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岩手・奥州市にオープンした
カフェと託児所
〈Cafe&Living Uchida〉
始まりは、子育ての経験から。
COKAGE STUDIO vol.1

リノベのススメ
vol.152

posted:2017.9.1   from:岩手県奥州市  genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。

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Keisuke Kawashima

川島佳輔

フリーランスデザイナーとして3年間活動し、2016年12月に(株)COKAGE STUDIOを設立。「くらしに、豊かな1ページを。」をビジョンに掲げ、岩手県奥州市でカフェと託児所が併設された〈Cafe&Living Uchida〉をオープン。改装中は大工兼デザイナー。現在はカフェの皿洗い担当。

COKAGE STUDIO vol.1 
異業種を組み合わせ、みんなが豊かになれる場所に

はじめまして。〈株式会社COKAGE STUDIO(コカゲスタジオ)〉代表の川島佳輔です。
岩手県の奥州市で、妻の珠美(以下タマミ)と息子の空(以下ソラ)と
娘の海(以下ウミ)の4人家族で暮らしています。子育てで感じた思いをかたちにすべく、
今年6月にカフェと託児所が併設された
〈Café&Living Uchida〉(以下ウチダ)をオープンしました。

ウチダは3階建ての古ビルを自分たちでリノベーションした施設で、
1階はカフェ兼託児所、2階は古道具を売るお店〈古道具FUCHI〉と
コカゲスタジオ編集部のデザインオフィスがあります。
3階も空いているので活用を検討中です。

この連載ではカフェと託児所という
既存の業態を組み合わせることになったきっかけや
DIYでハーフビルドした様子などをお話します。
どうぞよろしくお願いします。

きっかけは子育てして初めて気づいたさまざまな課題

2012年から約3年間岩手県盛岡市で暮らしていた私たちは、
タマミの出産を機に2015年にふたりの地元である岩手県奥州市へとUターンしました。

これまでタマミは保育士として保育園や幼稚園で幼児教育をしていましたが、
産休に入りしばらく保育現場から離れることに。
普段から子どもと関わっているものの、初めての子育てに不安も多くありました。

当時私は、企業のウェブプロモーションを担当する仕事をしていて、
SNSの運用やマーケティングを行う「中の人」です。
「タマミの出産とそろそろ独立したい」
と思ったタイミングが重なりウェブやグラフィックのデザインを生業に
フリーランスとして活動することに。

地元に戻り、しばらくは夫婦ふたりの自由なペースで暮らしてきた私たち。
そんな中で「子育て」は暮らしを大きく変化させました。

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暮らしの大きな変化とは?

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子どもが生まれたその日から、24時間365日、子育てに休みはありません。
休日の過ごし方も子ども中心の生活にすっかり変わり、
遅くに出かけることも友人とゆっくり食事に行くということもほとんどなくなりました。
当時26歳だった僕らは、
まわりが自由に楽しそうにしている姿がうらやましく感じることも多かったのを覚えています。

子育ては本当に体力がいるし、苦労の連続だと実感しました。
朝の着替えに始まり、食事や入浴、夜泣きともなれば夜も寝られません。
すべてを子どものリズムに合わせるという生活で大変なことも多いですが、
子どもと過ごす毎日は本当に楽しく、笑顔で過ごせる時間を増やしてくれます。

子どもの成長を実感できる日々。家の近所を散歩することも多いです。

長野のゲストハウスにて。1歳近くになると少しずつ意思疎通ができるようになってきました。

ソラが1歳になる前のことです。タマミが通院のため、
どうしても息子を連れて行けない場面あったのですが、
私や祖父母の都合も悪く子どもを預かってもらうことができませんでした。
私たちの世代は両親が現役で仕事をしていることが多く、
祖父母に預かってもらうのもなかなか大変なことに気づきました。

頼れる先はないかと1日だけ託児所を利用しようと考え近隣の託児所に連絡をしてみましたが、
どんな環境で子どもが過ごすのかもわからず、
見ず知らずの方に小さな息子を預けるのはとても不安だったんです。
結局その日は預けることができず、通院の予定もキャンセルしてしまいました。

