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連載

林業のまち日田市のユニークな弁当
〈きこりめし〉と〈かっぱめし〉に
込められた思いとは?

NIPPON 47 Beer Spots&Scene!
全国、心地いいビールスポット
vol.028

posted:2016.7.22  from:大分県日田市  genre:食・グルメ

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〈 この連載・企画は… 〉  その土地ならではの風土や気質、食文化など、地域の魅力を生かし
地元の人たちと一緒につくった特別なビール〈47都道府県の一番搾り〉。
コロカルでは、そのビールをおいしく飲める47都道府県のスポットをリサーチしました。
ビールを片手に、しあわせな時間! さあ、ビールのある旅はいかがですか?

writer profile

Yuichiro Yamada

山田祐一郎

やまだ・ゆういちろう●福岡県出身、現在、福津(ふくつ)市在住。日本で唯一(※本人調べ)のヌードル(麺)ライターとして活動中。麺の専門書、全国紙、地元の情報誌などで麺に関する記事を執筆する。著書に『うどんのはなし 福岡』。 http://ii-kiji.com/

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撮影:武田洋輔

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Supported by KIRIN

47都道府県、各地のビールスポットを訪ねます。
大分でコロカルが向かったのは、林業のまち日田市。

切っても切れない日田とスギのつながり

かつて幕府の直轄地・天領だった大分県日田市。
大分県の西に位置し、山々に囲まれた自然豊かな土地です。
そんな山々からの清らかな水が川へもたらされているため、水も豊か。
日田天領水といった名水でも知られる水郷なのです。
日田市の中央を悠々と流れる三隈川は
このまちのシンボルとして市民から親しまれています。

北の山中には小鹿田焼(おんたやき)で知られる小鹿田地区があります。
自然の力を活用した古来から変わらない作陶のスタイル、
そしてその作品は「世界一流の民窯」と称えられ、
昭和29年には世界的陶窯の権威であるバーナード・リーチさんが
およそ1か月にもわたって小鹿田に滞在し、作陶に打ち込みました。

そんな日田では古くからスギの栽培が盛んで、
質にも優れていたため、幕府にも献上されていました。
この日田では、木といえばスギなのです。良質なスギが天に向かって
まっすぐと伸びている姿は「日本三大美林」とも称されています。

日田市街地から少し離れるだけで、豊かなスギ林が広がります。

そんな日田のスギは、古くから〈日田杉〉という名前で親しまれてきました。
日田杉の栽培は戦中にピークを迎え、
政府によってどんどんその植林は促進されていきます。
ただ、終戦となり、木材に代わってプラスチック製品などの素材が
安価で手に入るようになると状況は一転。日田杉の需要は激減します。
それでも一度植えたスギはそんな事情もお構いなしに、
その後も勢い盛んに育っていき、増える一方という状況になってしまいました。

乾燥を待つスギの丸太。その加工場は日田市内に点在しています。

日田杉の有効活用は、日田市にとって昔からの懸案事項です。
そのためのアクションもありました。
例えば、日田杉の大半を占めるヤブクグリ種は、
質の高いものは梁や柱といった建材として流通させ、
中心部が黒く建材に向かないものや根元の曲がった部分は
日田の伝統工芸〈杉下駄〉に加工されています。

数え切れないスギが加工されていますが、それでも手つかずの間伐材はなかなか減らないのだそう。

ただ、それでも抜本的な解決策にはなりません。
そんななか、この日田のスギを、ひいては日田の森を
どうにかしなければいけないという気運が高まります。

高台から見た日田市街地の眺め。こうして見ると、山々に囲まれた盆地であることがよくわかります。

きっかけは東京在住の画家、牧野伊三夫さんが
岐阜の家具メーカー〈飛騨産業〉の仕事をしている際、
日田と飛騨がとても似ていると感じ、実際にこの地を訪れたのが始まり。
それから多くの仲間を巻き込み、〈ヤブクグリ〉が発足します。

〈ヤブクグリ〉とは、「いま、森を見よ!!」というスローガンを掲げ、
日田市を舞台とし、林業再生を軸に据えたまちづくりを考えるグループです。
会員は地元日田のクリエーターや市職員、観光協会の面々がおよそ半数を占め、
福岡、東京などからの参加者もいます。

このヤブクグリでは中心的会員が「web係」「プロデュース係」といった
“係”として活動していますが、「広報係」を務めているのが、
日田唯一の映画館にして、全国から注目を集めるカルチャースポットでもある
〈日田シネマテーク・リベルテ〉の館長、原茂樹さんです。

