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桜坂劇場

Local Action
vol.001

posted:2012.2.28   from:沖縄県那覇市  genre:旅行 / 活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  ひとつのまちの、ささやかな動きかもしれないけれど、創造性や楽しさに富んだ、
注目したい試みがあります。コロカルが見つけた、新しいローカルアクションのかたち。

editor's profile

Yu Ebihara

海老原 悠

えびはら・ゆう●エディター/ライター。埼玉県出身。海なし県で生まれ育ったせいか、海を見るとテンションがあがる。「ださいたま」と言われると深く深く傷つくくせに、埼玉を自虐的に語ることが多いのは、埼玉への愛ゆえなのです。

credit

撮影:田子芙蓉

「映画館」から「劇場」へ。

那覇市民の台所、マチグヮー(牧志公設市場)のにぎわいを横手に外れると、
桜坂と呼ばれる細く急な坂がある。
アメリカの施政権下にあったときにはキャバレーやスナック、
バーが並び色街として栄えたが、
今はスナックが少々残る程度でかつての面影はない。

その桜坂のてっぺんに建つのが、桜坂劇場。
1952年に開業した「珊瑚座」という芝居小屋から歴史は始まる。
1953年に映画館に転身し「桜坂琉映館」と改称。
1986年11月に「桜坂シネコン琉映」としてリニューアルする。
そもそも沖縄は、映画興行の文化や歴史が、他の地域とは大きく異なる。

戦後しばらくの間、沖縄では、昭和初期の無声映画と、
新しいアメリカ映画が同時に上映され、多くの人が映画に親しんだ。
その後、沖縄を題材にした多くのインディーズ作品の台頭と流行を経て、
最近は沖縄国際映画祭が開催されるといった、
独自の映画文化を築きあげてきたという背景がある。
しかし、まちの小さな映画館だった「桜坂シネコン琉映」は、
2005年4月にとうとう力尽きてしまう。

なんとか那覇市内に映画館を存続させたいという想いを持った
県出身の映画監督・中江裕司さんを中心とする5人の仲間が
2005年7月に「桜坂劇場」をオープンさせた。
現在は、3つのスクリーンを擁し、年間300本上映するまちの映画館はそのままに、
カフェ「さんご座キッチン」と、
雑貨・本・沖縄クラフトを販売する「ふくら舎」も同時に運営しており、
さまざまな年代のお客さんでにぎわっている。

モーニングを食べられる店が意外と少ない沖縄で重宝するカフェ。
沖縄在住の工芸作家の作品が多く並べられるショップ。そして映画館。
ゆったりとした沖縄タイムに身をゆだねられる空間がつくりあげられた。

「映画だけでなく、音楽のライブがあったり、雑貨や本があったり。
経営側の都合ではなく、“お客さんは何を求めているのか”という視点でセレクトします。
一方でお客さんも、従来の映画館の枠組みを越えて、楽しみ方をセレクトするのです」
と話すのは、桜坂劇場を運営する株式会社クランクの上原力(つとむ)さん。
ショップにセレクトされているものも、沖縄の映画の歴史書や、
やちむん(沖縄陶器)の重鎮の作品、若手のテキスタイル作家の作品など。
どれも一般の土産物屋では手に入らないような個性的で手に取りたくなる品々だ。

映画館の薄暗いイメージを払拭する、明るく開放的なロビー。

沖縄の手しごとが集まるふくら舎。

沖縄の海を想起させる青い壁紙が印象的なホール。

市民大学を劇場で。

桜坂劇場の大きな特徴のひとつは「桜坂市民大学」という、
体験型のワークショップを主催していることだ。
「情報をただ消耗するだけではなく、情報を“つくる”ことも大切だという意識で、
従来にはない劇場のかたちをつくりあげていきました」
と上原さんは語る。

150ほどの講座が随時開かれており、市外や県外からも参加する人が多い。
それもそのはず。講座は、「おじーおばーのウチナーグチ(古くからの沖縄の方言)講座」や
「ウチナー芝居」といった沖縄の文化継承の講義から、
「映画の学校」や「脚本講座」という、映画館の特性を活かした講義もあり、
まさに、ここ桜坂劇場でないと受講できないものが多いのだ。

例えば、「おじーおばーのウチナーグチ講座」について、
「沖縄にくる方には“リアル”と“驚き”という二通りの体感の目的があるのですが、
ここ桜坂劇場は、沖縄の“リアル”の部分なのです。
つまり、ウチナーグチを使いたいという人が学びにくるのです」と上原さん。
なので、桜坂市民大学ではしっかりと使う場も与える。
桜坂市民大学学園祭と称し、講義終了後に成果発表の場が設けられ、
講師も生徒も鍛錬するそうだ。
その様子たるや「単に習いにきているという感覚ではなく、修行ですね」とのこと。
卒業生の中にはウチナー芝居の役者として活躍する人や、
実際に職業として身を立てる人もいるほど。その、講師と生徒の真剣さも人気のゆえんだ。

通常であれば、公民館やそれに準ずる場所で行われることの多い市民大学が、
まちの映画館で行われるということはとても珍しいのでは?
「珍しいどころか、映画館が文化発信の中心になるということ自体、
お手本がなかったのです。もう映画館単体では
人を呼び込むことは難しいと考えた代表の中江裕司が、
日本だけでなく世界中のスクリーンを視察してよい試みを吸収し、
“映画館”ではなく、総合的な“劇場”にしようと。そうしてできたのが桜坂劇場でした」
また、上原さんは、“開かれた場所”という言葉をキーワードとしてあげた。

「映画館は元来クローズドな場所で、
まず入り口にあるチケット売り場でチケットを買ってから
中に入らなければならなかったのです。
でも桜坂劇場では、チケットを持っていなくても中に入れ、利用できます。
映画館という場を“開かれた場”にし、さまざまな人に自由に出入りしてもらい、
いつも誰かがいる空間にする、という考えは新しいかもしれません」

その取り組みもあり、今では、桜坂劇場の会員は1万人に達した。
これは全国的にみても大成功と言える。
「本当に会員・リピーターに支えられています」と笑う。
運営に悩む全国のミニシアターも手本にしたいのでは? 
という問いに、上原さんはこう答えた。

「その土地に合ったやり方というのが必ずあるはずです。
沖縄は地域との結びつきや郷土愛がとても強いし、
興行などの一般的なランキングに左右されず自分の楽しみは自分で選ぶという意識が強い。
沖縄映画の歴史的、文化的な背景もありますし、この場所も昔からあった。
それが良かったのかもしれませんね」

赤い手すりの階段を上ったところは元々会社の事務所だった。今は桜坂市民大学の教室として使用されている。

桜坂市民大学。この日はヨガのクラスが開講中。若い男性も多い。

桜の見頃は2月上旬。桜坂の名にふさわしい光景が見られるという。

information

map

桜坂劇場

TEL:098-860-9555(劇場窓口)
営業時間:
桜坂劇場 初回上映30分前 〜 最終上映30分後
さんご座キッチン 9:30 〜 22:00(ラストオーダー)
ふくら舎 10:00 〜 20:00
http://www.sakura-zaka.com/

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