連載
posted:2016.4.8 from:香川県高松市 genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築
〈 この連載・企画は… 〉
地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。
writer profile
SHOHEI OKA
岡 昇平
1973年香川県高松市生まれ。徳島大学工学部卒業、日本大学大学院芸術学研究科修了。みかんぐみを経て高松に戻る。設計事務所岡昇平代表、仏生山温泉番台。まち全体を旅館に見立てる「仏生山まちぐるみ旅館」を10年がかりで進めつつ、「仏生山まちいち」「ことでんおんせん」「50m書店」「おんせんマーケット」などをみんなで始める。
こんにちは。
ぼくは、香川県高松市の仏生山町というところで、
建築の設計事務所と、仏生山温泉を運営しています。
ここでにやにやしながら暮らすために、まち全体を旅館に見立てる、
〈仏生山まちぐるみ旅館〉という取り組みを10年がかりで進めています。
これまでの記事では、
仏生山地域のリノベーションを時系列で紹介してきました。
最後の回になるこの稿では2015年の11月に完成した、
まちぐるみ旅館にとって、ふたつめの客室となる、〈温泉裏の客室〉です。
場所は名前の通り、仏生山温泉の裏に隣接しています。
ほんとうに裏にあって、田んぼの横のあぜ道を通って行く感じ。
リノベーション前は平屋の住宅でした。
某プレファブ住宅メーカーの軽量鉄骨仕様、2LDKタイプです。
築年数は30年ぐらい、大きさは約70平米です。
持ち主の方が引っ越しをすることになり、
仏生山温泉が譲り受けることになりました。
しばらくそのままでしたが、リノベーションして宿泊施設にすることにしました。
もともとある、〈縁側の客室〉(2012年開業)は
1棟貸タイプ、4名から10名まで宿泊できる家族やグループに適した客室です。
一方、今回の「温泉裏の客室」は、個人が気軽に利用できるように
1名または2名用のいわゆる個室タイプとしました。
建物の中には個室が4つ。
共同のお手洗い、洗面シャワー室が併設されています。
建物自体は小さいけれど、
となりにある仏生山温泉は出入り自由だから、
温泉の休憩室で、だらだらしたり、
本を読んだり、ちょっと仕事をしたりもして、
寝るときは〈温泉裏の客室〉に帰って、静かに過ごす。
そういう楽しみ方が多い。
もちろん温泉は入り放題だから、
(チェックイン前、チェックアウト後も含めて)
連泊して、ゆっくり湯治される方もたくさんいらっしゃいます。
料金は、
1名1部屋 ¥6,800
連泊の場合は2日目から¥5,800
2名1部屋 ¥9,800
連泊の場合は2日目から¥8,800
寝巻やお風呂セットもついています。
施工にあたっては、前々回の〈TOYTOYTOY〉にも登場した、
〈gm projects〉のメンバーとして活動している小西康正さんが
中心になって行いました。
設計は、ぼくと、小西康正さん、松村亮平さんの3人チーム〈こんぶ西〉が担当しました。
新築の建物の場合、設計が先で施工が後っていう順番だけれど、
リノベーションは、やりながら考えるということもよくある。
もちろん建主に迷惑がかからないようにしないといけないけど、
今回の建主は仏生山温泉だから、そのへんは大丈夫。
とりあえず、内装の撤去から。
リノベーションは、
何を残して、何を新しくするか、
というところが勘どころなんだけど、
この物件は残念ながら、
もともとがメーカーのプレファブ住宅。
だからね、もう、何も残すところがない。
むしろ全撤去。
間仕切り壁や天井を撤去してみたら、
軽量鉄骨の柱があるのは周囲の外壁部分だけでした。
中のほうは、柱が1本もないワンルームになった。
これはよかった。
普通の木造住宅ならたくさん柱があって、
その柱に間取りの制約を受ける。
逆に柱のないこの状態なら自由に平面を計画できる。
ここにきて軽量鉄骨のプレファブ住宅に感謝。
そういう意味ではプレファブ住宅も
リノベーションに向いているかもしれません。
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建物全体の大きさから考えて、
個室は4つぐらいがちょうどよさそうでした。
それぞれの部屋の大きさは8畳ほど。
