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連載

棚田の再生活動からツアーへ! 
岡山県美作市の〈上山集楽〉から
〈上山ツーリズム〉が始まる

Local Action
vol.104

posted:2017.3.10  from:岡山県美作市  genre:活性化と創生 / 旅行

sponsored by 上山集落

〈 この連載・企画は… 〉  ひとつのまちの、ささやかな動きかもしれないけれど、創造性や楽しさに富んだ、
注目したい試みがあります。コロカルが見つけた、新しいローカルアクションのかたち。

writer profile

Shozo Nishioka

西岡正三

にしおか・しょうぞう●出版社勤務の後、フリーランスの編集者、ライターとして独立。2007年に行われたハワイの外洋航海カヌー〈ホクレア〉の日本航海をサポートするうちに日本列島の魅力に目覚め、今も貴重な自然や文化が失われ続けているようすに少し慌てている。フィットネス関係、自転車、音楽にも強いとの噂。

photographer profile

Shinichiro Uchida

内田伸一郎

うちだ・しんいちろう●岡山県在住。内田伸一郎写真事務所代表。広告、建築、webなどの各種メディアで撮影。家族の記念写真にも力を入れている。
http://www.supc.jp/

千年の歴史を刻む千枚田を再生させたい

岡山市内から北東へクルマで1時間ほど。
中山間地域ならではの、のどかな風景を眺めながら山道に入ると、
やがて視界が開け、小さな神社と大きな谷が姿を現します。
谷の斜面には棚田と、その間を縫うように走る狭い農道。
さらにその道沿いには民家が点在し、
春には桜、夏には蛍、四季折々の風景が広がります。

ここは岡山県美作市上山地区。
かつて、ここには奈良時代に拓かれたと伝わる、
日本最大級の「上山の千枚田」がありました。
その棚田の数は、実に約8300枚とも言われています。

上山地区のランドマークである上山神社。旧英田(あいだ)町による観光案内には「今でも『田毎の月』『耕して天に至る』と言った、農耕にまつわる風流な言葉が残っております」と紹介されています。

1970年代中頃まで、上山では棚田を中心にした昔ながらの生活が営まれ、
棚田の集落に独特の、伝統や文化が受け継がれていました。
しかし残念なことに、その後の減反政策や高齢化により、
千年の歴史を刻む“循環型の食料生産プラント”とも呼ぶべき千枚田は、
続々と耕作放棄されていきます。
やがて、一面の笹藪や竹藪、あるいは植林による杉林となり、
すっかり荒れた谷へと姿を変えてしまいました。

すっかり草や蔓に覆われてしまった棚田。2003年10月。(撮影:高田昭雄)

このままでは、千年の歴史も知恵も景観も二度と取り戻せなくなる。
上山の千枚田を再生させようというグループが現れたのが2007年。
やがて、2011年にNPO法人〈英田上山棚田団〉が結成されます。
「どうせ再生なんてできない」と眺めていた地元のお年寄りたちも、
竹藪を切り払い、野焼きを始めた彼らの姿に「本気」を感じ、
やがて懐かしい石積みの畦畔が現れたときには、彼らと一緒になって歓声をあげました。

上の写真と同じ場所に再生された棚田。耕作放棄された1枚の水田を掘り起こし、再び作付けできる状態にするには3~4年かかると言われています。2016年10月撮影。

2016年現在、若い移住者も増えて再生活動は加速し、
約60ヘクタールある農地の、17ヘクタールが再生され、
約4分の1の棚田が息を吹き返しています。とは言え、まだまだ先は長い。
かつての棚田を取り戻す活動は、これからが本番です。

自然に寄り添う暮らしと知恵を学ぶ、観光ツアーがスタート

一方で、再生活動を支える経済的な基盤もつくらなくてはなりません。
生産される米の収入だけでは、とてもおぼつかないからです。
そこで、米を酒造好適米に変えて、日本酒の製造、販売。
あるいは高齢化する住民たちの足として、超小型電気自動車の活用。
野菜や果物など、新たな農作物の開発。などなど、多くの取り組みが行われています。

