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連載

全読者を覚えられる
コミュニティサービスを目指して
東北開墾 後編

貝印 × colocal
「つくる」Journal!
vol.033

posted:2015.12.29  from:石川県輪島市  genre:食・グルメ / 活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  歴史と伝統のあるものづくり企業こそ、革新=イノベーションが必要な時代。
日本各地で行われている「ものづくり」もそうした変革期を迎えています。
そこで、今シーズンのテーマは、さまざまなイノベーションと出合い、コラボを追求する「つくる」Journal!
ものづくり・しくみづくり・ひとづくり・食づくり、場づくりetc、
貝印 × コロカル × earthradioチームが、フレキシブルにテーマを取り上げていきます。

writer's profile

Tomohiro Okusa
大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

photographer

Suzu(Fresco)

スズ●フォトグラファー/プロデューサー。2007年、サンフランシスコから東京に拠点を移す。写真、サウンド、グラフィック、と表現の場を選ばず、また国内外でプロジェクトごとにさまざまなチームを組むスタイルで、幅広く活動中。音楽アルバムの総合プロデュースや、Sony BRAVIAの新製品のビジュアルなどを手がけメディアも多岐に渡る。
http://fresco-style.com/blog//

前編【共感で生まれる、 つくる人と食べる人の 「友だちづくり」 東北開墾 前編】はこちら

顔が見える1500人

『東北食べる通信』は、2013年7月に始まったサービスだ。
毎月、食材とともに冊子が届く。
ただし、おいしい食材を届けることが目的ではなく、
その生産者の背景を冊子で知ってもらうことが主目的なのだ。
発行元である〈NPO法人 東北開墾〉の代表理事である
高橋博之さんが掲げた読者数の目標は1500人。
現在ではこれを達成したが、以降、自分たちの読者をどんどん増やしていくよりも、
同じ仕組みを全国に横展開していく手法を選んだ。

「各地域に同じ取り組みをする仲間を増やしていって、
それぞれが1000人、1500人と読者を獲得していったほうがいい」と高橋さんは言う。

地域によって採れる食材に特徴もあるし、課題も異なる。
外に向けて、自分たちの地域をアピールしていきたいという目的もあれば、
まずは地域内で魅力を再確認していこうという目的もある。
「どこの消費者と、どうつながりたがっているか」によるのだ。

高橋さんが設定した1500人という読者数。
実は刃物メーカーである〈貝印〉の社長が、
社員約1500人の名前や出身地を覚えているという話を聞いたからだそうだ。

「僕も全読者を覚えられるコミュニティサービスにしたいと思ったので、
1500人に設定しました。規模でしか成果を測れないのが、近代社会の病。
それは古い時代の価値観だし、自然を破壊して成り立つ豊かさです。
とはいえ、たった1500人の読者で世の中を変えることができるのか?
横展開することで、同じような規模のコミュニティが全国各地にたくさんできれば、
それは可能だと思います。
ひとつのコミュニティの消費者を15万人にするより、
1500人の、価値を理解し末長く応援してくれる消費者と関係性を築きたいのです」

小さなコミュニティがたくさんあったほうが、個性的で、独自で、多彩だろう。
効率は悪いかもしれないが、きっとそのほうがおもしろい社会だ。
全国に26誌(発行中20誌)を数える『食べる通信』。
それぞれの食べる通信の編集長や運営母体もバラバラ。
個人もいれば、株式会社、NPO法人、漁協というのもある。
でも同じような課題を抱えているので、意見交換もできる。
横でつながっている仲間になる。

〈東北開墾〉と〈日本食べる通信リーグ〉の代表理事である高橋博之さん。

自ら発信する仕掛け

『食べる通信』に続いて
ウェブメディア『NIPPON TABERU TIMES(日本食べるタイムス)』を
立ち上げた(運営は〈日本食べる通信リーグ〉)。
全国の農家や漁師自身が書き手になっているので、
フィルターのかかっていない、現場のリアルな声を読むことができる。
『食べる通信』は消費者の意識を変えてきた。
同時にそれが生産者へフィードバックされることで、生産者の意識も変えてきた。
その延長として、『NIPPON TABERU TIMES』はよりダイレクトなツールになる。
『食べる通信』では、一度紹介されたら基本的には終わり。
それ以降は自分たちで発信していってほしい。その受け皿となる。

「農家はこれまで“もの言わぬ民”と言われてきました。
消費者の目から見えなくなった巨大な流通システムを整理するだけではなく、
生産者も自ら発信していかないといけません。
これまではものだけ出して終わり、自分たちの価値を発信してこなかったわけです。
そうして時代の変化に取り残されてしまいました」

『NIPPON TABERU TIMES』では、
自分たちの育てている野菜や採っている魚のこと、日々の仕事の内容はもちろん、
「自然の猛威」というカテゴリーでは、一次産業の難しさを赤裸々に語っている。
そんなことを書けるのも、書き手が実際に体感していることだから。
言葉に嘘がない。

さらに農家の発進力を高めていく画期的なシステムが
〈KAKAXI(カカシ) PROJECT〉だ。
農地に設置するデジタルデバイスで、気温や湿度、日照時間を記録してくれる。
さらには樹液流量や土壌水分などの計測も可能だ。
太陽光のみで稼働し、Bluetooth経由でスマートフォンにデータを転送してくれる。
それらのデータはクラウドにアップ可能なので、
消費者はそのデータにいつでもアクセスできるのだ。
さらに、消費者はその野菜を使った料理をアップすることで、
生産者はもちろん、消費者同士の横のネットワークを形成することもできる。

