連載
posted:2016.1.26 from:香川県高松市 genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築
〈 この連載・企画は… 〉
地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。
writer profile
SHOHEI OKA
岡 昇平
1973年香川県高松市生まれ。徳島大学工学部卒業、日本大学大学院芸術学研究科修了。みかんぐみを経て高松に戻る。設計事務所岡昇平代表、仏生山温泉番台。まち全体を旅館に見立てる「仏生山まちぐるみ旅館」を10年がかりで進めつつ、「仏生山まちいち」「ことでんおんせん」「50m書店」「おんせんマーケット」などをみんなで始める。
ぼくは、香川県高松市の仏生山町というところで暮らしています。
建築設計事務所と、仏生山温泉を運営しながら、
まち全体を旅館に見立てる、
〈仏生山まちぐるみ旅館〉
という取り組みを進めています。
今回ご紹介する、
〈TOYTOYTOY(トイトイトイ)〉は雑貨店です。
場所は仏生山温泉から徒歩2分、西へ100メートルぐらいのところにあります。
店主の高柳敦史さんは、
2015年に家族で東京から移住、開業しました。
奥さんと、お子さんふたりの一家4人。
移住の大きなきっかけのひとつは震災でした。
そして高柳さんが仏生山を選んだのは、子育てがしやすい環境というのもあるし、
雑貨店を始めるにあたって、
まちぐるみ旅館という取り組みがとてもすてきだと思ってくれたことでした。
ぼくにとって、すごくうれしいことです。
TOYTOYTOYは
デッキをはさんで雑貨店部分とギャラリー部分に分かれています。
雑貨店部分は、店内いっぱいに、めずらしい文具や衣類があります。
からくり人形や肉タオル、人工シャボン玉?(レインボースティック)もある。
店内をまわると、にやにやできる。
ぼくは、誰かに紹介するとき、
“変態雑貨を上品に売る店”と伝えたりしています(笑)。
ギャラリー部分では、アートやクラフト、プロダクトの展示を不定期に行っています。
大きい窓のある箱のような空間で、とても明るい。
2階に作家が滞在できる場所があって、そういうのがとてもいい。
TOYTOYTOYには、
大きな特徴がふたつあると感じています。
ひとつめは、
いわゆる雑貨店に行くと、
どこかで見たことがある、というものがたくさんあるんだけど、
ここでは、そういうことがほとんどないのです。
すべての商品は、店主の高柳敦史さんが自分の目で選んで
ほんとうに好きだと思ったものばかり。
雑誌に出ているようないわゆる「売れ線」商品は皆無なのです。
このことは、とても仏生山的で、
売れるからという理由が先にはならないというところ。
いいもの、いいこと、居心地がいい場所、
そういうものが先にあって、「結果」として、売れていくこと。
TOYTOYTOYをはじめ、仏生山ではそういう感じが空気として共有されています。
ふたつめは、販売の方法がユニークなのです。
名前をつけるとしたら、「好きだトーク販売」。
店主のトークがとてもおもしろいのです。
その内容は商品自体の説明でもあるのだけれど、
自分がどれだけ好きか、みたいな感じなのです(笑)。
そのうえ説明に、まったく圧力がなく何よりも楽しいし、心地よい。
受け取り方によって、トークショーを聞いているようでもあるし、
バックミュージックを聞いているようでもある。
お客さんはものを買うけれど、そういう楽しい体験もして帰ることができるのです。
これは高柳さんの人柄によるところがとても大きい。
リノベーションを行う前は、築50年になる2棟3戸の木造賃貸アパートでした。
その3戸分を全部借りて、ひとつの店舗併用住宅としました。
おおまかには1階が店舗、2階が住居という分け方です。
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施工にあたっては、
半分セルフビルドという方法で行いました。
プロとセルフビルドの組み合わせです。
プロのビルダーは、〈gm projects〉のメンバーとして活動している小西康正さん。
普段は大阪にいるんだけど、
たまたま高松市美術館の展覧会の会場構成の仕事をしているときに知り合って、
そのままTOYTOYTOYの施工をお願いすることにしました。
