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話題のパン本も出版。都市を
“耕す(Cultivate)”集団 
メディアサーフコ
ミュニケーションズ 前編

貝印 × colocal
「つくる」Journal!
vol.034

posted:2016.1.5   from:東京都渋谷区  genre:ものづくり / 活性化と創生

sponsored by 貝印

〈 この連載・企画は… 〉  歴史と伝統のあるものづくり企業こそ、革新=イノベーションが必要な時代。
日本各地で行われている「ものづくり」もそうした変革期を迎えています。
そこで、今シーズンのテーマは、さまざまなイノベーションと出合い、コラボを追求する「つくる」Journal!

writer's profile

Tetra Tanizaki
谷崎テトラ

たにざき・てとら●アースラジオ構成作家。音楽プロデューサー。ワールドシフトネットワークジャパン代表理事。環境・平和・社会貢献・フェアトレードなどをテーマにしたTV、ラジオ番組、出版を企画・構成するかたわら、新しい価値観(パラダイムシフト)や、持続可能な社会の転換(ワールドシフト)の 発信者&コーディネーターとして活動中。リオ+20など国際会議のNGO参加・運営・社会提言に関わるなど、持続可能な社会システムに関して深い知見を持つ。
http://www.kanatamusic.com/tetra/

photo

Suzu(Fresco)

スズ●フォトグラファー/プロデューサー。2007年、サンフランシスコから東京に拠点を移す。写真、サウンド、グラフィック、と表現の場を選ばず、また国内外でプロジェクトごとにさまざまなチームを組むスタイルで、幅広く活動中。音楽アルバムの総合プロデュースや、Sony BRAVIAの新製品のビジュアルなどを手がけメディアも多岐に渡る。
http://fresco-style.com/blog/

“メディア”をつくるだけでなく、
“メディア”をサーフして“コミュニケーション”をつくる

目黒区青葉台のワークスペース みどり荘に
〈メディアサーフコミュニケーションズ〉を訪ねた。
青山国連大学前で毎週末行われている〈Farmer’s Market @ UNU〉や
南青山のコミュニティ型空間〈COMMUNE246(コミューン246)〉、
2015年は10月に開催され、盛況を見せた〈青山パン祭り〉など、
さまざまなイベントやメディアを仕掛けている、今注目の若者メディアチームだ。
さらに、都市の野良仕事カルチャーを発信する雑誌『NORAH(ノラ)』を発行したほか、
最近では話題のパン本『CRAFT BAKERIES』もクラウドファンディングで刊行を実現させた。

創業メンバーの堀江大祐さんにお話をうかがった。
まずはメディアサーフコミュニケーションズという会社はどんな会社なのか。

メディアサーフコミュニケーションが企画・運営し、2009年9月より青山・国連大学前で開催されている〈Farmer’s Market @ UNU〉。そこで日本各地からパンの名店が集う〈青山パン祭り〉が行われた。写真提供:メディアサーフコミュニケーションズ

「メディアサーフコミュニケーションズの構想は
元IDEE、現在は流石創造集団株式会社の黒﨑輝男さんが
10年くらい前から考えていたことです。
当時まだ本や雑誌など紙媒体がおもしろかった時代。
でもこれからはWebやSNS、映像やイベントなど、表現方法はいろいろあって、
それを組み合わせることによってより効果的な状況も生み出せるし、
伝えたいことによってメディアも選べるはず。
だからメディアをサーフィンするように有機的につないでいくことをする会社を
つくろうと考えたんです」

“メディア”をつくるだけでなく
“メディア”をサーフして“コミュニケーション”をつくる会社。

「僕はもともと黒崎さんのIID(世田谷ものづくり学校)での学びの場
〈スクーリング・パッド〉の学生だったんです。
そこでスクーリング・パッドの書籍の編集を手伝わせていただいて、
その流れで2008年にメディアサーフコミュニケーションズを立ち上げるときに参加しました。
最初はほんと仕事がなくて、毎月イベントをやったり、
そのコンセプトをもとにフリーペーパーをつくったりしていました。
そのうちに〈Farmer’s Market @ UNU〉が始まって、
それが広がっていったんです。
会社の多くの力を〈Farmer’s Market @ UNU〉や〈COMMUNE246〉に割いています。
僕は会社の中ではメディアづくりや、
あとは紙媒体やWebなどの制作系の仕事をやっていますね」

