colocal コロカル マガジンハウス Local Network Magazine

連載の一覧 記事の検索・都道府県ごとの一覧

連載

ちちぶメープルプロジェクト vol.3
2016年、樹液シーズンスタート!

Local Action
vol.065

posted:2016.2.15  from:埼玉県秩父市  genre:活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  埼玉県秩父市。山々に囲まれ、自然豊かなこの地で、
メープルシロップをつくる取り組みが行われています。
その秩父の森で生まれたメープルシロップを味わえる〈シュガーハウス〉ができるまでを
秩父にUターンした井原愛子さんが綴る短期連載です。

writer profile

Aiko Ihara

井原愛子

いはら・あいこ●埼玉県秩父市生まれ。2014年外資系企業を辞めて、秩父にUターン。秩父の森づくりを行うNPOやメープル関係団体の活動に参加しながら、自然とそこに関わる人々にたくさんの刺激を受け、勉強の日々。2015年に自然の恵みを生かした商品開発やエコツアーの企画などを行う〈TAP&SAP〉を立ち上げた。現在、シュガーハウスオープンを目指して、秩父の地域プロデューサーとして日々奔走している。
http://tapandsap.jp

credit

協力:NPO法人秩父百年の森 http://www.faguscrenata.com/

カエデの樹液は春の知らせ

ここ数年は、年が明けるとなんだかワクワクしてきます。
人によっては、スキーやスノボーなどの
ウィンタースポーツのシーズンインかもしれませんが、
私の場合はカエデの樹液シーズンが始まるのです!

「樹液にシーズンなんてあるの?」という疑問とともに、
「樹液」と聞くと、クヌギの木などから出ていて、
カブトムシたちが群がっている様子を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか?
今回はカエデの樹液の秘密とともに、
カエデの樹液採取についての様子をお伝えできればと思います。

NPOのメンバーと山の持ち主たちで作業をする様子。冬の山での作業は重労働。

カエデの樹液が採れるのは、まだまだ寒い
1月末から3月中旬にかけてのたった1か月強。
そんな寒い過酷な時期にしかカエデの樹液は採れないのです。
カエデの木は春の芽吹きの準備のために、根から地中の水分を吸い上げます。
その時期に幹に穴を開けると、ポタポタと樹液が流れてきます。

木に穴をあけてもカエデの木は大丈夫? と聞かれますが、私たちが採取する樹液の量は、木にとってはごくわずか。木を枯らすことなく、少しだけ分け前をいただいています。

地中のミネラル成分をたっぷり含んだ樹液は、
無色透明のミネラルウォーターという感じです。
樹液は芽吹くために必要な栄養素がたくさん詰まっていますので、
カリウム、カルシウムなどのミネラルや酵素類、
アントシアニンなどのポリフェノール類が含まれていて、
樹液を飲むことは春の息吹をまるごといただくといっても過言ではありません。

最近はカナダ産のメープルウォーターも見かけるようになってきましたが、貴重な国産メープルウォーターも販売しています! 今年の採れたて樹液の発売をお楽しみに……!

最近は、ココナッツウォーターの次にブレイクすると紹介されており、
美容や健康に興味のある方々には大注目のヘルシードリンクです。

メープルシロップはどうつくる?

カエデの木から直接メープルシロップが流れ出てくると
思っていた方もいるかもしれません。
でもカエデの樹液の糖度はだいたい2度前後ですので、ほんのり甘さを感じる程度です。
メープルシロップをつくるには、この樹液を40分の1に煮詰めなければいけませんので、
たくさんのカエデの樹液が必要になります。
この事実を知ると、メープルシロップが高価なのを納得してもらえるでしょう。

メ―プルシロップをつくるのは本当に大変! 貴重な自然の甘さがより深く体に染み入ります。

次のページ
秩父がカナダに勝る点とは?

Page 2

カエデの調査からわかること

私たちは、自生しているカエデから樹液を採っているのですが、
日本にある28種類のカエデの種類のうち、秩父には21種類もあることがわかりました。
NPO法人〈秩父百年の森〉や秩父樹液生産協同組合が協力して、
山の持ち主の了解のもとカエデの木の調査をし、
1本1本GPSで位置を計測し、樹種や樹齢、直径などの記録をとっていくのです。

これまでに調査してきた膨大な資料を使って説明してくれる、カエデの仕掛け人、島崎武重郎さん。たくさんの発見とカエデの不思議がわかります。

こうしたデータを解析していった結果、谷筋などの水が多く、
しかし水はけのいい土壌を好むカエデの性質がわかりました。
地形や地層がカエデの生育に深く関係していて、
どの辺りにカエデがたくさん自生しているかがわかるのです。
これは逆に言うと、どこでカエデを育てればよく育つのか、
これからのカエデの森づくりにも役立てることができ、
カエデの樹液採取を森づくりと連動させている私たちにとっては、
とても大事になってきます。

秩父とカナダの樹液採取の違いとは?

秩父では、いくつかのエリアで樹液採取をしており、
そのほとんどがかなり急な斜面での作業になります。
基本的には1本1本のタンクを人力で運ぶ手作業ですが、
場所によってはロープワークを使ってタンクを搬出します。
また凍った川を渡ったり、雪に埋もれた樹液タンクを掘り返したり、
ダイレクトに冬の自然を満喫できるのも樹液作業の醍醐味と言えるでしょう。

雪深く車が入っていけないときは、タンクを担いで歩きます。

一方、メープルの本場であるカナダに樹液採取のシーズンに行ったとき、
秩父とのあまりにも大きな違いに愕然となるのでした。
どこまでも続く平地にすべてがカエデの大森林。
あまりにも広大すぎて、パイプラインでつないでポンプで樹液を回収していました。

木から出てくるパイプが集合している様子。すごい数にびっくり!

自然の中で、自然とは真逆の人工的な様子はかなりショックでした。
秩父とカナダを単純に比べてはいけませんが、
本場のやり方にはたくさんの学びがありました。

秩父のカエデは種類が豊富!

規模や量ではまったくカナダにかなわない秩父ですが、唯一、勝っているところ。
それはカエデの種類が豊富なところです。
カナダはサトウカエデという種類がほとんどですが、
秩父ではイタヤカエデをはじめ、オオモミジ、ヒナウチワカエデ、ウリハダカエデ、
紅葉で有名なイロハモミジなど10種類近くから樹液を採取しています。

樹液でとてもおもしろいのは、樹種によってかなり味に個性があること!
例えば、ヒナウチワカエデはショ糖の割合が多いので、
ほかの同じ糖度の樹液よりも甘く感じます。
木自体も木肌がつやつや、葉っぱの色が黄色からオレンジ、赤に変わるなど鮮やかで、
その華やかさが樹液の味にも出ているそう。
あまりたくさん本数がない貴重な木なので、
私もめったに味わうことができない貴重な樹液です。
また、メインに採取しているイタヤカエデの樹液も、
木が生えている場所によって樹液の味が違うという不思議も!
標高や水辺にあるかどうかによっても変わり、
生えている場所がそのまま樹液の味にダイレクトに反映されているという点は、
自然そのままの産物の証です。

採取した樹液の糖度を計測します。長年の調査でたくさんの樹液のおもしろさがわかってきました。

それぞれの味の違いを楽しむことができる企画や商品開発などを行っていけば、
きっと秩父独自のメープル文化ができるのでは? と期待しています。

*樹液採取は、すべて持ち主の了解のうえ、独自のガイドラインを遵守して
木を枯らすことなく活動を行っています。

Recommend