colocal コロカル マガジンハウス Local Network Magazine

連載の一覧 記事の検索・都道府県ごとの一覧
記事のカテゴリー

連載

旭川〈ウラヤマクラシテル〉
DIYにかけた歳月は15年。
廃墟同然だった旅館が、
器ギャラリーへ

my weekend@HOKKAIDO
大雪山と、北の暮らしを旅する
vol.012

posted:2017.9.12   from:北海道旭川市  genre:旅行 / ものづくり

PR 北海道観光振興機構

〈 この連載・企画は… 〉  “北海道の屋根”と言われ、日本最大の〈大雪山国立公園〉を有する大雪山。
深く美しい大自然のなかで、コテージや温泉宿に滞在しながら、北の暮らしを旅します。

photographer profile

Asako Yoshikawa

吉川麻子

フォトグラファー。北海道苫小牧市生まれ。札幌市在住。2006年からのスタジオ勤務を経て2011年より独立し、フリーランスとなる。主にポートレイト、衣食住、それらに関わる風景など幅広く撮影。おいしいものといい音楽があると笑顔になります。
気のいい犬1匹と現在二人暮らし。

writer profile

Akiko Yamamoto

山本曜子

ライター、北海道小樽生まれ、札幌在住。北海道発、日々を旅するように楽しむことをテーマにした小冊子『旅粒』発行人のひとり。旅先で見かける、その土地の何気ない暮らしの風景が好き。
旅粒
http://www.tabitsubu.com/

陶芸家が廃墟旅館に込めた、新たな息吹

北海道第二の都市、JR旭川駅から車で30分。
春を告げるカタクリの群生地で有名な〈男山自然公園〉のある突硝山への
細い山道を進んでいくと、森の中に大きな建物が見えてきます。
その名も〈ウラヤマクラシテル〉。

道内外で人気の陶芸家、工藤和彦さんが15年の歳月をかけて
リノベーションしてきた元旭川温泉の広大な施設に、
工藤さんの作品が並ぶ広々としたギャラリーがオープン。
まちから離れた小さな裏山に、多くのお客さんが訪れています。

山の緑に囲まれた入り口そばには、工藤さんの焼きものに使われる薪がうず高く積まれています。

工藤さんの作品〈黄粉引片口鉢〉5000円(税抜)、〈黄粉引片口小鉢〉3500円(税抜)。

「ここ北海道でしかつくれない日本の焼きもの」を探求し、
自ら手掘りした道北の粘土をベースに、土地の素材を使って生みだされる
工藤さんの器は、豪壮さと繊細さをあわせもち、
北の風土を連想させる空気感をまとっています。
手に取るとすっと馴染み、長く使い込んでみたくなる。
ギャラリーにはそんな器との出会いが待っています。

この土地でしかできない陶芸の追求

元旭川温泉の広大な施設のなかで最初に整備したという工房は元宴会場。窓の外の美しい借景に向かいながら主にこの蹴ろくろで作品づくりに励みます。

神奈川出身の工藤和彦さんは、高校生のときに焼きもののおもしろさに魅せられ、
卒業と同時に滋賀県の信楽焼作家、神山清子先生、賢一先生のもとで修業。
その後アウトサイダーアートに興味を持ち、滋賀県立の福祉施設の陶芸の職業指導員として勤務、
続いて、北海道剣淵町の福祉施設開設に伴い陶芸担当として移住し、
退職後、作家として独立します。

色も質感もさまざまな、制作途中の器たち。

工藤さんがこの旧旭川温泉に出会ったのは、まったくの偶然でした。

「剣淵町から当麻町に移り、その後急遽引っ越さなくてはならないときに
知人から紹介された物件が、ここ、元旭川温泉の隣の一軒家だったんです」

次のページ
工藤さんがDIYにかけた歳月は、なんと15年!

Page 2

2002年の当時、閉館して10年以上という元旭川温泉はすでに立派な廃墟。
肝試しに訪れる人々も多く、困った工藤さんは持ち主に管理を依頼します。

すると、遠方で管理ができないという持ち主から
「管理してくれるなら、代わりに建物を使っていい」との連絡が。
そこからは工房として使えるよう、制作の合間に改装を重ねていきます。

工藤さんが使っている道産素材のひとつがホタテの貝殻。焼くと粉末状になり、使って焼き上げると不思議な朱色が器に出ることから活用し始めたそう。自家製の貝漆喰も開発。

工房2階には元宴会場を手直しした広い部屋やキッチンが。訪れる泊まり客のためにつけた建物唯一のお風呂入り口の看板がこちら。

のちに広大な敷地とともに建物を正式に購入し、
アトリエ&ギャラリーとして始動すべく大掛かりな工事も開始。
工房に置かれたコンクリートカッターや鑿岩機などの
工業用の機械が、その規模を物語っています。

「毎日早朝から忙しく働いています」と笑顔で話す工藤さん作の、レンガと土でできた立派な登り窯は、旭川温泉の最大の空間、元温泉浴場の壁を手で壊して設置。建設上防火対策が万全なのと、重いものも置ける重厚な床のおかげ。

「いろいろやりたいけど、建物全部を改装するには、
僕の代では時間が足りない。次の世代に任せようと思っています」

そう語る工藤さんの仕事量は、作品制作も含め、うかがうだけでも気が遠くなるほど。
こうして長い月日をかけ、工藤さんはかつてまちに愛された旧旭川温泉に
〈ウラヤマクラシテル〉という新たな命を吹き込んでいきます。

奥の壁に塗られた、茶色がかった自家製の貝漆喰が味わい深い雰囲気。生け花を習っているという工藤さんの生けた身近な草花が北国の季節を感じさせてくれる。

その広さがうかがえるウラヤマクラシテル外観。訪れる地元の年配のお客さんの中には「昔、旭川温泉で結納をあげた」と思い出を語る方もいるそう。

地域の文化を伝え、発信

若い頃から興味のあるところへ身軽に出かけてきたという工藤さん。

「今はここで暮らしているのが一番楽しいですね。そんな思いを、名前にも込めました」

かつてこの地に入植した開拓者たちは、男山自然公園のそばに小さな庵をつくり、
夜な夜な旦那衆が集まって宴をしていた記録があるのだそう。

「“東山”という地名からもわかる通り、ここを文化の拠点にしようという思いが
あったはず。そういう意味でも、ウラヤマクラシテルはおもしろく育ってほしいですね」

まちの歴史を引き継いで生かし、
北海道の恵みや魅力を発信する場として生まれ変わったウラヤマクラシテル。
元温泉とは想像もつかないほど洗練されたギャラリーには、
旅のお土産にもぴったりな器が待っています。

information

map

ウラヤマクラシテル

住所:北海道旭川市東山2857−58

TEL:090-6211-1797

営業時間:12:00〜16:00

定休日:日曜日〜火曜日(12月3日〜4月3日まで冬期休業)

駐車場:あり

http://urayama.org/

my weekend@HOKKAIDO 大雪山と、北の暮らしを旅する

Feature  特集記事&おすすめ記事