リベルテには原さんとつながりのある作家たちの作品が並びます。

日田の頼りになる兄貴的存在。お人柄を慕い、全国から友人、知人がリベルテにやってきます。

原さんがヤブクグリに参画したのは、牧野さんとの関係がきっかけだそう。
「もともとメンバーに入るつもりはなかったんですよ。
映画館の運営だけでも結構な労力を使いますし、
やるとなったら中途半端ができない性格なので……。
ただ、牧野さんと話をするうちに、さまざまな考え方が同じだと思えるようになり、
そのご縁で力を尽くす決意をしました」

原さんが営む映画館は実に老若男女が訪れます。
そんな原さんが広報係を務めることで、
森と人との“ハブ”ができたような印象を受けました。

牧野さんの作品。取材時、ちょうどリベルテで企画展が実施されていました。

ヤブクグリの活動のひとつがこのリトルプレスの発行。牧野さんによる寄稿、そしてイラストが収録された贅沢な1冊です。創刊準備号のはずなのに3号もリリースされているというのがおもしろい!

ヤブクグリについてまとめたリトルプレスはペーパーナイフで開き、読むという仕掛けが施されています。そんな遊び心がニクい!

ヤブクグリが森に人々の興味を向けるために考案したのが〈きこりめし弁当〉です。
「例えば林業と無縁の人生を歩んできた人たちに、
いきなり『森のことを考えよう!』と呼びかけても、その言葉は届きにくいですよね。
何か仲介するモノが必要だと考え、そのアウトプットがこの弁当でした。
おいしいっていう感覚は老若男女問わず、伝わりやすいですからね」

きこりめし弁当はいわゆる松花堂弁当のような豪華なものではありませんが、
手づくりの素朴なお弁当。きこりが汗を拭いながら、
森の切り株に腰掛けて食べる姿がすぐに思い浮かびました。

この思わず持って帰りたくなる包装紙は牧野さんが手がけています。

麦飯に漬物、ごぼう、そのほか鶏肉やしいたけ、煮たまご、こんにゃく、にんじん、栗が一度に楽しめます。

きこりめし弁当をつくるヤブクグリの「お弁当係」が、
日田で創業80年の老舗料理屋〈寶屋(たからや)〉を営む
佐々木美徳さんと靖子さんのご夫婦。
会員たちと意見を交わしながら、商品開発をしたといいます。

一見した派手さはありませんが、よく見ればご飯は麦飯、
煮物は面取りがしっかりなされていて、その仕事の細やかさに、
つくり手の愛情をたっぷり感じました。
「食材は鶏肉、しいたけ、栗など、どれも日田産なんですよ」と、
美徳さんと靖子さんは、我が子を自慢するかのようにうれしそうに教えてくれました。

注目すべきは、ご飯の上にデーンと横たわる、まるで丸太のようなごぼう。
一度、炭酸で炊き、やわらかくしたうえで、醤油や酒などで味つけし、
素揚げしたという手間ひまをかけた一品で、
これを日田杉でつくった特製のノコギリで丸太を切るように食べます。
ごぼうを木のノコギリで切る。たったそれだけの行為なのに、これが実に楽しい! 
噛みしめるたびに自分でカットしたごぼうから
旨みがジュワッジュワッと染み出してきて、
これにはきこりでなくとも思わず笑みがこぼれること請け合いです。

とてもスムーズにカットできる点においても、職人さんの技量に感心しきりです。

器も独自に開発したもので、薄くスライスしたスギでつくったわっぱに、
シュロの皮で留めたシンプルながらも創意工夫が盛り込まれたパッケージです。
「弁当のフタを広げたとき、ふわーっとスギの香りが立ち上るでしょ。
これが食欲をそそるんですよ」と美徳さんは教えてくれました。

さらに箸袋は〈ヤブクグリ新聞〉になっていて、地元の新聞記者による
「いま、森を見よ。」と題した林業の記事が掲載されており、
お弁当を食べながら日田の森林に想いを馳せられる仕組みに。

第一線で活躍するクリエーターたちが知恵を絞っただけあり、至るところにアイデア満載です。

「この弁当そのものが広告塔なんです。
僕たちは弁当というよりもメディアをつくったと言えますね」
原さんのその言葉どおり、このきこりめし弁当は
新聞や雑誌、テレビ、ポスターなどさまざまなジャンルの中から
その年度の優れた作品を選び、表彰する〈ADC賞〉を弁当として初めて受賞しました。

丸太に腰掛け、きこりめし弁当とビールで乾杯!

