所:宮城県仙台市若林区石名坂34
営業時間:月・木・金曜 19:00〜22:00(21:30L.O.)※貸切や臨時休業の場合あり。事前に連絡を
TEL:022-223-5860
Web:穀町ビール
◇東北・美酒と食のテロワージュ◇
◇こくちょう菓子屋◇
住所:宮城県仙台市若林区穀町25
営業時間:11:00〜17:30(日曜 〜15:00)
定休日:火曜
TEL:022-706-6452
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