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梅原 真さん

Innovators インタビュー
vol.005

posted:2013.2.25   from:高知県香美市  genre:活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  地域を見つめることで新しい日本が見えてくる。
新しい視座で日本の地域を再発見していく人にインタビューする新ローカル論。

writer's profile

Tomohiro Okusa

大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

現場で答えを出していれば、デザインにNGはない。

日本の地域にある物産や観光をテーマにしたデザインワークを手がけ、
数多くのデザイン実績はもちろん、テレビや講演、インタビューなどに登場し、
“その道”の先導者として支持を得ている高知県在住の梅原真さん。

彼はグラフィック&プロダクトデザインによって、
日本の豊かな地域文化や風景を保全するという、
デザインの新しい力を内外に示した人物。
彼がデザインへ向かう姿勢は「風景を残すための仕事」だ。
この“ローカル・デザイン”の第一人者が生まれるきっかけは、“かつお”だった。

かつて一本釣りのかつお漁船は、効率の点で、巻き網漁船に押されていた。
全体の漁獲高も減少しているなかで、巻き網で獲れたかつおの
3倍の値段をつけないと成り立たないような状況だった。
そこでデザインの力でなんとかしよう思った。

「一本釣りの風景がなくなるのはイヤだったんです。
高知の意味がなくなってしまいますよね」と、梅原さんは関わりを持ち始める。

生まれた商品名は「土佐一本釣り・藁焼きたたき」。
キャッチフレーズは“漁師が釣って、漁師が焼いた”。
「“土佐のたたきはおいしいよ”ではデザインではないんです。
だからといって、変に洒落た言葉も漁師のイメージとかけ離れてしまう。
“漁師が釣って、漁師が焼いた”はそのまんま。
デザイン過多だと、さかながおいしくならないんです」

梅原さんの代表作となったパッケージ。派手なルックスが遠くからでも映える。写真提供:梅原デザイン事務所

これが8年間で20億円を売り上げる地場産業に成長した。
こうして梅原さんは「デザインで風景を保つことができる」という体験をした。

梅原さんは仕事を受けるときに、
まずは相手の「根性とやる気と本気度」を見る。
「人間っておもろいもんで、顔見て、話を聞けば、1分でわかる」らしい。
そしていざ仕事を受けたら、まず現地に赴く。
行ってみて、ひとと会わないとわからない。
そこをショートカットすることはできない。

梅原さんの目には、
このあたりを安直に考えてしまうデザイナーが増えてきたように映る。
「“農作物にちゃちゃっとデザインしたらいいでしょ”
みたいなものがたくさんあります。
第一次産業に簡単にデザインつけてね」
たしかにこの“地場デザイン業界”を先導してきたのは梅原さんだろう
(本人がどう思うかは別にして)。
「だからこそ、何でもかんでも真似したらいけない」と
警鐘を鳴らすのも梅原さんの役目。

地酒や地鶏ではなく、地栗。この商品は栗の危機を救い、いまでは栗の木を植える活動まで発展した。

梅原さんのクライアントである漁師や農家から、
デザインに対してダメ出しされることはほとんどないという。
それは何度も現場に行って、コミュニケーションを重ねているから。
「ココをこうしたほうがいいと、現場でディスカッションしているうちに、
デザインができてしまう」のは、梅原さんにとって当たり前。
答えはその現場で出すべきのだ。
その作業を怠り、
東京の事務所のパソコンで「ちゃちゃっとデザインしよう」としても、
いいものは生まれない。

そして、ローカルに住んでいることも重要だと語る。
「ぼくは1日3回、家でごはんを食べる。
川沿いの、景色がいい場所に住んでいて、自分の畑で野菜を育てている。
こういう自分の環境と普段の生活が、マーケットの素。
体内マーケティングと呼んでいます」

だから、お決まりのマーケティングは必要ない。
これは「六本木や渋谷のデザイナーにはできない」芸当だ。
普段の生活が、マーケティングの素であり、それはデザインの素。
もし東京から地元に帰ってきて、
ローカルで仕事をしたいと思っているデザイナーがいたら、
「その感覚を得るのに少し苦労するかもしれない。
でも早く“まっとうな生活”に戻れば大丈夫」ともいう。

トイレットペーパーのようなルックスの「土佐まき和紙」は、長く伸して巻物のような使いかたもできる。

考え方をデザインしていく。

すでに梅原さんの頭の中は次へシフトしている。
問題を解決することがデザイナーの仕事ではないか、
というモチベーションが新たなる地平へと進ませている。

そのひとつとして現在動き始めているのが「東北新聞バッグプロジェクト」。
もともと四万十ドラマという会社が古新聞を利用して制作していた新聞バッグ。
これは仮設住宅に住んでいるひとたちがつくるのに適している。
それを売ってお金にすることで「つくる仕事をつくる」ことができる。
その仕組みづくりも、デザイナーである自分の仕事ではないか。

