colocal コロカル マガジンハウス Local Network Magazine

連載の一覧 記事の検索・都道府県ごとの一覧
記事のカテゴリー

連載

ビルススタジオ vol.03:
シェアハウスの始まり。

リノベのススメ
vol.009

posted:2013.12.6   from:栃木県宇都宮市  genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。

writer's profile

Taisei Shioda

塩田大成

しおだ・たいせい●栃木県宇都宮市生まれ。株式会社ビルススタジオ代表取締役。建築設計そして不動産のみならず、界隈のデザインを含め、「場所づくり」を生業とするが、実はただの物件好きで貧乏性のお節介さん。

ビルススタジオ vol.03
始めてから、考える。

ある日、突然森さん(仮名)という方が当社に相談に来ました。
聞けば、現在は宇都宮市の中心商業地の分譲マンションに住んでいるのだが
極力その便利な立地を変えずに独立した自宅を手に入れたい、とのこと。

さて……まず考えられるのは、
 ア)更地を買って、新築。
 イ)中古住宅を買って、リノベーション。
この辺りでしょうか。

ア、イとも、せいぜい2〜3階建ての建物。
そうすると、商業地にはもっと高さのある建物があるので
日当たりは良くないし、庭もないし、プライバシーも確保しにくい。
その割に、総予算が高くつきます。

ということは、周辺に4〜5階建てが多ければ
それ以上の高さ(15m位)に地面を持ち上げて、その上に平屋の家でも建てられれば
立地もよく、日当たりもよく、プライバシーも守れる自宅が手にはいりますよね〜。

……っと、待てよ。ということは、
ビルを買って最上階に住めれば、同じ話じゃん。

というわけで、売りビル探し。しかし、これに関してはさほど苦労しませんでした。
こちらは日常から空きビルを見つけては「あれいーなー、これいーなー」と
指をくわえて見ていた立場だったもので、
およそ主な空きビルは把握できているんです。

元のビル。スナックなどが密集するエリアにそびえ立つ、とりたてて特徴のないビルでした。

その中で、6階建ての元ホテルという物件が。
さっそく森さんと内見しました。
幸い、最上階はもともとオーナーの住居仕様。
眺めもばっちりだし、さらには屋上もあります。
「こりゃあ、いいな」となったのですが、
「下の5フロア、どうすんの?」と、しごく当然のご質問を頂きました。
で、いったん持ち帰り。

元カプセルホテルだったフロア。半解体状態、、。でも、天井が高い!

そうだなぁ……、ビルの現状からすると、
 A)ホテル
 B)マンション(賃貸住宅)
 C)店舗・オフィステナント
と、この辺りが考えられます。
しかしここは地方都市、宇都宮。
ビル上階のテナントはことごとく空いているのがまちの現状です。
ホテルにしても安価できれいな新築のビジネスホテルがそこそこ飽和状態。
ましてやホテルとなると、他社に運営を委ねなければいけない。リスキーだなぁ……。
そうなるとBか。
確かに、商業地への住宅需要はまだなんとかありそう。
でも需要があるということは、新築でいけちゃう巨大投資のできる競争相手がいる。
そんな中、果たしてこちらに入居してもらえるのか。

さらに、普通の賃貸住宅だと、
当然キッチン・バスなどの水廻りを各部屋に設置しなくてはいけない。
それだけでもなかなかの投資が必要となってきます。
とは言え、入居者に受け入れてもらえそうな家賃設定を考えると、
クオリティの低い住環境しか提供できない……。

じゃあ、いっそ水廻りを部屋数分用意せずに、共用にしてみよう。
どうせ法的理由から住戸にできない2階部分は住民みんなで使えるリビングにしよう。
その代わり、各部屋のリビングも広めにとり、共用の家具・設備は
ひとり暮らしではなかなか使えないレベルの品揃えにしてみよう。
あれ……? これって「シェアハウス」だ。

ということで森さんにご提案。
意外にあっさりとOKを頂けてしまいました。
そんなこんなで売買契約が成立しました。

で……、シェアハウスってどうやるんだ?
まずはそこからのスタートです。

事業として行っているシェアハウスは
すでに政令指定都市などの大都市圏にたくさんあり、
事例にはことかかない状況でしたが、そこはプライベートな生活の場所。
のきなみ見学は断られ、ほとんどの事例研究は
ネットや本のみ、というありさまでした。
数少ない見学できたシェアハウスも何十人という大規模なものであり、
入居者さんたちは都内への通勤の便の良さが最大唯一の決定理由、とのこと。

こりゃあ、いち地方都市でしかない宇都宮市で
シェアハウスを運営するのは大きなチャレンジとなりそうだと
ようやく実感しはじめました。

シェアハウスのメリットとは?

まずは、「利便性の良い場所ながら割安で住まいを借りられる」ということ。
テレビや雑誌で言われる「他の入居者たちとのつながり」については他の入居者次第。
実はそこが入居決定動機ではない、と都内の運営者が念を押していたのでした。

さて、「利便性」か……。
通常は「駅からの距離」なのですが、ここは宇都宮市。
電車で通勤通学する人はあまりいません。
気付けばまる1年電車に乗っていないなんて、ざらです。
もちろん住まいを探すのに駅からの距離なんて気にしません。
気にするとすれば「職場からの距離」(通常の場合、宇都宮では車通勤がベース)。
ちなみに、物件には駐車場はとれていません。

しかし当然ですが、ここも近隣に職場のある人にとっては利便性がいいと言えそうです。
(商業地とはいえ、そんなに勤め先は多くないですが)
あれ、そうか、ここは商業地だ。
仕事帰り(いったん帰ってからでも!)に休日に近所で遊べる。
これって利便性だよね? たぶん。うん、たぶん。

