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連載

寺田本家 前編

Hello HAKKO Life!!
vol.001

posted:2012.9.4  from:千葉県香取郡神崎町  genre:食・グルメ

〈 この連載・企画は… 〉  アメリカからやってきたジャスティンがおうちでの発酵ライフを充実させるべく、
日本のローカルの蔵をめぐり、各地の智恵を学んでいきます。

writer's profile

Justin Potts

ジャスティン・ポッツ

1981年アメリカ・ワシントン州生まれ。 ワシントン州立大学卒業、テンプル大学ジャパンキャンパス大学院修士課程修了。韓国と日本にて英語教員として勤務。その後は関東と関西を行き来してPR・国際ビジネス展開のコンサルティング、記事の執筆・編集などを中心に活動。現在は「農業実験レストラン・六本木農園」や「International TERAKOYA」にて日本中の発酵人に出会いながら、都会と地方を繋ぐプログラムを企画・運営している。美味しい日本酒を飲むと関西弁が止まらなくなる。

credit

撮影:飯野高拓
http://the-jops.com/iino/gallery.html

「発酵の里」神崎町へ。

《登場人物》
寺田 優さん(以下、寺田):株式会社寺田本家第24代当主・代表取締役。
南 智征さん(通称、なかじさん。以下、なかじ):
寺田本家蔵人頭、発酵料理家、レシピ本著者。
ジャスティン(以下、ジャス):著者。

都内に住んでいる僕にとって、千葉県はもっとも身近にある農作物の産地というイメージがある。
その一方で、「お酒」から「千葉」という言葉がなかなか連想できない。
でも美味しいお米ときれいな水があるところに、美味しいお酒がないはずはない!
今回それを信じて、成田からほんの少しの距離にあり、
「発酵の里」として徐々に知られつつある神崎町(こうざきまち)に行くことにした。
ここには、まちならではの独特な発酵フィロソフィーがあり、
地元の人たちの発酵ライフを後押しする酒蔵「寺田本家」が中心となって活動している。
酒づくりにも最新技術を導入することなく、
日本最古の発酵の智恵を掘り起こして酒づくりを行っていると知って、
どんな味が醸し出されているのか興味津々で訪ねた。
僕たちを出迎えてくれたのは、寺田本家蔵人頭のなかじさん。

ジャス

おはようございます!

なかじ

おはようございます!

ジャス

今日はよろしくお願いいたします。

なかじ

よろしくお願いします。ふたりとも旅しているような格好ですね。*
*(半ズボンとサンダルをはいた、いろんな荷物を背負っている姿の僕と
フォトグラファーの飯野さんのこと)

ジャス

そうですね。まぁ、旅している感覚で楽しくやろうかなと思ったけど(笑)。

なかじ

いいんじゃないですか(笑)。

農家の人たちが自分で楽しむためにつくっていたお酒。

陽気ななかじさんに連れられ寺田本家に行くと、
何人かの蔵人さんが蔵の端から端まで駆け足で往復していた。
そこで寺田さんと合流。
挨拶が終わった途端、「よかったら手伝いませんか?」と聞かれ、
いつの間にか蔵の作業に参戦! 笑顔で指示していただきながら
「マイグルト」(100%植物性乳酸発酵飲料)用のお米を
仕込みタンクまで何往復か運んでいく。
これが寺田さん流のウェルカム・スタイル。
その後、寺田さんとなかじさんに蔵を案内していただきながら、
寺田本家さんの酒づくりについて特別に見せていただいた。

ジャス

ここは冬場だけじゃなくて、夏にもお酒づくりをやっていらっしゃるんですね。
こんなに外気が入ってくる構造の蔵だから、温度とか環境の調整が難しそうですね。

寺田

発芽玄米のお酒「むすひ」(昔の日本語には濁点がなかったということで、
「むすび」と発音する)と、「醍醐のしずく」というお酒は
夏場でもつくれるんですよ。
両方とも、もともと酸味があって、酸っぱいお酒ですね。
この蔵にいろいろな酸味麹があるおかげで、年中通して元気に発酵していく。
このお酒のつくり方が、エアコンもなかった、昔からのつくり方なんです。

ジャス

そういうお酒を再現させようとしているのですね。
どぶろく系のお酒というか。

寺田

まさにどぶろくのつくり方ですね。
このつくり方でやると、
暑い夏でも腐ったりしないでちゃんとお酒になるからって、広まったお酒で、
農家の人たちが、自分で楽しむためにつくっていたお酒なんですよ。
夏の時期プレミアムなお酒はつくれないから、
自然な、そして、気軽な酒づくりというイメージですね

マイナスからはじまる。

ジャス

お酒のつくり方が時代と共に変わってくるにつれて、
酒づくりの技術という言葉の意味合いも
少し変わったんじゃないのかなという気がしますね。

寺田

そうですね、つくっている特徴が、例えば「醍醐のしずく」の場合ですと、
生のお米を水に浸して、それをしばらく放っておくんですよ。
そしたらその浸している水自体がだんだん酸っぱくなっていくんですね。
まるで腐っているみたいに酸っぱくなっちゃうんですよ。
で、だいぶ臭くなったらその生のお米を取り出して蒸して、
麹とその蒸したお米と合わせてそこにくさ~いにおいがするお水を入れて、合わせて、
発酵がはじまるんです。
その生米と腐った水を漬けた状態のこと、腐れ元っていうんですよ。
元々腐っている状態からはじまるじゃない?
でもそれが美味しいお酒になっていくのがこの「醍醐のしずく」の面白いところ。
マイナスからはじまるみたいな。

ジャス

“マイナスからはじまる”。少し意外ですね。なんとも興味深い!

