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連載

ちちぶメープルプロジェクト vol.1
海外志向からまさかの秩父Uターン

Local Action
vol.061

posted:2016.1.19  from:埼玉県秩父市  genre:活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  埼玉県秩父市。山々に囲まれ、自然豊かなこの地で、
メープルシロップをつくる取り組みが行われています。
その秩父の森で生まれたメープルシロップを味わえる〈シュガーハウス〉ができるまでを
秩父にUターンした井原愛子さんが綴る短期連載です。

writer profile

Aiko Ihara

井原愛子

いはら・あいこ●埼玉県秩父市生まれ。2014年外資系企業を辞めて、秩父にUターン。秩父の森づくりを行うNPOやメープル関係団体の活動に参加しながら、自然とそこに関わる人々にたくさんの刺激を受け、勉強の日々。2015年に自然の恵みを生かした商品開発やエコツアーの企画などを行う〈TAP&SAP〉を立ち上げた。現在、シュガーハウスオープンを目指して、秩父の地域プロデューサーとして日々奔走している。
http://tapandsap.jp

credit

協力:NPO法人秩父百年の森 http://www.faguscrenata.com/

秩父の森で生まれたメープルシロップ

皆さんは、日本でメープルシロップがつくられているというのをご存知ですか?
メープルといえばカナダが有名ですが、実は埼玉県秩父で
カエデの樹液からメープルシロップをつくる取り組みが行われているのです。

初春の時期だけ、カエデの木に穴を開けると、そこからぽたぽたと樹液が流れ落ちます。白い管にチューブを差し込んで、タンクに樹液を集めます。

コロカルのニュースでも取り上げられたことがあるので、
聞いたことがある方もいるかもしれません。
今回、この短期連載を通じて、秩父のメープルの活動や、
森での取り組みについて取り上げていきたいと思います。
ひとりでも多くの方に日本の森のこと、秩父のこと、
メープルのことに興味を持ってもらえたらなと思っております。
実は、このメープルプロジェクト、日本の森や林業の問題を背景に始まったのです。

日本の国土の森林面積はなんと約3分の2。にもかかわらず、林業は衰退の一途をたどっています。これは樹齢200年以上の天然のイタヤカエデの木。秩父にはたくさんのカエデの木があります。

外資系企業で仕事に夢中の日々

最初に、ちょっとだけ私のことを話させてください。
何を隠そう、私、秩父でメープルの活動に取り組みたくて、
1年半ほど前に勤めていた会社を辞めて、秩父にUターンしたのです。
人生における一大転機、そのきっかけは、いまからちょうど2年前のことでした。

外資系の家具販売会社に新卒で入ってから、仕事が楽しくて、
気の合う仲間にも囲まれて、本当に恵まれた日々を過ごしていました。
学生時代からイギリスに留学していたり、
卒業論文でマーサ・スチュワート(アメリカのライフスタイルをビジネスにした実業家)
を取り上げたりして、海外の文化やライフスタイル全般に興味があった私。
海外志向が強かったので、いつか海外で働いてみたい、
住んでみたいとも思っていました。
「まさか私がUターンするなんて!」と、
いまでもその決断に我ながらびっくりしています。

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なぜ秩父にUターンすることを決意したのか

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海外志向→地元志向へ

すべての転機は、私が秩父で行われているメープルの活動に興味を持ち、
その活動を行っているNPO法人〈秩父百年の森〉を知ったことがきっかけでした。
このNPOは、植林などの森づくり、エコツアーなどの山とまちをつなぐ交流活動、
体験学習などの環境教育支援活動、森の恵みを活用した地域活性化事業をメインに
秩父で活動を行っています。
たまたまホームページを見ていたら、NPOが主催する
カエデの森をめぐるエコツアーが近いうちにあると知って、
職場の友人を誘って参加しました。

エコツアーでは、秩父で最も豊かな自然が残されているという
日本百名山にも数えられている両神山の麓、小森川上流の白井差という場所を、
山の持ち主の方に特別にガイドしていただくものでした。
山の持ち主の方によってきちんと手入れをされている山は、
いるだけで気持ちのいい癒しの空間になっていました。
また、散策しやすいように歩道も持ち主さんの手によって整備されたそうです。

Uターンのきっかけとなったのは、秩父のカエデの森をめぐるエコツアーでした。

秩父のことはよく知っているはずと思い込んでいたのに、
あらためて秩父の自然のすばらしさ、たくさんの生かしきれていない資源、
秩父の森を豊かにするために真剣に取り組んでいる人々に衝撃を受けました。

そこから、この取り組みをもっと知りたいと思って、
いろいろな人に会い、話を聞きました。
話を聞いていくうちに、気づいたことがひとつ。
それは、メープルの活動に取り組んでいる人たちに、
若い年代の人があまりいないということです。
冒頭でも触れたように、メープルの活動は日本の森や林業の問題が関係しているのです。
木に関わることは、1年2年という問題ではなく、
何十年という長い年月がかかるのです。
私たちの世代が引き継ぎ、次の世代につなげていくためには、
いまアクションしなければ! と勝手な危機感を持つようになりました。

こんなキレイな森が存在するのも、きちんと人の手がかけられているおかげなのです。

木を植え育てる活動をしている団体は日本中にたくさんあると思いますが、
NPO法人〈秩父百年の森〉は、材木としての活用以外で木を使って
新しい資源を生み出し、大学やメーカーなどと協力して研究しており、
カエデの樹液の取り組みはその一例になります。
こんなに先進的で画期的な取り組みをしている団体が秩父にあること、
そしてきちんと実績を上げていることに大変驚きました。

「この活動を広げていきたい! そして、もっと若い世代の人たちが
継続的に関わっていけるようなしくみづくりをしたい!」
と思うようになりました。
でも、会社を辞めて活動に参加したいと相談したとき、
活動に関わっている人たちからも反対されました。
「まだ、メープルで食べていけるかわからないから、いま辞めてもしょうがないよ!」
「仕事の合間に活動に参加して、数年後に戻る計画を立てればいいじゃない」と。

確かに金銭的なことを考えればもっともなのですが、
いまこのタイミングでやらないと一生やれないという思いがあり、
私の意志はゆるぎませんでした……。
結局、エコツアーに参加してから3か月で退職を決意、
その半年後には秩父にUターンしていました。
ここから、私の一生を賭けた(?)メープルプロジェクトが始まります!

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