部屋のかたちはできるだけ細長くすることにしました。
正方形よりも長方形のほうが、
部屋の中での最大距離が長くなるからです。
視線の抜けが少しでも長くなるほうが心地いい。
部屋にはふたつの大きな窓を設けていることも特徴的です。
一般的な宿泊施設は小さな窓があるだけというタイプが多いけれど、
それではあまり心地よくないから大きな窓にしています。
敷地は住宅地のなかなので、すてきな景観は望めないけれど、
窓の外は塀で囲まれた小さな庭になっています。
半屋外的な雰囲気で、延長された室内のよう。
塀があるために、カーテンを設置しなくていいから、
開放的だし、視線の抜けも広がる。
何より、朝の光で目が覚める感じがとてもいい。
内装は全部、木です。
天井と壁はキリ、床はシナ。
とても落ち着きがあります。
香りもいいし。
一般的に宿泊施設の場合は、100平米以上だと内装に制限が出てきて、木の内装は難しい。
温泉裏の客室の場合は床面積が100平米以下のため、木の内装にすることができました。
外壁はそのままです。
外壁の外側に塀を設けて、もともとあった外壁を見えにくくしています。
加えて、前述の個室の庭の塀は、
プライバシーを高める意味もあるけれど、
もともとの外壁を見せないようにするということでもあります。
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温泉裏の客室はオープンして以来、
たくさんの方に利用されています。
うれしいことに、とても心地いいというコメントが多い。
でもそれは、客室だけのことではないと思っています。
隣接する仏生山温泉であったり、
この連載でもご紹介した、
仏生山天満屋サンドもそうだし、
へちま文庫もそうだし、
TOYTOYTOYもそうだし、
四国食べる商店もそう。
それらのお店も含め、
人の雰囲気、空気の感じだったりといった、
まち全体の心地よさだと思っています。
うまく言葉にできないけど、なんとなくいいのです。
これはもう来て、見て、泊まってもらうしかない(笑)。
そしてこれからも、まちが心地よくなっていくために、
いくつか大切にしていることがあります。
その代表的なことのひとつが、
「まちを盛り上げない」ということです。
とりあえず、以下のことを禁句にしています。(僕が勝手にそう決めているだけ)
・「仏生山が盛り上がっている!」
・「仏生山が熱い!」
・「仏生山におもしろい人が集まっている!」
そう、禁句です。
まちを盛り上げない理由はふたつあります。
ひとつ目、
盛り上げたものは、必ず盛り下がるからです。
盛り下がるということは、本来の実力ではなくて虚像なのです。
まちに虚像をつくってもしょうがない。
にやにやできないし。
そして、盛り下がったら、盛り上がる前より調子が悪いのです。
盛り下がるということは、終わりを迎えるということでもあります。
まちは商品じゃないから、終わらせてはいけないのです。
ふたつ目、
盛り上げるということは、プロモーションであり、
先に消費者を呼ぶ行為だからです。
まちに来てほしいのは、にやにやをつくり出せる生産者です。
虚像をつくって、先に消費者を集めるとマスマーケティングや
にやにやできない店が増える悪循環につながります。
消費者が必要ないというわけではありません。
まず、生産者が魅力をつくって、
その身の丈に応じて後から消費者が集まるという順番がとても大切なのです。
まちは交換の場ですから、その交換の健全さが心地よさにつながります。
仏生山はこれからも、
盛り上げずに普段どおり、
逆にちょっと盛り下がるぐらいの感じで、
にやにやできる日常がずっと続いて、
心地よさだけは、少しずつよくなる。
そういうのがいいなと思っています。
まちぐるみ旅館のお話は今回で終わりです。
連載におつき合いくださいまして、
ほんとうにありがとうございました。
ごきげんよう。
information
温泉裏の客室
メール、またはお電話にてご予約のお申し込みをお願いします。
メール:info@busshozan.com
電 話:087-889-7750(仏生山温泉 旅館係)
※キャンセル料
10日前 ご利用料金の30%
前日 ご利用料金の50%
当日 ご利用料金の100%
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