連載
posted:2020.9.1 from:大阪府大阪市 genre:活性化と創生
sponsored by 大丸・松坂屋
〈 この連載・企画は… 〉
日本各地に店舗を構えている〈大丸・松坂屋〉が、
それぞれの地域のまちや人々の課題をお客様と一緒に考え、応援していく社会貢献への取り組み「Think LOCAL」。
その一環として今回実施する「買って、食べて、参加して!キャンペーン」は、コロナ禍によって影響を受けた、
地元や全国の施設・団体を支援するというもの。この特集では、大阪と兵庫で対象となる“伝統”を支える団体に着目します。
大切に育まれ、愛されてきた伝統は、その地域にとってどのような存在なのでしょうか。
writer profile
Yusuke Nakamura
中村悠介
なかむら・ゆうすけ●編集者。京都市在住。このところのルーティンはクラシックな銭湯巡り。サウナではなく銭湯派。
https://happenings.cc/
photographer profile
Kaoru Kuwajima
桑島 薫
うどん県東端で映画と雑誌が世界のすべてだった青春時代を経て、単身渡米。サンフランシスコで写真を学ぶ。4年後、日本文化に魅せられ帰国。関西を拠点に食や伝統文化のプロジェクトに携わる。近年は「京焼今展」「Google日本の匠」等で撮影。写真を通じて生まれるご縁とミラクルが好物。
http://kaorukuwajima.com/
コロナ禍によって、大阪の伝統文化である文楽も、
公演を自粛するなど、多大な影響を受けた。
そこで文楽公演の復帰はもちろん、その先にある活動を見据えて、
「Think LOCALー買って、食べて、参加して!キャンペーン」にて
(※このキャンペーンは終了しています)
文楽協会を支援する活動が始まった。
まずは初心者でも楽しめる文楽の魅力を知ってほしい。
文楽は約300年前から続く、大阪が世界に誇る伝統芸能。
伝統芸能、といわれるとちょっと身構えるかもしれないが
実は昔も今も庶民のためのエンターテインメント。
少しの準備さえすれば、この古くて新しい魅力に気づくはず。
文楽の世界をちょっとのぞいてみませんか?
江戸初期の「大坂」で生まれた文楽。その正式名称は「人形浄瑠璃文楽」で、
『曽根崎心中』などの名作を次々に生み出した竹本義太夫と近松門左衛門による
作品を上演した「竹本座」を皮切りに、大阪のまちで発展した総合芸術である。
三業(語りの太夫、三味線奏者、人形遣い)が一体となり繰り広げられる人形芝居で、
その演目は大きく時代物、世話物、景事の3つに分けられる。
時代物は鎌倉から戦国時代の歴史物語、
世話物は江戸当時の恋愛や事件などを主題としたドラマ、景事は華やかな舞踊劇。
世界にも類を見ない伝統芸能として、
2008年にはユネスコの無形文化遺産にも登録されている。
ずばり文楽とは? 大阪と文楽の関係とは?
これからの文楽の魅力をどのように捉え、発信しているのか?
舞台上のパフォーマーである太夫と三味線弾き、そして人形遣い、
3人の若手技芸員(ぎげいいん)に話を聞いた。
「大阪は、負け続けていても阪神タイガースをとことん応援するまち。
これだけ身びいきの強い大阪で、なぜ文楽最高! と言ってもらえないのか?