メディアサーフコミュニケーションズ内のプロジェクトチーム〈Bread Lab〉が運営する〈青山パン祭り〉。土日で約2万人を動員する。もともと2011年に世田谷・三宿エリアで始まった〈世田谷パン祭り〉から発展した。写真提供:メディアサーフコミュニケーションズ

都市を耕す

〈Farmer’s Market @ UNU〉のコンセプトを発信しているのが季刊誌『NORAH』。
これまでに紙媒体『NORAH』を5冊出しているほか、連動するWebサイトも立ち上げた。

「NORAHとは都市を耕す、ということなんです」

Culture(文化)の語源はCultivate(耕作)にあるという。
土を耕し、豊かにすることで、生まれ育つものを収穫し、楽しむということ。
それがNORAHだ。

「野良って、野を良くするって書くのだけれど、
それが僕たちのコンセプトをよく表していると思っています。
そして〈ファーマーズマーケット〉を
都市のなかに根ざしたものにしたいと思ったので、
催事的にやるだけではなく、メディアをつくることを考えました。
メディアというと最近はまずウェブマガジンになるんですが、
紙媒体としてかたちに残るものにしたいということで、季刊の紙媒体にこだわりました」

年4回発行する季刊誌『NORAH』とWebサイトは連動している。
エディター自ら掘り起こしてきた情報をWebサイト上にストックし、
その中から多くのユーザーの関心と意見を集めたトピックや、
今伝えるべきテーマをさらに掘り下げて雑誌に編集している。
野良的な感性を磨き、野良的な生活を志向する、そんなコンセプトブックだ。

「食や農に興味がある人だけでなく、
ファッションやデザインに興味がある人にも
“いいな”と思ってもらえるものにしたいと思っています。
海外の農家さんって野菜や作物にこだわるだけでなく、
家に行ってもインテリアも音楽も本も趣味がいい。
ライフスタイルそのものがかっこいい人が圧倒的に多いんです。
日本の農家さんでもやっていることや思想がかっこいい人はいらっしゃる。
でも趣味や生活まで羨ましいと思える人は数少ない。
日本の農家さんも憧れられる、
“生き方としてのファーマー”というものを発信していけるといいなと思います」

次は“種”の特集で、3月に出版予定だという。

メディアサーフコミュニケーションズの季刊誌『NORAH』。

2万人に愛される〈青山パン祭り〉から生まれた〈Bread Lab〉が送る、パン好きによる、パン好きのためのパンの本『CRAFT BAKERIES』。

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話題のパン本はどんなメンバーでつくったのか

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パン本『CRAFT BAKERIES』

「いま僕らの中で一番新しいトピックは、
〈青山パン祭り〉から生まれたパン本『CRAFT BAKERIES』です」と堀江さん。

〈青山パン祭り〉は、日本各地からパンの名店が集る日本最大級のパンの祭典だ。
2009年9月より青山・国連大学前で開かれており、
〈Farmer’s Market @ UNU〉の中で開催されている。
2015年は10月24、25日に開催され、約2万人を動員した。

その運営メンバーを中心に結成されたのが〈Bread Lab〉。
〈青山パン祭り〉の企画運営を中心に、
イベント企画や出版などパンにまつわる活動を行う。
パンを深く掘り下げることで素材の生産者、つくり手、
パン好きの人をつなぐことを目的とするチームだ。

「〈Bread Lab〉は社内プロジェクトとして始まりました。
ラボって付けたのはちゃんと深堀りして、編集して、
外にしっかり発信していこうという考えからです。
パン祭りもビジネスとしてだけで考えるといつかは行き詰まると思うんですけど、
“パンを探求する”という軸でやっているので持続する。
“パンが好き”から始まる好奇心で、どこまでも探求し、
発信していくということが大切なんです」

パンにはまって、知識も深めて、みんなでシェアして、食べる環境も豊かで、
そして楽しめること。
そんなライフスタイルを提案したいと堀江さんは言う。

メディアサーフコミュニケーションズ〈Bread Lab〉が運営する〈青山パン祭り〉。写真提供:メディアサーフコミュニケーションズ

〈Bread Lab〉のパン探求の女子力

しかし、いったいなぜパンなのか?

