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つくるひとと食べるひとをつなぎ、
食文化を現代につむいでいく。
奥村文絵さん 後編

貝印 × colocal
「つくる」Journal!
vol.008

posted:2015.6.16   from:東京都中央区  genre:ものづくり

sponsored by 貝印

〈 この連載・企画は… 〉  歴史と伝統のあるものづくり企業こそ、革新=イノベーションが必要な時代。
日本各地で行われている「ものづくり」もそうした変革期を迎えています。
そこで、今シーズンのテーマは、さまざまなイノベーションと出合い、コラボを追求する「つくる」Journal!

writer's profile

Tomohiro Okusa

大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

credit

写真提供:山平敦史

前編【ひとをつなげるフードディレクターという仕事。奥村文絵さん 前編】はこちら

土地にある食を活かした商品開発。

奥村文絵さんは、フードディレクターという仕事をしている。
つくるひとと食べるひとをつなげる活動だ。そこで重要となるのが、
食文化をどのようなビジョンで伝えていくのか、ということ。
それはたとえばこんなこと。

「ある和菓子屋さんには、“その地域の在来種であるもち米を使って
大福をつくりましょう”と提案しました。
在来種は本来、その土地に一番適した品種だし、他にはない個性と物語があります。
安定した消費量をつくれば、農家のやり甲斐も生まれる。
お互いにチームを組みながら、土地の文化や歴史を商品として伝えることができる。
消費者が何気なく払っているお金が、地域の食文化を支えることになります。
志をもった生産者にひとりひとりが投資する感覚で、
私たちも食べながら、未来の希望ある食づくりに関わっている。
そういう有機的なつながりが生まれると嬉しい」

〈ごはんの学校〉にてプレゼンを熱心に聞く奥村文絵さん(右から2番目)。

おもに企業のブランディングという仕事のなかで、
企業や地域の歴史、技術、人材を活かしながら、さまざまな分野の専門家とともに、
メニュー開発だけでなく、店舗設計やC.I.、パッケージ、ウェブ、PRなど、
トータルで幅広い商品開発を企画し、ディレクションしていく。
そのときに奥村さんは、プロジェクトが終了したあとも、
彼らが開発を持続できる仕組みづくりにも気を配る。

「かつて料理は、家庭、学校、地域など、ひととひとの間にあるもので、
お金に換算するものではありませんでした。
けれども現在では、食べることすべてが商品になりつつあります。
都会の生活には、水一滴、葉っぱ一枚にも値段がついている。
100円で食べる生活と、1,000円で食べる生活では、あきらかに食べ物の質が違う。
食の世界が大きく変わりつつあるなかで、
売れる商品をつくればいいという短絡的なモノづくりの時代は終わり、
食の未来をデザインする、という発想へ向かっています」

ごはんの学校で習うフードディレクション。

そうした変化を捉え、希望ある未来に対応していくためにも、
奥村さんが取り組んでいるものに、〈ごはんの学校〉がある。
これは料理教室にはあらず。食をテーマにしたカタチを考える学校だ。
奥村さんが普段行っているフードディレクションを、
全6回の事例研究やディスカッション、演習などといった
ワークショップ形式で体験しながら、食に特化したデザイン的思考を深めていくもの。
そこで教わるのは、プロセスの大切さだ。

「ごはんの学校は、食の未来をどうデザインしていくか、を参加者全員で考える場所。
味だけを考えるのではなく、食の背景にある歴史や文化をふまえて、
つくる人と食べる人の役割をデザインする、という発想で商品開発してみよう、
というワークショップです」

こういうビジョンをもった仲間たちが、
各地で食の企画や商品開発を担ってくれれば、食の未来は明るい。

「プロジェクトのために東京からその土地に行って、打ち合わせをしてまた帰ってくる、
という仕事のやり方にも疑問がありました。
一年に一度のチャンスしかない食ですから、提案後にそれがどう育ち、
どんな姿で発展しようとしているか、地元にいないとわからないことも多い。
東京から出張で行くだけで、その土地を元気づけることが本当にできるのかな、
と自問してみるうちに、
それぞれの場所に知恵や発想、技術に長けたひとたちが
たくさんいることに気づいたんです。
今では、地元の人たちをプロジェクトの中心に据えて、
丹念に意見交換しながら、モノづくりを進めています」