こうした経験から、もっとオープンで気軽に利用できる託児所があれば、
助かる新米パパやママはたくさんいると思ったんです。
私たちと同じような悩みを抱えている夫婦は多く、保育士であるタマミなら、
小さな子育ての悩みを解決できるかもしれないという想いが湧いてきました。

「子育て」が日常にとけ込むカフェと託児所の共存

ソラが1歳を過ぎた頃、保育園に通いはじめ、たくさんの友だちとふれあい、
日々成長していく姿を見ることがとてもうれしい日々でした。
子どもの成長や集団生活でのルールを学ぶ場として保育園の重要性も感じるとともに、
多様なライフスタイルや各家庭のニーズに合うような場所が
必要だと考えるようになったのはこの時期です。

「小さな子どもたちが楽しく過ごせる場づくりをしたい」
夫婦でそんなことを話すなかで考え出したひとつのコンセプトが
「子育てのサードプレイス」です。

家のリビングで過ごすように、子どもも大人もくつろげる空間がいいな。場づくりへの思いをふくらませます。 

日々の暮らしの延長上にあって、「保育園や幼稚園」と「家」のちょうど真ん中くらいの場所。
子どもだけでなく、子育てをするパパやママ、
この空間に集う地域のみんなが豊かになれる場をつくりたい、
と頭で考えていたイメージを具体的にしていきました。

ウチダのイメージイラスト。(イラスト:Mako pen&paper)

どうしたらコンセプトを体現できる空間がつくれるか、
私たちが場づくりをするにあたり、以下のふたつのことを大切にしました。

・子どもたちが過ごす環境が見える

・子育て世代以外も利用できる

これまでの託児所はクローズドな空間であることが多く、
私たちが利用したいと思えなかった理由のひとつでもあります。
こうした不安材料を解決できて、託児所をパブリックでたくさんの人が集える空間にする方法。
それがカフェとの併設というアイデアでした。

カフェと併設することで託児所の様子が見えたり、オープンな空気をつくることができます。
子連れのママも、カフェでコーヒーを飲むついでに託児所の雰囲気を見に来てもらえれば、
子どもを預かってもらうとき、安心して預けられるはず。
地域の人たちも過ごすことができるので、私たちの思い描いていた風景が見られる、
そう確信しました。

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託児スペースとカフェをつなぐ窓の役割

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詳しい店内の様子は次回お話しますが、
ウチダのカフェと託児所の仕切りには古い建具を組み合わせた大きな窓があります。

オープン当日の風景。カフェ奥の大きな窓の向こうに託児所があります。

カフェと託児所から双方の様子が見えるようにしたデザインで、
店内に入ったとき、真っ先にこの窓が目に入ります。オープンしたばかりのお店なので、
託児所が併設されていると知らずにいらっしゃるお客さんも多く、
「奥はどうなっているの?」と窓をのぞいて子どもたちに手を振る様子もよく見られます。

たくさんの人がウチダに集い、新しいコミュニティをつくる場になるといいな。
日々そんなことを考えています。

たわいもない会話や子育ての悩みを誰かと共有できる、
子育てってそれだけで楽になったりするものです。

出産を機に家にこもりがちで、これまでのコミュニティから抜けてしまうことも多い時期。
気軽に訪れて誰かと話すことができるカフェは大切な存在になります。
生まれたての赤ちゃんとの会話は一方通行ですから、
自分の気持ちに対して「そうそう」とか「大変だよね」
と同意してくれる存在って大きいんです。

次回は、カフェと託児所を併設するDIYの様子をお話します。

information

map

Cafe&Living UCHIDA 

住所:岩手県奥州市水沢区東大通り1丁目5-35

TEL:0197-47-4158

営業時間:cafe10:00〜17:00、living9:00〜17:00

定休日:日曜日、月曜日

Facebook:https://www.facebook.com/cafelivinguchida/

instagram:https://www.instagram.com/cafelivinguchida/

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