2016年10月、全国のICT技術者たちが上山に集まって、農林業の課題に向き合った「上山集楽農業ハッカソン」を開催。

いずれも、かつての棚田を取り戻し、
棚田ならではの景観や文化を未来に残すための取り組み。
そんな、「未来の田舎」を目指す上山のようすは、
すでに多くの企業や自治体から熱い視線を浴び、
今では絶え間なく、視察や研修のツアーが開催されています。

野草の豊かな土地柄、視察や研修のツアーでは、野草料理やジビエが評判を呼んでいます。

であれば、このツアーを一般の観光客に向けて開放してはどうか?
千枚田の景観はもちろん、棚田での農業体験や、食材としての野草やジビエ、
晴天率の高い岡山県ならではの星空キャンプ、あるいは超小型電気自動車の体験試乗。
それは棚田千年の歴史を通じて培われてきた、“自然に寄り添う暮らし”を学ぶ観光です。

そんな〈上山ツーリズム〉が、この4月からスタートします。
具体的なツアーの内容は、次のページから。

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狭い農道も超小型電気自動車でスイスイ!

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棚田で稲作体験

急峻な地形につくられ、斜面に沿うように複雑な弧を描く棚田。
それだけに機械化が難しく、今でも多くの仕事は人の手に頼らざるを得ません。
これを、昔ながらの稲作を経験するチャンスと考えたらどうか。
すでに〈英田上山棚田団〉による田植え体験会や、
稲刈り体験会は支援する企業や県外からの参加者も多く、大盛況。
これを定期的に行おうというツアーです。

「苗を3~4本、鉛筆を持つように持って土に刺します」。指導がわかりやすいので、子どもたちも覚えるのが早い。

春には田起こし、畦塗り、水路掃除など、田植えの準備。
そしていよいよ棚田に水が張られ、田植えが始まります。
田植えの後も、畦の草刈り、田んぼの草取り、稲を狙いに来る獣たちへの対策、
などなど、絶え間なく、稲の世話が続きます。

地元のお年寄りが長年使ってきた道具をお借りして、手植え。

そして秋。上山では、収穫したお米は機械ではなく、
ハゼ干しという、昔ながらの天日干しで乾燥されます。
だからこそ風味豊かなお米ができあがる。
収穫を終え、ハゼ干しされた稲穂が棚田に並ぶようすは、
地元の人でも歓声をあげるほどに壮観です。

開催は月に1回。参加費用は3000円~。宿泊の有無によって変わります。日程は、毎回『上山集楽』のウェブサイトに公開されます。

超小型電気自動車〈コムス〉で“第3の乗り心地”を体験

上山に来ると、たびたびこのクルマを見かけます。
何、あのクルマ? かわいい、楽しそう、気持ちよさそう。
車幅が1メートルと少ししかないので、
狭い上山の山道や農道を軽快に走り抜けています。

とは言え、ただかわいいだけではありません。
このクルマは、ある大きな使命とともに上山にやって来ました。
それは、交通の不便な中山間地域での新たな移動手段になること。
特に高齢化の進む地域で、お年寄りの足になること。
そのための研究が、ここ上山では行われています。

超小型EV〈コムス〉。気温が20℃の場合、家庭用電源から6時間でフル充電完了。フル充電からの走行距離は50キロほど。坂道発進角度は19%勾配。

何より、電気自動車ならではの夢がいろいろ。
自動運転が可能になれば、お年寄りもひとりで買い物に行ける。
小さな地域だから、全戸で電気を自給できるかもしれない。
林業でも使えるように、オフロード仕様はつくれないか、などなど。
そんな会話が、のどかな風景の中で繰り返されているのです。

その〈コムス〉が、今年の春からレンタルとして開放されます。
幌を全開にして走る心地よさは、きっとやみつきになるはず。
自転車にも、乗用車にもない“第3の乗り心地”を体験しながら、
上山の千枚田を周遊してみたいものです。

料金は30分500円。以降、30分毎に500円を加算。上限は2時間。美作市民の方に限り、30分300円コースが用意されています。なお、時間は説明時間込み。

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山野草やジビエをいただきます!

