連載
posted:2016.1.14 from:東京都 genre:食・グルメ / 活性化と創生
sponsored by 貝印
〈 この連載・企画は… 〉
歴史と伝統のあるものづくり企業こそ、革新=イノベーションが必要な時代。
日本各地で行われている「ものづくり」もそうした変革期を迎えています。
そこで、今シーズンのテーマは、さまざまなイノベーションと出合い、コラボを追求する「つくる」Journal!
writer's profile
Tetra Tanizaki
谷崎テトラ
たにざき・てとら●アースラジオ構成作家。音楽プロデューサー。ワールドシフトネットワークジャパン代表理事。環境・平和・社会貢献・フェアトレードなどをテーマにしたTV、ラジオ番組、出版を企画・構成するかたわら、新しい価値観(パラダイムシフト)や、持続可能な社会の転換(ワールドシフト)の 発信者&コーディネーターとして活動中。リオ+20など国際会議のNGO参加・運営・社会提言に関わるなど、持続可能な社会システムに関して深い知見を持つ。
http://www.kanatamusic.com/tetra/
photo
Suzu(Fresco)
スズ●フォトグラファー/プロデューサー。2007年、サンフランシスコから東京に拠点を移す。写真、サウンド、グラフィック、と表現の場を選ばず、また国内外でプロジェクトごとにさまざまなチームを組むスタイルで、幅広く活動中。音楽アルバムの総合プロデュースや、Sony BRAVIAの新製品のビジュアルなどを手がけメディアも多岐に渡る。
http://fresco-style.com/blog/
都市を耕す、メディアサーフコミュニケーションズ。
青山国連大学前〈Farmer’s Market @ UNU(以下、ファーマーズマーケット)〉や
南青山の〈COMMUNE246〉、〈青山パン祭り〉など、
さまざまなイベントやメディアを仕掛けている。
今回は創業メンバーの田中佑資さんに、
活動を通じて見えてくる社会像をお聞きした。
メディアサーフコミュニケーションズの創業メンバー田中佑資さん。
ファーマーズマーケットが始まったのは、2009年の9月。
その立ち上げから関わっているのが田中佑資さんだ。
ファーマーズマーケットは、
農家さんが直接野菜や果物を売る、都会の中の市場である。
「海外とかの文化的な都市には必ず市場がある。
東京にもあったらいいんじゃないか、ということで始まりました。
僕自身、もともと農業にも食にも興味を持っていました」
野菜、果物、花などの産直品やジャムなどの加工品、
パン、コーヒーなど、1回の開催ごとに100店舗ほどが集う。
毎週土日に開催しているが、簡単なことではない。
「月に1~2回だとどうしてもイベントになってしまう。
毎週開催していくことで、コミュニティが生まれます。
最初から毎週、出店されている方もいらっしゃいますし、
毎回いらっしゃるお客さんもいます」
さらに〈青山パン祭り〉のような企画も連動している。
「2014年から〈AOYAMA FOOD FLEA〉という動きもつくりました。
食の多様性をテーマにして、会場で同時開催しています。
そちらは職人にスポットをあてて、全国のパン屋さんが集まる〈青山パン祭り〉、
コーヒーのロースターの方が集まる〈Tokyo Coffee Festival〉、
日本酒の蔵元さんを集める〈AOYAMA SAKE FLEA〉などをやりました。
会場を提供している国連大学の意向とも一致して進めています」
毎週末、“村”ができる。
食と農を通じて出会うコミュニティがある。
国連大学前で毎週開催されるファーマーズマーケット。写真提供:メディアサーフコミュニケーションズ株式会社
田中さんたちは日ごろから関東近郊の畑を訪れ、生産者さんたちと対話し、
消費者との架け橋をつくることを進めている。
「農家さんはこだわっていればいるほど、
自分でお客さんを見つけなければならない。
なぜかというといま農産品の“規格”というのが、
大きな価値観になってしまっているんです。
“色”、“かたち”、“大きさ”が野菜や果物の価値を決めてしまいがちですが、
“規格”ではない大切な思い、例えば無農薬であるとか、
在来種であるといか、そういうこだわりは流通が小さくて評価されないんです」
だから、農家さんの“こだわり”と都会の消費者の“こだわり”を直接結びつける。
「都市に住んでいると、農家さんと触れ合うだけでもおもしろい。
おいしくて、癒される。新鮮なものも買えるし、値段も高くない。
それに直接やりとりをしたほうが楽しいじゃないですか。
効率的にやるなら今の流通でもいいのだと思いますが、
出会いを求めているのなら、こういう“交換”のやり方が一番いい。