ごはんの学校には、食に関係する仕事のひとから、まったく関連のないひとまで、
学生、社会人を問わずにさまざまな職種や業種のひとが集う。
それでも、みんなで共通のテーマについて話していかなくてはならない。
それ自体がいいレッスンとなる。

「実際の食の現場でも、職人、農家、デザイナーや営業マン、経営者が、
ともに話し合う場面は多々ありますが、職人気質が下地にある業界ですから、
話すことも聞くことも苦手な人が大勢います。
ディレクターは、その真ん中に立って、まだないかたちを想像させ、信頼を生むことで、
ひとと資本を動かしていく仕事。
真剣に伝えて理解してもらうことが企画の入り口なんです。
だから、ごはんの学校では、ディスカッションが学びの基本です。
みんな最初は自信がないけれど、回を重ねるごとにどんどん上手になっていきます」

Page 2

ごはんの学校からフードディレクターが生まれる!

今年4月に行われていたごはんの学校に実際に伺った。
この日は成果物を発表する最終日。テーマは「はちみつの旅」だった。
9名の参加者がそれぞれ考えた旅は、吹きガラスで手づくりしたはちみつ専用のガラス器、
婚約したカップルがふたりではちみつを集める旅のパッケージ、
利きはちみつのイベント、はちみつの秘密をちりばめた子ども用すごろく、
はちみつをテーマにした季刊誌など、「旅」の価値を時間、空間、出会いにまで広げた、
さまざまなアイデアが渦巻いている。
それぞれのバックボーンが異なるなかで、
生産者へのインタビューや歴史研究を通じて、
「はちみつの旅」という同じテーマから始まったワークショップは、
最終的には自分の個性に真正面から向き合う場へと変化していた。

ひとりひとりプレゼンテーションを行う。

持ち歩いて楽しむフレーバーはちみつ。

それぞれの発表に対して、奥村さんは講評を述べていく。
それは成果物のみならず、プレゼンテーションのやり方や、
ひとを巻き込むことの重要性など、大きな視点と小さな視点の両方を行き来する。

「なんでパッケージが重要なんだと思う? おいしければいいじゃない?」という
奥村さんからの問いかけに対して受講生が答える。
さすが最終回、するどい答えが返ってくる。
「デザインはアートではない。共感をどう生み出すか。色やかたちなどの表現は、
そのための手段だから」と。

空のビンがはちみつの旅へのきっかけをつくる。

はちみつを伝える手渡しサイズの季刊誌。

「味覚は個人的な感性ですよね。百人いれば、百通りのおいしさがある。
それなのに、おいしいね、って言いながら食事をすると、おいしさが倍増するんです。
だから食の企画には、個性と共感が共存していなくてはいけない。
自分だけの“おいしい”という感覚に終わってしまわないように、
距離を取って見つめるプロセスが必要なんです。
ごはんの学校では、参加者みんなが自分の企画に率直に意見してくれる。
冷静な目線と熱い心の交換。誰もがこのディスカッションがすごくいい、と言います。
参加者を10人以下に限定しているのは、このディスカッションを消化不良にしないため。
ごはんの学校を終えて、転職するひとも少なくないんですよ」

一滴の美しさを感じる吹きガラス製容器。

フードディレクションを教えるごはんの学校。
食というものは、もっともプリミティブなものであり、もっとも重要な文化。
それを現代的な感性や社会情勢、経済事情なども考慮して考えていく。
“ごはん”のことのみならず、
普遍的に通用するプロセスを習うことができそうだ。

修了式でははちみつのフードメニューが並んだ。

Information

ごはんの学校

講師:奥村文絵(フードディレクター)
対象:食のデザインに興味のある方、商品開発・企画に携わっている方(社会人、学生不問)
応募方法:申込書類一式をお送りください(書類選考あり)
詳しくはごはんの学校HPをご覧ください http://www.foodelco.com/
開校日程:年2回開校(春季・秋季)
     月1回、全6回コース
受 講料:48,000円(税込)
定員:10名
開校場所:Foodelco inc./東京都中央区入船2-7-1コイズミビル2F
問い合わせ先:ごはんの学校事務局 03-6280-4733
※ 次回ごはんの学校の募集については、決まり次第HPにて掲載いたします。

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