地元の持ち味と“地酒”の意味。

寺田

これは製麹室(せいぎくしつ)といいます。麹をつくる部屋ですね。
靴を脱いで、入っちゃってください。

ジャス

はい、オッケー。あれ、でもこのままで入っちゃっても本当に大丈夫ですか?
何も帽子被ったりとかしなくても?

寺田

いえ、大丈夫ですね。

ジャス

え~、珍しい。これは、もしかして寺田本家さんの麹室だからできる、というか……

寺田

そうですね。お客さんにいらしていただいて、
さまざまな雑菌を持ってきてくれるのが、
うちの美味しい麹づくりの元になってるんじゃないかな~と。

ジャス

へぇ~!

寺田

いろんな菌が入って、その菌のバランスのなかでできる麹というのが、
お酒の命となっているんじゃないかなと思いますね。

ジャス

そしてこれは、玄米麹ですね、「むすひ」の?

寺田

そうですね。これは今日で3日目、明日完成するので甘みもまだ途中ぐらいですが、
麹本来の甘みを感じていただければと思うので、
どうぞちょっと味見してみてください。

ジャス

……あ、本当だ。ほんのりの甘みが。でも美味しい。

寺田

明日になったらもっともっと甘くなって、
玄米由来なので、複雑な味と香りになっていくんです。
お米、玄米のままの成分というよりも、麹菌がつくことで、
栄養成分も4倍ぐらい増えて、お米自体の成分がどんどん変化していくんですよ。
たんぱく質を分解するプロテアーゼとか、でんぷんを分解するアミラーゼとか、
いい麹菌は麹のなかで酵素をたくさん蓄えるので、いい麹ができあがるんですね。
うちの場合この麹菌のもともとの菌が稲麹という、
田んぼから採ってくる麹菌を使っているんですよ。

ジャス

稲麹って、なかなか聞かない言葉ですね。

寺田

稲麹自体はどこにでもあると思うんです。
でも、それを実際麹づくりに活用しているところは、なかなかないかもしれない。

ジャス

確かに、普段は日本でもほんのわずかしかない種麹屋さんから種麹を頼んで、
お酒をつくっているところがほとんどですね。

寺田

そうですね。それは普通のつくり方なんでね。
うちの場合は、自分のところで育っている麹菌を持ってかえってきて、
それをお米につけて、種麹をつくっちゃう。本当に地元の菌で。
お米の品種でも在来種のように、昔からつくっている品種って、
よく麹菌がつきやすいんですよ。
病気になりやすくなったりとかもあるんですけど、逆に微生物がつくことで、
発酵しやすいんじゃないかなと思うんですね。
だから、本当の酒米というのは麹がつきやすくて、発酵しやすいお米じゃないかな。
一般の酒米って、精米しても割れにくいのがいいお米だ、と言われているんですけど、
うちではね、稲麹がつきやすい米がいい酒米なんじゃないかなと思っているんです。

ジャス

そういう意味では、各地域のお酒ならではの持ち味というか、
それを上手く表現するにはやっぱり地元の田んぼで……

寺田

そう。地元の田んぼで育った菌。

ジャス

そう考えると地酒という言葉って、
定義自体が普通とはちょっと違う捉え方になりそうですね。
酵母にしても、地元のものを活用するのではなくて、
違う地域の研究所でつくった酵母を使っている“地酒”って多いから。

寺田

うちのは“本当の地酒”って言ってね。うちの麹菌は地元の菌で、
酵母菌も蔵づき。人工的な酵母菌を添加してないですね。
自然にブクブクわいてくる菌を生かして、
すべてあそこら辺にいる菌でできるんですよ。
どこかのラボでつくって、地酒だ! と言うより、
地元でいいものをつくったら、微生物が現れてきてくれて、
それで発酵しはじめてくれる。
身土不二、地産地消、いろいろ言い方考え方がありますが、
そこの地が持っているエネルギーを、そのまま取り込むということが、
良いお酒づくりに繋がってくるんじゃないかなと思います。
微生物やお酒の発酵でもそうだとは思いますが、
その土地のエネルギーを取り込むという点では、
もしかしたら、人間でも同じことが言えるんじゃないかな。

 

次回は、発酵料理家でもあるなかじさんに、とっておきの麹レシピを教えていただきます。
to be continued!

information

map

寺田本家

住所 千葉県香取郡神崎町神崎本宿1964
TEL 0478-72-2221
常時の蔵見学は行っていません。
http://www.teradahonke.co.jp/
 

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