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晴れの国、夜は漆黒の闇、だから星空キャンプ

上山地区の最高峰は標高519メートルの妙見山。
その頂上から散歩コースを少し下りたところに、
この春、〈大芦高原キャンプ場〉がリニューアルオープンします。
テントサイトは87基、オートキャンプサイトは43基、
AC電源の引かれたサイトもあり、炊事棟は3棟。
標高500メートルの高原にあるので夏も涼しく、
アウトドア初心者でも安心な設備が整ったキャンプ場です。

ここを訪れる人が最初に驚くことは、
深い山と自然、日が落ちるとともにやって来る漆黒の闇。
そして空を見上げれば、圧倒されるほどの星空。
晴れの国、岡山県の上山は晴天率が高く、
天体写真や天体観測に適した地域でもあるのです。

鹿肉のブロック、ソーセージなど、地元産の食材は予約により販売の予定。

いつものキャンプ料理に加え、ジビエ料理に挑戦できることも上山ならでは。
地元でとれる鹿の肉には臭みがなく、塩で焼くだけで充分においしくいただけます。
同じく、地元産の野草と組み合わせ、山の恵みを堪能しながら
満天の星を見上げてください。

キャンプ場使用料、キャンプ用品のレンタル料など、詳細は『上山集楽』までお問い合わせください。

山野草を学び食す、摘み草ツアー

昨年の夏にテストツアーを実施したところ、東京や大阪からの参加者もいたという、
上山名物となりそうな摘み草ツアー。
今年の春より、月に1回のペースで開催される予定です。

普段は雑草として見落とされがちな山野草ではあるけれど、
実は食用になるものが多く、いずれもビタミンやミネラル分が豊富。
中には薬草として、古くから親しまれてきた草花もあります。

ツアーのランチは、もちろん上山の棚田米や山野草を中心としたメニュー。

山野草というと、苦そうなイメージがあるかもしれません。
しかし、甘いものや酸味のあるもの、などなど、
ひとつひとつの草花が持つ味わいに驚くはず。
雑草という言葉を忘れてしまうかもしれません。

講師は自らも上山に住む植物の研究者、松原徹郎さん。
彼は上山で薬草の販売も手がけています。
松原さんとともに千枚田の風景の中を散策しながら、
それらの山野草について解説を聞き、採集し、試食するツアー。
さらには薬草料理体験や、アロマウォーターづくりなど、
さまざまなコースが用意されています。

ツアーは月に1回を予定。メニューは薬草のスライド講義(おひとり2000円)、散策と薬草の解説、採集(おひとり2000円~3000円)を基本としており、さらに薬草料理体験(おひとり3000円~4000円)、アロマウォーターづくり(おひとり1000円~2000円)などのオプションも用意されています。催行時期、最小催行人数などは『上山集楽』のウェブサイトによって告知します。また、時期によっては料金が変わりますので、事前にお問い合わせください。

革製品づくりに、ジビエ料理も

耕作放棄された棚田の跡は笹や竹の藪となり、
もともとは深い山に住んでいた動物たちの隠れ家になります。
すると、せっかく再生された棚田にも彼らは現れ、時間をかけて育てた農作物を、
一夜にして台無しにしてしまうことが少なくありません。
こうした農林水産被害金額は、岡山県全体で年間に約4億円。
それが農業者の生産意欲を減退させ、耕作放棄地を生む、
という悪循環のもとになっています。

上山ジビエの定番は鹿肉のロースト。臭みがなく、塩だけで充分おいしくいただけます。フライにしてもさっぱりした味。

上山でも耕作放棄地の再生により、獣たちの住み処と耕作地を遠ざけ、
防護柵を張る、などの対策をしていますが、とても追いつきません。
そこで捕獲して、動物たちの命をいただきます。
シカ、イノシシなどの肉はジビエ料理として、
皮は皮革製品として加工され、販売されています。

鹿革はバッグや小物として、さらには肌の保湿を助ける美容用品としての研究が行われています。

今では都市部でも珍しくなくなったジビエ料理ですが、
すでにテストツアー参加者へ提供され、大好評でした。
また、〈大芦高原キャンプ場〉での予約販売も行われる予定。
さらに、東京でも開催されて好評だった、
革製品づくりのワークショップも、随時開催する予定です。

千年の歴史ある棚田を再生させたい、そんな活動から生まれたツアー。
ここにある暮らしを体験しに、上山を訪れてみてください。

information

上山ツーリズム

上山集楽Web:https://ueyama-shuraku.jp

お問い合わせ:https://ueyama-shuraku.jp/contact/

メール:info@ueyama-shuraku.jp

電話:080-2929-8285(9:00~17:00)

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