うーーーーん、、、
わからない。もうわからないから募集かけちゃおう。
ここでシェアハウス。何がいいのか、
そしてどういう状況をつくればいいのか。
実際に入居する人を集めて、一緒に考えよう。
と、まだ工事は始まってもいない状況でしたが、
ひとまず募集をかけてみました。

すると1か月ほどの間に連絡がちらほら。
なんと5名もの奇特な方々が見もせずに(!)入居を決めてくれました。

理由はさまざま。
テル氏は近所に職場がある、営業マン。
出身は愛媛ですが宇都宮生活はもう長く、
何よりもシェアハウスのある釜川エリアを呑み庭としている方。
職場も遊び場も近い、まさにうってつけの方でした。

メーカさんは、オーナーの森さんと親交の深い会社(これも近所)の
ショップスタッフとして入社することが決まっていて、
初めてのひとり暮らし場所を探しているところでした。

シン氏も職場が近く、決めてくれた方。
実家から通っていたものの、
車で毎日40分かかる通勤に辟易していたところでした。
かつてはバックパッカーとして各国をさまよっていたらしく、
旅先のドミトリー生活で共同生活は慣れていました。

サト氏は宇都宮大学院を卒業し、
自転車で通える距離にある職場に就職が決まっていました。
実家から通うには遠く、
なかなか帰れない仕事状況になることも目に見えていたため、
入居を決めてくれました。

ウミさんは少々事情が違いまして、、、
端的に言えばうちのスタッフです。
そして当シェアハウス物件の担当者でもあります。
決して、なし崩し的に入居させられたわけではなく、
海外でも日本でもシェアハウスでの生活経験があったんです。
特に、今回は建物ができたら完成ではなくて、
人が生活し始めてからが本当のスタート。
ならば実際に生活しながら関わっていく必要があるだろうし、
そうしないと中でどんなことが巻き起こっているのかが
あまりわからないまま、というのも非常に悔しいわけです。
ね、それじゃ悔しいよね?
で、入居となりました。
いや、決して会社命令ではありません。

背景、出身や属性は多種多様でしたが、
ここで「FIRST 5」が出揃いました。
実は入居希望時にそれぞれの方々には
「シェアハウスを始めるといっても、オーナーも当社も未経験なんです。
何を用意すればいいのか、入居者さんが何を望んでいるかも、さっぱりわかりません。
だから5人くらい揃ったら、みんなで決めましょうね。いや、決めてくださいね」
という、何とも不安なリクエストをしていました。
(ホント、よく決めてくれたなぁ、、、といつも思います)

はじめてのミーティングの様子。まだ緊張感がみてとれます。

で、当事者の「FIRST 5」とオーナー、当社スタッフなど交えて、
初めてミーティングが開かれました。
各入居者さん同士はもちろん、オーナーさんも初対面です。
なんかドキドキです。
ここにいる方々がこれから同じ建物で一緒に生活することになるのか。
うまくやっていってくれそうかな、
生理的に苦手な人がいたりしないかな、
そもそも会話は成り立つのかな、
目を見て話ができているかな、
主語述語はしっかりしているかな、
……といらん心配が膨らんでいましたが
そんな心配をよそに、なかなか和やかな時間が流れていました。

まずは(今さらですが……)どんな建物になるかの説明。
それから、シェアハウス経験者による良かれ悪しかれの体験談。
で、ここからが投げっぱなし。
何が欲しいか、どんなルールが必要か、壁の色はどうしたいか、
不安な点(だらけだろうけど)は、無いか。
好き勝手に出し合ってもらいつつ、
話し合いもそこそこにして皆でお肉を食べに行きました。

以下、出た意見の例です。
・たこ焼き機が欲しい
・テレビは100インチがいい
・カーシェアしたい
・プロジェクターで映画が見たい
・バルセロナチェアーが欲しい
・料理人の住人がいてほしい
・外国人の住人がいてほしい
・みんなで過ごさなくてはいけないのか
・部屋に鍵はあるのか
・フロは誰が洗うのか

何度目かのミーティング。白熱と小ボケの渦。

こんな風に話し合いを何度か進めていきながら、
徐々に入居者さん同士も打ち解けていき、
ボケ・ツッコミやまとめ役、マスコット的存在などなどのポジションがはっきりしてきました。
結局、要望やルールづくりについてはざっくりと、
差し障りの無い程度に抑えることになりました。
そうできたのも、何度も会っているなかで打ち解けながらもしっかり話は進み、
以降もみなさんが、都度大人として話し合いながら
決めていけそうだな、と確信を持てたからです。
これから決まってゆく入居者さんについても、
この方たちと自然と対話できる人柄かどうかを気にしながら
当社にて判断をしていけばいいんだなと、ひとつ基準が見えました。

余談ですが、ある人がシェアハウスに向いているか、
向いていないかという、見分け方を教えてくれていました。
それは「兄弟が、特に異性の兄弟がいるかどうか」。
この点についても入居者さんにはまあまあばらつきがあります。
真偽については現在検証中です。

このシェアハウス、実は2013年9月に無事オープンしまして、現在14名が生活しています。
付かず離れずの生活を目指したものの、現実はどうか。
地方版シェアハウスではどんな日常と非日常が繰り広げられるのか。
果たして運営上の問題は本当に話し合いで解決されてゆくのか。
彼女を連れ込む時はお互いどう対応しているのか。
見られたくない食事をするときはどうしているのか。
……などなどを次回はお伝えできると思います。

ビルからの眺め。

information


map

ビルススタジオ

住所 栃木県宇都宮市西2-2-24
電話 028-636-5136

Feature  特集記事&おすすめ記事