そこはまだまだ僕らの発信や提案が足りないからだと思っています」
そう語るのは太夫の竹本織太夫さん。
織太夫さんはいわば文楽という大阪カルチャーのスポークスマン。
舞台以外でもテレビやラジオへの出演、
そして自著『文楽のすゝめ』『ビジネスパーソンのための 文楽のすゝめ』などを通し
文楽の魅力を精力的に伝えている。
舞台で義太夫節を語る太夫の役割は、ただのナレーターにあらず。
舞台上手から、同じ演目内に登場するさまざまな人物を、
ひとりで語り分ける声の役者でもある。
織太夫さんから見た文楽の魅力は、日本文化が詰まっていることだという。
「まず文楽は日本語でやっている、ということです。
外国の音楽の歌詞よりは、わかろうと思えばすぐに理解できるはず。
それに文楽には文学、音楽、宗教、風習、歴史、そして本質的な精神性に至るまで、
日本のすべてが詰まっている、といっても過言ではありません。
囲碁を学ぶことや、俳句だって知ることができる。そこが大きな魅力なのです」
特に「関西人は文楽を2割増しで楽しめる」素養があるという。
なぜなら、舞台の多くが関西だから。
「文楽を見ると大阪のまちはアミューズメントパークのように見えてくると思います。
曽根崎だったり、北浜だったり、
大阪の人が知っている地名がいろいろと出てくるわけです。
観光視点としては、大阪にはお好み焼きや〈USJ〉もあるけれど、
文楽もありますよ、という提案をしています。
“いくたまさん”や“お初天神”など、
演目に出てくるスポットを巡礼することもできますしね」
今回、文楽協会を支援している〈大丸〉の
「Think LOCALー買って、食べて、参加して!キャンペーン」。
(※このキャンペーンは終了しています)
大阪の心斎橋出身という織太夫さんは、
その〈大丸〉心斎橋店に個人的にも忘れがたい思い出があるそうだ。
「私たちの源流は道頓堀の竹本座ですが、
昔の竹本座の納入記録には
大丸さんから人形の衣裳が納品されていたという帳面も残っています。
だから大丸さんと文楽は、300年のご縁があるのです。
それに私の小学校の通学路には大丸さんがあった。
当時は地下通路にあったクッキー屋さんで、
毎日、試食用のクッキーをいただいて帰ったものです(笑)」
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文楽における三味線は物語のBGMでもあり、登場人物の心情を音で表す役割。
次にお話をお聞きするのは、三味線の鶴澤友之助さん。
友之助さんは父がピアニストで母がヴァイオリニスト、
そして自身はコントラバスを演奏していた経歴を持つ。
しかし文楽の世界では「それが逆に邪魔をした」というからどういうことだろう。
「文楽の音楽である義太夫節(ぎだゆうぶし)は日本の民俗音楽のひとつで、
テンポがない所もあれば、音程のとり方も独特です。
西洋音楽とは異なる常識が多く、
微分音(ピアノの鍵盤では出せないような、半音より細かく分けられた音程)も
よく出てきます。
その音がどうしても気持ち悪く、ずっと違和感を持ったまま弾いていました。
“この音は文楽では正しい”と脳がきちんと理解するのに、
10年くらいかかりましたね」
三味線は物語を支える骨格でもあり、物語を彩る装飾でもある。
その演目を語る太夫の肺活量や息継ぎにも合わせて弾かなければならない。
「ミュージシャンというより職人」というのもうなずける。
「義太夫節と三味線の関係、飽きさせない展開やテンポなど、
音楽が本当によくできています。
ストーリーを深く読み込んで弾く、それが三味線弾きの難しさでありおもしろさです。
驚くシーン、慌てるシーン、それぞれどんな音を、どんな間(ま)で弾くのか、
すべてが細かく計算されています」
相反する感情や矛盾する状況、人間世界でもよくある「心の機微」を、
三味線ひとつで表現するというのだ。
「お姫様が怒っているシーンならば、お姫様成分と怒っている成分を
どのくらいのバランスで弾くのか、力は入れるけれど荒々しくは弾かないなど、
三味線はお腹(心)で弾く、とよくいわれます」
文楽は「観にいく前にあらすじなど下調べをしてから観ると魅力がぐっと広がります」
という友之助さん。
SNSでも草の根で自身の活動を伝えている。
「学生時代に文楽を観たけど途中で寝てしまった方も、
けっこういらっしゃると思います。
ですが大人になってから見たら、文楽のおもしろさは掴みやすい。
世話物にあるドロドロの人情物など、今の世の中にも通じる物語はたくさんあります。
ただ、知るきっかけが少ないだけで」
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文楽の人形遣いは、頭部と右手を操る「主遣い」、左手を操る「左遣い」、
足を操る「足遣い」の3名でひとつの人形を操る。
主遣いとなるまで、左遣い、足遣い、
それぞれ10年以上の修業が必要とされる厳しい世界。
人形遣いの吉田一輔さんは、その奥深さこそ魅力で、一生修業の身だと語る。
「常に基本に忠実に、ですね。
長い修業のなかで慣れてくると忘れてしまいがちなことですが、
今も基本をしっかり表現できているか?