「もともと〈Farmer’s Market @ UNU〉をやっていて、
発酵の文化にみな興味を持っていたんです。調べても調べても奥深すぎて、
発酵食品はおもしろいと感じました。
雑誌『NORAH』の中でも取材をしてきましたが、掘れば掘るほどおもしろいんです。
その興味のなかに当然“パン”もありました」

〈Bread Lab〉はチーフ・ディレクターの入江 葵さんを中心に
女性のメンバーがほとんどだという。

「フォトグラファーとライターさんには男性もいますが、基本中心メンバーは女性です。
もちろん男性にもパン好きはいますが、
女性があんなにパンを愛する理由は何だろうって考えたんです。
パン祭りは朝10時にオープンするんですけど、
8時くらいからお目当てのパン屋さんのために並ぶ人もいます。問い合わせも多い。
普段買いに行けないパン屋さんもあるということもあるんですが、
そこまでできるのはなんだろう。
その熱を同じパン好き女子の目線でまとめたら
おもしろくなるだろうなとは考えていました」

アートディレクターもデザイナーも女性。
中心になった編集者も堀江さん以外は女性。
パン好きの女性が中心となって、おいしく楽しいパン文化、
さらに素材やつくり手など、パンにまつわる不思議までを
パン好き目線で探求していくラボ。
そして〈Bread Lab〉では、パンに探究心と愛情を持ち、
丁寧につくり上げる良心的なパン屋さんを〈CRAFT BAKERIES〉と呼ぶことにした。
そうしてできたのがパン本『CRAFT BAKERIES』だ。

パン本『CRAFT BAKERIES』、国内外61軒のパン屋さんを“パンの探求”、“小麦の冒険”、 “発酵の不思議”に分類し紹介している。

国内は北海道から沖縄まで、海外はアメリカとスウェーデンで、
国内外61軒のパン屋さんやベーカリーカフェを取材し、まとめあげた。
どんな人が、どんな工房で、どんな想いや素材・製法へのこだわりを持ってつくっているのか、
そこにあるパンづくりの根本を知りたいという想いで企画されたという。

リスペクトを集めている人気のパン屋さんは、それぞれに深いこだわりがあるという。

「どんな酵母を使うのか、水は硬水にするか、軟水にするか、とか。
酵母も自分たちで起こすことから始めます。
一番シンプルなのは小麦から酵母を起こすことですが、
季節の果物から起こす人もいます。
麦はどこのものを使うのか。ヨーロッパで修業した人の中には、
外国の小麦にこだわっている人もいますが、
最近のトレンドだと北海道産の小麦とか、
自分たちで小麦をつくっているというところもあります。
それに加えて火ですね。薪にするか、電気釜にするか」

『CRAFT BAKERIES』では、小麦とパンの深い関係や、
パンの中で起こる発酵の神秘、パンの歴史が、パン好き目線でまとめられている。

「パンの食べ手の代表として“パンで世界を、人を繋いでみたい”」
(『CRAFT BAKERIES』より)

パンに探究心と愛情を持ち、丁寧につくり上げる良心的なパン屋さんを〈CRAFT BAKERIES〉と呼ぶ。写真提供:メディアサーフコミュニケーションズ

メディアサーフコミュニケーションズの創業メンバーの堀江 大祐さん。話題のパン本『CRAFT BAKERIES』や〈青山パン祭り〉などを手がけている。

野良的な感性を磨き、野良的な生活を志向する。
都市を耕す、メディアサーフコミュニケーションズ。
次回はメディアサーフコミュニケーションズのもうひとりのキーパーソン、
創業メンバーの田中佑資さんに〈Farmer’s Market @ UNU〉や〈COMMUNE246〉、
〈森と畑の食卓〉などのお話や年末に行われた〈RE THINK Food〉についてうかがいます。

後編【都会の市場・ファーマーズマーケットから見えてきたコミュニティのかたち メディアサーフコミュニケーションズ 後編】はこちら

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