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1988 CAFÉ SHOZO

Local Action
vol.007

posted:2012.10.9   from:栃木県那須塩原市  genre:旅行 / 食・グルメ

〈 この連載・企画は… 〉  ひとつのまちの、ささやかな動きかもしれないけれど、創造性や楽しさに富んだ、
注目したい試みがあります。コロカルが見つけた、新しいローカルアクションのかたち。

writer's profile

Tomohiro Okusa

大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

旅人の目的地となるカフェ。また次へと旅立っていくために。

カップに入ったコーヒー豆や、透明のキャニスターに入った紅茶の葉が
ディスプレイされ販売されている1階を通り、
階段を上っていくとカフェが現れる。
古い建物を上品に、大切に使っていることが感じられる空間。
イスやテーブルの向きや配置、席それぞれの距離感が心地よい。
本の並べ方など、きちんとしているようで、ちょっとしたぬけがある。
堅苦しくない。だが、少しだけ背筋が伸びる気分だ。
自然にやっているようで、すべて計算されたバランスなのだろう。
何だか“はじっこ感”が落ち着くカフェだ。
「自分が気持ち良く仕事したい。来てもらうひとにも気持ち良くなってほしい。
お客さんのターゲット層とか“どんなお店にしたいか”なんて
考えたことはなくて、どうすれば気持ち良く過ごせるか。それだけです」
と話すのは1988 CAFÉ SHOZOの菊地省三さん。
店名の通り1988年にオープンしたこのカフェは、
オープン当初から雰囲気は変わらず、現在ある多くのカフェの参考にされた。
イスやテーブルがバラバラなのに統一感がある、
なんて今のカフェでは珍しいことではない。
が、ここでは20年以上前からやってきたことだ。

1階では、コーヒ豆や紅茶のリーフを販売。

本を横に倒して置く。空間に広がりを感じる。

オーナーの菊地省三さんは高校卒業後「やりたいことがなかった」と、
なんと海上自衛隊に入隊する。物腰やわらかい話しぶりからは、
まったく想像ができない体育会系キャリアに驚く。
そこで「自分でやらないと満足ができないんだと思ったんですよね。
団体でやっていると、楽しめはするけど自己表現はできないでしょ」と、
自分のお店を持つことを決意する。

その後、数年、東京に出てみる。
多くのひとがそうだと思うが、
東京は人口が1000万人以上にもかかわらず、
生活のなかで主に関わるひとは10数人程度。
「それでふと考えた。5万人の田舎だとしても、
きっと関わりを持つひとは同じく10数人なんだろうなと。
それなら東京にいる必要がないと思ったんです」

さらに東京での勝ち負けや、トップを取るという目標設定が当然であるという
社会に対しても違和感を抱いていた。
「東京でお店をやって、ただお金儲けをして意味があるのだろうか。
自分の生まれたところではない東京で自己表現しても、
意味がないのではないか。
それより自分の生まれたまちで自己表現できたら、
充実感が得られるんじゃないかと思いました」
省三さんの考える人生とは、競争ではなく自己表現だった。

ひとり旅が好きだったという。
特別何もないようなまちでも、個性の強い店が1軒、ひとがひとりいるだけで、
そのまちが目的地となる。いろいろなまちや場所を旅しながら、
やはり思い起こすのは自分の故郷だった。
「黒磯も、ひとがたくさん訪れてくれるようなまちにしたい。
だから旅人が好んで目的地としてくれるようなカフェをつくりたい
という思いがあります」と、旅人の視点を生かした店づくりを心がけた。

いたるところに蔵書が。旅ものが多いのが、省三さんらしさ。

まずは、ひとが歩いている“通り”をつくろう。

1988年当時は、すでに地方にシャッター通りが増え始めていた時代。
黒磯のこの通りも同様だった。
「自分がわくわくして他のまちに旅するような気持ちを、この黒磯にもつくりたい。
だからいろいろなお店をつくって、通りをつくろうと思ったんです」
お店ができると通りができる、通りができるとひとが集まる。
こうしたことは、確かに地方のほうがやりやすいし、可能性もある。
そして目的地になれる。
こうしてカフェ以外にも、
インテリア、洋服雑貨などのショップもオープンさせる。
もう数店は、省三さんの手を離れ、独立した運営も進められている。
「まちをひとが歩いているって素敵じゃないですか。
近くにショップを並べちゃえば、車を置いてひとが歩く」
たしかに車で走りながら歩いているひとの姿を見ると、
“ここに何かあるのかな?” と思わせる。
効果は徐々に現れている。ひとが集まるという意味には、
旅や観光だけでなく、“ここにお店をつくりたい”と集まるひとも含まれるのだ。
「小さくてもいいから、自己表現してくれるひとが
たくさん居てくれるといいんだよね。
そうすると、自然と強い集団になると思います」と、
無理のないかたちでの通りづくり、いや、まちづくりを思い描く。

そんなお店やひとが増えてくれば、黒磯が変わるのかもしれない。
20年、30年後、今の高校生が大人になり、東京のカフェで
“そういえば黒磯にもこんな感じのカフェがあったな。黒磯も悪くない”
と思ってくれたらしめたもの。
「黒磯に戻ってみようかなというひとが増えたら、
やっていた価値もあるんじゃないかな」と省三さんは、
自分が過去に出合ってきたカフェを思い浮かべる。
数々のまちで出合ってきたカフェには、たくさんの思い出がつまっているのだ。
「喫茶店は、ひとの数だけ物語が出てきそうな感じがするんですよ。
それは外に広がっていく」とひとが集まる場所のパワーを信じている。

最後にこんな例え話で締めくくってくれた。
「ヘトヘトになって死んじゃう渡り鳥もいるんですよ。
でもそんなとき、丸太が浮いていたら?
この丸太はどこに行こうとも思ってない、ただ浮いているだけ。
でも、この丸太でひと休みできたら、渡り鳥は次の場所にまた飛んで行ける。喫茶店なんてそんなもの」

もう一度、旅の目的地として黒磯に行ってみたくなった。

自家焙煎の煙突とコーヒーの香ばしさが迎えてくれる。

インタビューは、読書に集中できそうなこぢんまりとした席にて。

Shop Information

map

1988 CAFÉ SHOZO

住所 栃木県那須塩原市高砂町6-6
TEL 0287-63-9833
営業時間 1F(豆の販売)11:00〜20:00
2F(カフェ)12:00〜20:00
http://www.shozo.co.jp/

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