“こういうものをあなたに食べてもらいたい”、
“食べたい”、という関係ができればいいと思う。
それが僕が思うファーマーズマーケットなんです」
ファーマーズマーケットのコンセプトは“野良”。
そこに目指す社会の姿も見えてくる、と田中さん。
「“野に良い”というのはどういうことなのだろうか。
すべての生活の原点はそこにあるんじゃないかと考えました。
つまり、野良があって、農家さんがいて、食事ができるということ」
都市のなかにあって、その流れを意識したコミュニティをつくっていくこと。
そのベースとなっているのがファーマーズマーケットなのだ。
ファーマーズマーケットでは野菜だけでなく、花屋さんも出店。ほかにパン、お酒、コーヒーなども出店している。2014年からは食の多様性をテーマ に〈AOYAMA FOOD FLEA〉も併催している。
写真提供:メディアサーフコミュニケーションズ株式会社
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毎週の開催なので、突風や台風などとぶつかるときもある。
台風のときはさすがに中止だが、それ以外は基本的に開催を続けている。
これまでの印象的なできごとは、と聞くと、
「東日本大震災のときのことは忘れられません」と田中さん。
東日本大震災の3月11日は金曜日だった。
翌日のファーマーズマーケットをどうするか? ということで
田中さんの心は揺れたのだという。
電話が不通で農家さんとも連絡が取れない。
グループのお店は大丈夫かと心配はつきない。
震災の直後、ほかのイベントは軒並み自粛だった。
「共同運営していた会社からも
ファーマーズマーケットも中止したほうがいいのではないか
という意見がでました。
しかし僕らとしてはやろうということになった。
むしろこういうときにやらなくてどうするのか。
食というのはライフラインなんです。
ビジネスになるかどうかだけではない。
連絡が取れない人もいたし、来られない農家さんもいるかもしれない、
でもやろうと決めた」
都内のコンビニの棚からは商品が消えたが、
農家さんのところには食べ物はちゃんとある。
流通が崩壊したときこそ、農家と直接つながっている強みを生かすべき。
それをしっかり届けるのがファーマーズマーケットの役割と考えたという。
「一日中ラジオを流しながら行ったんです。
お客さんからも非日常のときに日常があることでほっとしたと言われました。
僕自身も心が揺れたのが恥ずかしくなった。
“やってよかった”と思いました」
身が引き締まった、と言う。
それからは何があっても続けるという覚悟ができた。
約100店が軒を並べるファーマーズマーケット。写真提供:メディアサーフコミュニケーションズ株式会社
ファーマーズマーケットのコミュニティからは、
さまざまなプロジェクトが生まれている。
そのひとつが〈Re-think Food Project〉。
フードロス(廃棄されてしまう食材)を題材に
世の中の食を考えなおしていく一連の活動だ。
「畑やマーケットで売れ残って、捨てられてしまっている野菜があるんです。
統計的にもゴミになってしまう食べ物が
流通しているものの2割から3割近くあるといわれています。
食べ物というのは“商品”である以前に“自然の恵み”なわけです。
食べる権利は誰にでもあるはず」
そこのギャップをファーマーズマーケットが中心になって
埋めていけるんじゃないかと考えたのが〈Re-think Food Project〉だ。
「食べ物のことをもう一度しっかり考えていこうというプロジェクトです」
ファーマーズマーケットに参加の農家さんが提供する
このままでは無駄になってしまうけれど、食べられる食材を使って、
料理をつくり、提供する。資金はクラウドファンディングで集めました。
2015年の年末12月31日に東京・渋谷の明治通り公園で開催した。
近くにはホームレスの方も多くいる。
「いわゆる“炊き出し”ではなく、
ちゃんとこだわった農家さんの食材をこだわった調理法で提供します。
料理もシェフの方に協力していただいた。
〈レフェルヴェソンス〉のエグゼクティブシェフ・生江史伸さんも
参加してくださいました」
レフェルヴェソンスはミシュランガイドにおいて2つ星の評価。
世界のベストレストラン12位に選ばれたことがある
日本を代表するフレンチレストランのひとつだ。
「生江さんは、毎週ファーマーズマーケットに買い物にきてくださっているんです。
年末はお忙しい時期なのにも関わらず、
基本的にはボランティアで企画に関わってくださいました」
2015年大晦日に行われた〈Re-think Food Project〉。廃棄食材を一流シェフの手で調理して提供する。フードロス(廃棄されてしまう食材)を題材に世の中の食を考えなおしていく活動。写真提供:メディアサーフコミュニケーションズ株式会社