基本動作のなかでも自分らしさを出しているか?
足遣い、左遣いがちゃんとついてきているか? などを常に考えています」
一輔さんが考える文楽の魅力のひとつは、人形ならではの感情表現だという。
それはある意味、人間を超えているものだ。
「もし人間がやったとしたら、おかしな動きがあったりするんですね。
例えば、後振り(うしろぶり)なんかはそうですね。
すごく悲しい場面で、背中を見せてパッと大きく手を広げる派手な振りですけど、
人間がそんなときにそんな動きをしたら滑稽ですよね。
でも人形だからこそ哀れに見せることができる。そんな表現は人形ならではです」
現在、一輔さんは劇作家・三谷幸喜さんとのコラボレーションした
文楽作品『其礼成心中』を手がけるなどジャンルを横断し、
文楽を現代の若い層に広める活動も行っている。
「なにか見てもらえるキッカケをこちらからつくっていきたい。
文楽には本当にいっぱい楽しんでもらえる要素がありますから。
だから、もう無理やりにでも見せたい(笑)。
もちろん人形だけでなく、三味線と太夫、
それぞれが全力でぶつかり合って生まれる相乗効果、それが文楽のおもしろいところ。
合わせるところは合わせる、でもあえて外して無視するところもある。
こんな表現を考えた先人たちを本当に尊敬しますね」
伝統を受け継ぐ点で大切にしているところは
「師匠の芸をしっかり見る、ということ」だという。
しかし普段の生活のなかでもつい注目してしまうことがあるそうだ。
「着物を着ている女性は気になりますね。電車でつり革をどんな風に持っているのか?
肘を張らないようにしているのか? など、見てしまいます。
上品で粋な方がいると、ちょっとした動きや仕草をついつい目で追ってしまいますね」
舞台が休演となっている現在、人と合わせることはできないが、
ステイホームでもひとり稽古は欠かさなかったという。
「2時間、人形を持つ中腰の体勢で稽古していました。
いくら足腰に自信があっても、人形遣いが使う筋肉は特殊です。
腕立て伏せでつけられる筋肉ではないのですが……、
今の時期は家で腕立てもしていますね(笑)」
太夫、三味線弾き、人形遣い、それぞれが共通して語ってくれたのは、
文楽にはまだまだポテンシャルがあるということ。
そしてコロナ禍の今でもその魅力を伝えるチャンスを模索したいということだった。
伝統芸能としては敷居が高く感じられるかもしれないが、
大阪の現在進行形のカルチャーとして捉えてみれば意外な新発見もあるかもしれない。
文楽にのめり込むのに、今からでも決して遅くはない。
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〈大丸・松坂屋〉の社会貢献「Think LOCAL」の一環として今回実施する
「買って、食べて、参加して!キャンペーン」にて、
(※このキャンペーンは終了しています)
支援先である公益財団法人〈文楽協会〉の鹿野謙一さんから、コメントをいただいた。
「文楽公演が中止になり、技芸員さんに少しでも役立ててほしいという趣旨で
多くのみなさまからご支援をいただける
大丸・松坂屋さんの『Think LOCAL』の取り組みに感謝します。
支援金は、新型コロナウイルス感染症対策を含め、
みなさまに文楽を安心してご覧いただくための
さまざまな仕掛けに充てたいと思っています」
information
Think LOCAL
Think LOCALとは日本の各地に店舗を構えている大丸・松坂屋が、それぞれの地域のまちや人々の課題をお客様と一緒に考え、応援していく社会貢献への取組みです。
2020年9月2日(水)~9月29日(火)の期間中、特設サイトでは「買って、食べて、参加して!キャンペーン」を展開。全国各地の名産・名品を大丸松坂屋オンラインショッピングで(一部は店頭でも)販売します。また、9月16日(水)~9月29日(火)は各地域の支援先をお客様ご自身で選んでチャリティできるコンテンツも用意。皆様からのご参加、お待ちしております。
※このキャンペーンは終了しています。
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文楽協会
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大丸心斎橋店
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