小西さんは、男前で、やさしくて、爽やかで、力持ち。
そのうえ、関西系のボケツッコミまでできちゃうというユーモアのあるすてきな人です。
後々の仕事も合わせて1年ぐらい仏生山に滞在していたのだけど、
そのあいだ、たくさんの女性が訪ねてくるという
魅力の持ち主です(これはほかの男性陣も納得済み)。
その小西さんが店主の高柳さんを指導しながら一緒に工事を進めていきました。
工事期間は半年ほど。
最初は難しい工事は小西さん、簡単な工事は高柳さん、という感じだけど
教えてもらううちにだんだんとできることが増えてくるのもいい。
自分自身の手でできることが増えてくると、
家に対して住まい手の権限みたいなものが大きくなってくる。
住まわされている感じから、自ら住んでいる感じへと変わるのもいい。
セルフビルドはリノベーションにおいてよく用いられる方法です。
コスト面や愛着や後々の修理のことなど、多くのメリットがあるけれど、
ぼくがいちばん大切にしたいと思っているのは、
「いいものをつくる」ということにおいて、
みんなが同じ方向を向くことができるということです。
普通は大家、建主、設計者、工務店、が参加して
利害関係がバラバラだから、同じ方向を向くのは難しいのです。
セルフビルドだと、「いいものをつくる」ことを最優先にする。
そういう空気をみんなで共有できます。
建物の中は、間仕切り位置はほとんどそのままです。
古くなっている内装材をやり直しています。
いたんでいる砂壁には、珪藻土を塗ったり、スギ板張りにしたり、
畳をスギ板のフローリングにしたりしています。
できるところは断熱材の更新も行いました。
建材の一部は小西さんが美術館の会場構成で用いて、
展示後に捨てるはずだった資材を再利用しています。
結果的に既存の建物も建材も、どちらも再利用するという取り組みになりました。
外まわりは、お客さんが来る店舗部分から
生活感のある住居部分を隠すための工夫をしています。
建物外壁から1メートルぐらい外側の位置に
スギ板の塀を設けました。塀によって住居部分の窓は外から見えないけれど
外光を取り入れつつ、プライバシーを確保するスペースだったり、
設備置場になっていたり、洗濯物を干す場所にもなっています。
ふたつある棟と棟の間はもともとアスファルトの駐車場でした。
囲われた感じがよかったので、落ち着きのある中庭のような場所にしました。
その半分はウッドデッキにして雑貨店部分とギャラリー部分をつなぐ
前庭を兼ねた通路としています。
もう半分は土を敷いて芝生広場としています。
どうして芝生を植えようと思ったのかは、
よく憶えていないから、たぶんちゃんとした根拠はなくて
自然にみんな芝生が似合うと感じたからだと思います。
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この小さい芝生広場がとてもいい。
昔の店は店先に縁台のようなものが置いてあって、
「いつでもだれでも座っていいよ」っていう感じのニュアンスがあった。
それは公共性っていうかたい感じじゃなくて、
人や、まちへのやさしさみたいなもの。
店主の高柳さんのまちに対する姿勢の表明でもあると思う。
店はただお金と物を交換する機械ではないし、
ぼくらもロボットじゃないから、
自動販売機のような店には違和感があるし、そんな店いらない。
芝生の広場や縁台、そういう人の温かみのようなものがあることが自然だし、
ほんとうは普通のことなんだと思うのです。
芝生広場は土日になると、お客さんとそのお子さん、
通りがかりの人まで交じったりして賑やか。
とても居心地のいい感じ。
居心地の良さっていうのは、
例えば、天井の高さや窓の位置や大きさといった
物理的な要素もあるけど、空間に「何かをしろ」と命令されていない感じ、
そういうのって居心地がいい。
一般的に人工的な空間には機能や役割があって、
その空間にいる人は何かをしなければならない、という感じにさせられる。
そういうことがちょっと窮屈。
芝生広場のように機能がないとか、機能が薄いということになると、
ずっとそこに居ていい、と空間に言われているように思える。
そういう心持ちによる、
居心地の良さが仏生山全体にひろがっていって、
まち全体が気持ちよく感じられるようになるといいなと思っています。
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