〈Re-think Food Project〉はクラウドファンディングで資金を集め、ファーマーズマーケットの参加者を中心にプロジェクトが生まれた。写真提供:メディアサーフコミュニケーションズ株式会社
ほかにもレフェルヴェソンスとのコラボレーションでは
里山再生を支援するイベントも行っている。
「神奈川県葉山にかつてはゴルフ場として開発され、
その後住宅地として再度開発されようとしていたものの、
バブル崩壊のため開発は中止。
そのため長らく禿山となり放置されていた場所があるんです。
そこに、非営利団体が農業生産法人を立ち上げて〈森と畑の学校〉という
里山の再生のためのプロジェクトを始めました。
その土地を里山として再生し、
さらに付加価値のついた生産物を多数出荷できる畑がある場所、
関東近郊から人が集まる場所につくり変え、
葉山を代表する農業ビジネスモデルを構築しようと考えていました。
しかし人手不足や資金不足で活動が思うように進んでいませんでした」
そこにファーマーズマーケットのメンバーが企画に参画した。
レフェルヴェソンスの特別ディナーを森と畑で食べる、というイベントを企画した。
「その土地で採れる野菜や山菜、野草はもちろん、
近海で捕れた魚介類や畑をサポートするメンバーである農家さんの葉山牛も使い、山の幸と海の幸が出会う、まさにこの土地の春を表現する」という企画。
東京のレフェルヴェソンスのスタッフがそのまま里山にやってきて
最高の料理を提供した。
荒れ地の一部を一般に開放して、
彼らが食べたいものを育てる「エディブルガーデン」にしたり、
古来の器具・土かまどをつくったり、小屋(温室)をつくる。
その資金をクラウドファンディングで調達するための仕掛けだ。
結果、資金の調達に成功し、100人ほどのゲストが訪れた。
フレンチレストラン〈レフェルヴェソンス〉の生江史伸シェフもこの場所の森の再生、里山づくりを全面的に応援。「この土地の空気を楽しんでほしい」という園主の声を料理による表現で支援。写真提供:メディアサーフコミュニケーションズ株式会社
〈森と畑の食卓〉。里山の再生を願い、新たな農との関わり方を目にしたい100人がクラウドファンディングで集まった。写真提供:メディアサーフコミュニケーションズ株式会社
メディアサーフコミュニケーションズは今、
南青山で新しいコミュニティ型の空間を運営している。
それが〈COMMUNE 246〉だ。
以前は〈246COMMON〉として多くのファンをつくっていた場所がリニューアル。
約830平方メートルの面積に個性的な料理やお酒を提供するフードカートや
カフェ、共有型ワークスペース〈みどり荘2〉、
自由大学キャンパスとして使われている。
中央にはエアドーム型の共有スペースが設置されたイベントなども行っている。
「ひとつの空間のなかに衣食住があって、学ぶ場があって、働く場がある。
それは小さな村をつくるということなんです。
そこが246COMMONとの一番大きな違いです。
1871年にパリコミューンというのがありました。
それはパリ市の自治市会(革命自治体)のことで、
72日間の解放区だったんですが、そこで行政の民主化、
女性の参政権や義務教育の自由化などが行われたんです。
理想をもった実験的な共同体、そんな場を意識しています」
単に屋台村があるということではなく、
未来のコミュニティの理想をめざす実験の場なのだ。
「今後はエネルギーのこと、LGBTのような価値観、仕事の仕方など、
さまざまなテーマで活動をさらに進めていきたいと思っています。
自由大学では2015年に〈Creative City Lab〉も立ち上がりました。
発酵するコミュニティをめざしています」
発酵するコミュニティ!
これからもメディアサーフコミュニケーションズの動きに注目していきたい。
南青山のコミュニティ型空間 〈COMMUNE246〉。事業会社は株式会社コミューン。総合プロデュースを流石創造集団株式会社、運営をメディアサーフコミュニケーションズ株式会社が行う。写真提供:メディアサーフコミュニケーションズ株式会社
約830平方メートルの空間に、フードカートやカフェ、共有型ワークスペースがあるほか、自由大学のキャンパスとして使われている。未来のコミュニティの理想をめざす実験の場。写真提供:メディアサーフコミュニケーションズ株式会社
information
メディアサーフコミュニケーションズ株式会社
Farmer’s Market @ UNU
COMMUNE 246
住所:東京都港区南青山3-13
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