消費者が生産者と同じ目線を持つことができるツール。
現在はアメリカで実証実験を終え、来年から日本での導入を予定している。
概念的な意味での“可視化”を超えた、“リアルな可視化”。
言葉にして伝えたり、宣伝が得意ではないという農家でも、
このKAKAXIなら自分たちのありのままを伝えることができる。
生産者と消費者が、より直接的関係性を持つことで、
農業の価値を高めることになりそうだ。

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『加賀能登食べる通信』が主催した車座に参加してみた。

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全国を行脚する車座キャラバン

高橋さんは、都心部で月に2〜3回、車座座談会を開催し、
ディスカッションを行っている。
これが評判を呼び、地方でもやってほしいという声が高まってきた。
そこで今年の夏、〈車座キャラバン〉として全国12か所を回った。
その第2弾がこの冬開催された。

「それぞれ自分たちの地域で、戦っている人たちがたくさんいます。
でも、みんな各地での局地戦なんです。
それよりも、つながったほうがいい。くじけずにすみます」

今の世の中のいいところがあるとすれば、つながることが簡単になったことだろう。

今回行われた車座キャラバン冬の千秋楽、
『加賀能登食べる通信』が主催した車座に参加してみた。当日は13人ほどが集まった。
参加者には農家が多く、
ほかに県庁職員や地域起こし協力隊のメンバーなども参加していた。

まずは『加賀能登食べる通信』編集長の羽喰亜紀子さんから、ご挨拶。
「全国で10番目にスタートした『食べる通信』です。
今年の5月には真鯛、それからサザエ、お米、加賀丸いもを特集してきました。
金沢の料理では能登の食材も多く、ここは重要な地域です」

『加賀能登食べる通信』編集長の羽喰亜紀子さん。

『加賀能登食べる通信』の誌面。魚も野菜も豊富だ。

そして高橋さんから東北開墾を立ち上げた理由や、
『東北食べる通信』のコンセプトなどが語られた。
その後は、参加者それぞれが参加した理由や従事している活動について話していった。
それぞれの活動で、いろいろな課題を抱えている。
解決に向かっている人もいれば、その糸口を見つけようと参加した人もいる。
高橋さん、そして車座になって聞くほかの参加者からの話は、
刺激にもなり、また同志として心強くも感じるだろう。

車座に参加していた、化学肥料や農薬を使わない野菜をつくっている〈菜友館〉の松村博行さん。

参加者の中に、9月に『加賀能登食べる通信』に特集されたお米の生産者である、
裏 貴大(うら・たかひろ)さんがいた。
起業して4年。食べる通信のコンセプトを地で行くひとりである。

「僕の冬の仕事は、食べてくれた人たちを訪問すること。
だから8割方のお客さんの顔を知っています。
そうすると、次は田んぼに行きたいという話になるんです。
だから1年を通して、本当にたくさんの方がうちの田んぼにきます」と裏さんは言う。

また裏さんは、クラウドファンディングを利用して、能登の耕作放棄地を再生し、
酒米を育てて日本酒をつくっていこうというプロジェクトを“達成”させた。

株式会社ゆめうららの代表取締役である裏 貴大さん。

酒米から仕込み水、杜氏の技にいたるまで能登産にこだわる数馬酒造のお酒。裏さんのお米を使っている。

地域には裏さんのようにアクティブに活動している人がたくさんいる。
そういう仲間を探し、連帯していくという意味合いも車座キャラバンにはある。
一方で、そういった人が地域内から出てこない場所もたくさんある。

「 “集落がなくなるので大変だ”と騒いでいるのは、案外、外の人だったりします。
江戸時代から人口がどんどん増えて、自然圏だったところを開拓していったわけです。
なくなる地域は宿命的に受け止めて、
人間圏から自然圏へお返ししてもいいと思っています。
無理矢理残そうとするのではなく、蓄積されてきたものは記録として残して、
“村納め”のようなことをきちんとする。
ただし、存続に自発的な意志のあるところは残っていかなければならないと思います」
と言う高橋さん。

こうして地方では、同志・仲間が増えてきた。
しかし冒頭に話した通り、まだまだ人数も少なく大きな活動になっていない。
これは高橋さんにとっても難しい問題だ。

「幕末、戦後に続く第3の転換期だというけど、
僕たちが目指しているのはそれどころではなく、
農業革命以来の人類の量的拡大の道を転換するという話。
大き過ぎて、理屈ではわかっていても、なかなかついていけません。
だから、一見相反する意見を超越するようなビジョンが必要なのかもしれません。
宇宙人が攻めてくるくらいのインパクトがあれば、地球人としてまとまるんですけどね。
実際にその宇宙人は環境問題だと思っています。
文明を変える話ですから、
今の大量消費社会の先頭にいる日本から始めなければならないと思っています」

どうしても時間はかかる。急激に変化したものは、どこかでひずみがでる。
ゆっくりと、知らないうちに変わっていくくらいがいい。
もしかしたら、次の世代の話かもしれない。

「日本に産まれてきている若者は、新しい価値観を持っていると思いますよ。
奪い合うこともしない、物欲もない。
大人は古い尺度で若者を批判するけど、
彼らが向かっているのは世界がよくなる方向だと思います。
彼らは概念ではなく、直感を大切にしています。
概念は広がりににくいけど、楽しいという直感は共感を得ます」

だから次代に伝えて託す。
それらを担っていくこれからの若者。そこに希望を見いだす。

information

NPO法人 東北開墾

http://kaikon.jp/

一般社団法人 日本食べる通信リーグ:

http://taberu.me/

加賀能登食べる通信:

http://taberu.me/kaganoto/

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