「食べておいしい弁当であり、購入してもらうことでその金額の1割が
森林における基金となります」と原さんはやさしく微笑みます。

〈きこりめし〉が山の弁当なら〈かっぱめし〉は川の弁当

三隈川は日田市民のオアシス。河川敷には遊歩道も整備されています。

もうひとつ、ヤブクグリが開発した日田ならではのお弁当があります。
それが、三隈川にスギの丸太を筏にして流していたところに着目してつくられた
〈三隈川かっぱめし〉です。

こちらもきこりめし同様、日田杉の容器を採用。
3本連なる細巻きは、丸太の筏に見立たもの。
加えて、唐揚げ、漬物、甘めの卵焼きがイン。

シンプルですが印象深いお弁当です。長い細巻きが3本という潔さが興味をそそります。

細巻きには高菜、かんぴょう、キュウリという、
かっぱを連想する緑の食材を使うというこだわりがキラリと光っています。
また、有明海の海苔、地元日田の醤油といった脇役にも妥協がありません。
細巻きは約20センチと長いので、豪快に片手で握って頬張るのがおすすめ。
お箸の包装紙はくじ占いになっているのもユニークです。

三隈川を愛して止まない原さん。日頃からこの川辺が散歩コースなのだそう。

森を考えたとき、その先にあるのが、山が蓄えた雨が流れ出ていく川。
つまり川は山とも切っても切れない存在だと言えます。
水郷として知られる日田のシンボルが三隈川なのです。
毎年5月20日過ぎの最初の土・日には海開きならぬ、
川開きを祝う祭りがあり、多くの人で賑わいます。
三隈川は屋形船が浮かび、鵜飼が営まれる、日田にはなくてはならない場所。
そんな川をもっと美しく保ち、多くの人に訪ねてきてほしいという願いをこめて
かっぱめしが発案されました。

取材時の三隈川の様子。ちょうど梅雨時期だったこともあり、水位が上がっていました。その流れの早さに、雄大な自然を感じました。

夕日に赤く染まる三隈川に屋形船が浮かびます。「夕暮れ時の光景は感動的ですよ」と原さん。(写真提供:原茂樹)

こうして日田で生まれたふたつの弁当。
原さんたちはいま、その先のことを考えているそうです。
「例えば、『いま、森を見よ!!』というスローガンで進めてきましたが、
いよいよ見るだけでなく、アクションを起こす段階ではないかと思っています。
もっと日常的に森に関わるにはどうしたらよいか。
そのひとつの手段として山を所有するのもおもしろいな、と。
弁当を買って食べる。その食べる場所が山だったら、言うことなしですよね。
そんな山を、実はこつこつ探しています」

いい山が見つかれば、さらに弁当の可能性が広がりそうです。

加えて、原さんは「大きな計画じゃなくてもいいんです」と続けました。
その意味を咀嚼すると、大きな物事には「大変そうだ」
「時間がかかりそう」「そのお金はどう工面するんだ」という意見がついてきがちです。
一方で数万円もあればできるような小屋をつくり、
そこで日田杉について実際に触れてもらおうというような話であれば、
気軽に実行に移せそうです。

「ヤブクグリが発足した際にも、スギの丸太を使って
何かユニークな試みができないかと思案し、三隈川に筏を組んで浮かべました。
それくらいの小さな一歩でいいんです。
30年後、50年後を見据えて、ゆっくり、そしてロングに
物事を考えていければいいなと思っています」

きこりめし弁当、三隈川かっぱめしの販売は、いずれも寶屋にて、
前日までの予約制になっています。価格はそれぞれ880円。
林業の未来を切り拓くきっかけになる可能性を秘めたふたつの弁当。
ぜひ日田の自然の中で味わってください。

今回飲んだのは、
地元の人と一緒につくった
〈キリン一番搾り 大分づくり〉

「自慢は下手だけど、誰より地元に誇りを持っている」と言われる大分の人。そんな地元の人と地元のことを語り合ってつくられたのが、この〈キリン一番搾り 大分づくり〉です。パッケージのイメージカラーは、緑色。さて、その味わいは……。

キリン一番搾り 大分づくりってどんなビール? →

※一番搾り 大分づくりは、大分の誇りを込めてつくった、大分だけの味わいです。

問合せ/キリンビール お客様相談室 TEL 0120-111-560(9:00~17:00土日祝除く) 
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ヤブクグリ

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日田シネマテーク・リベルテ

住所:大分県日田市三本松2-6-25 日田アストロボール2F

TEL:0973-24-7534

営業時間:10:00~22:00 *閉館時間は作品により変更する場合あり

定休日:金曜日