まずは高知銀行に話をして、貯金をしたひとなどへのノベルティ用として、
大量に買ってもらうことにした。これは東北と銀行をつないでいくコミュニケーション。
この仕組みを利用すれば、高知銀行だけではなく、
その名前が他の大手企業に代わっても構わない。
高知銀行に依頼されて始めた仕事ではなく、システムをつくり、
高知銀行に提案したというプロジェクトなのだ。

震災からちょうど2年後となる、今年の3月11日からスタートするプロジェクト。写真提供:梅原デザイン事務所

パッケージや表面的なところではなく、
「考え方をデザインしていく」というフェーズに役割が移ってきた。
対象物をデザインするのではなく、ゼロからデザインを生み出していく。
矛盾しているようだが、梅原さんのデザインの役割は飛躍していく。

最初に戻る。
梅原さんがやりたいことは、風景を残すことだ。
彼は風景を、「豊かさの度合いを計るメジャー」だという。
「一体どんな暮らしをしていて、お金をどのように考えて、
何がどのくらい大事かということを風景が物語っている」

もちろん豊かな風景を残していきたい。
「僕はよくフランスに行きますけど、
長距離電車に乗っていて、いやな風景はないですね。
でも東京から京都に新幹線で移動する外国のツーリストは、
いかにいやな風景を見せられることか。
美しい富士山の手前には、無機質なパネル住宅や工場。
とても違和感を感じます」
例えばフランスは石の家と煙突、教会にステキな木、そして羊という農村風景。
これらは法律で定められていることだから、変なものは建てられない。
すると農業政策と観光政策が横にリンクしていく。
日本では、観光面では美しい里山の風景を残そうとする一方、
効率化を目指した農業を推進する。
「これでは何の意味もない」と梅原さんがあきれるのも理解できる。

かつてはすべて東京がやっていた。
地方のまちづくりすら東京がやっていた。だから青森と高知が変わらない。
こうなったのも「ローカルが自分たちの考えを持たず東京に委ねてきた」からだ。
地域のものを、個性ではなく、コンプレックスだと思ってしまっていた。
「こちらに考えがないとどうにもならないということを、
やっと気がついてきたと思います」。

例えば砂浜美術館。
梅原さんが25年前に手がけた、砂浜に大量のTシャツを展示し、
美しい砂浜そのものを美術館にしてしまうプロジェクトだ。
当時、大方町(現・黒潮町)の職員は、この砂浜に対して、
「これがある!」ではなく「これしかない」というネガティブシンキングだった。

“リゾート開発したほうがいい”などの意見に押しつぶされそうになったが、
今となっては「砂浜美術館のような考え方を持つまちが誇らしい」という
意見が出始めた。時間はかかった。

梅原さんの肩書きは、正直、もうよくわからない。
デザイナーではあるだろうが、
本人は「問題解決するひと」がデザイナーだという。
ローカルから始めて、ローカルの問題を解決していくべきなのだろう。
そんなデザインが梅原さんの作品には込められている。

長野県小布施町にある小布施堂がはじめた実験カフェ「えんとつ」の「栗ビスコッティ」。

profile

MAKOTO UMEBARA
梅原 真

高知市生まれ。デザイナー。1972年高知放送プロダクション入社。テレビ美術担当。スペイン、アメリカ遊学後、デザインを一次産業再生のために使いたいと、1980年梅原デザイン事務所主宰。1988年、高知県土佐佐賀町のかつお一本釣り漁業再生のため「土佐一本釣り・藁焼きたたき」をプロデュース。8年間で20億円の産業を作り出す。1989年、高知県大方町にて、4kmの砂浜を巨大なミュージアムに見たてる「砂浜美術館」をプロデュース。ゼロエミッション美術館として、2000枚のTシャツが砂浜で「ひらひら」する風景を作る。2010年モンゴルでひらひら、2011年ハワイでひらひら。1995年から(株)四万十ドラマのプロデュース。「四万十のひのき風呂」「しまんと紅茶」「しまんと地栗」などの商品開発をベースに、流域の産業を再生する。2005年、四万十川流域で販売するものはすべて古新聞で包もう! をコンセプトに「しまんと新聞バッグ」をプロデュース。ベルギーをはじめ世界に展開。現在TOHOKU NEWSPAPER BAG PROJECT進行中。デザインはモンダイ解決ソフトであると考えている。「一次産業×デザイン=ニッポンの風景」という方程式で活動する。 主な著作に『ニッポンの風景をつくりなおせ』(羽鳥書店)、『おまんのモノサシ持ちや!』(日本経済新聞経出版)『AXIS』(2011.8月号)

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